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黒幕ムーブで聞く良く有るストリートチルドレン事情

 妹ちゃんは目を輝かせながら肉をがっつき、逆にお兄ちゃんの方は、警戒心を露に、妹を庇う様にしながら俺を胡散臭そうな目付きで睨んでいた。


 まぁ、イブが大絶賛した『トールさま』が、彼女に抱かれていた赤ん坊だと分かれば、そんな目付きにも成るだろう。

 黙っていれば、ただの赤ん坊だしな! だがアルビノだがな!!


 そんな俺は、果たしてこの兄妹に自分の正体をバラすか否かで悩んでいた。

 ぶっちゃけ、教会に二人を(イブが)招き入れた時点で秘密を守って貰う事は確定事項だ。


 今は約束通り、食事を与えているからか特に何も言わないが、腹が膨れた後、同じ様に大人しくしている保証はない。

 まぁ、こちらを襲う可能性は少ないと践んでいるが。


 そんな事をやるヤツが、隠してあった保存食の持ち主を名乗る相手に、覚悟を決めて付いてくるなんて事はしないだろう。


 ()と言う存在を知る事、その存在を口外する事は、俺やイブにとってもそうだが、彼等自身にとってもリスクがある。

 俺がアルビノである事、そして、双子であった事で捨てられたと言う事実。

 記憶にある両親や、()()の存在。家に有った()()()()()()を見れば、己の出自なんて想像に易い。

 要するに俺自身が歩く醜聞(スキャンダル)の様なものな訳だ。

 それを知った市井の、それも親の居ない兄妹がどんな目に合うかなんて容易に想像がつく。


 俺の姿が普通の赤ん坊であったら、それ程問題なんて無かった。だが、白子(アルビノ)と言う唯一無二と言っていい特徴を備えてしまっている……赤銅のゴブリンライダーか禁忌のアルビノの二択とかどんだけだよ俺の人生。


 これも、別の町に行ってしまえば問題的には小さくなるんだろうけど、旅の危険性を考えてしまえば却下するしかない。少なくとも俺の実力的な部分で平気だと判断できる様になるまでは。


「もっと、たべ、る?」

「うん!!」

「スープも、ある、よ?」

「うん!!」


 角兎の香草焼きは妹ちゃんの口に合った様だ。

 彼女がモリモリと食べるのを見ながら、イブがスープを盛る。

 餓えた子供に、こんな消化があまり良くないものを大量に食べさせて大丈夫かとも思うが、スープだってあるし、まぁ、ほとんど食べる物なんて無かったんだろう。今日の所は腹いっぱい食べるが良い。


 さて、お兄ちゃんの俺達を見る視線も痛いし、そろそろ覚悟を決めるか。

 俺は、頭がちゃんと布で巻いてあるのを確認し、目元があまりハッキリとは確認できない様にしながら起き上がった。

 お兄ちゃんはビクリと体を震わせたが、妹ちゃんはポカンとしている。


「さて、初めましてと言った方が良いのかな?」


 何か、正体を隠していた悪役ボスっぽい言い回しになってしまった。別に悪い事なんて……天に唾吐く様な行為はやって無いな、うん。


「しゃ、しゃべった!!」

「いや、喋るけどさ」


 いったい人を何だと……あー、乳児が喋れば驚くのは当たり前か。その辺りの常識がスコンと抜けてるな、俺。

 赤銅のゴブリンライダーの時も同じ失敗してるじゃん、成長してねぇなぁ……あれから二ヶ月位しか経って無いけど。

 驚きで口をパクパクさせているお兄ちゃんとは対照的に、「どうだ凄いだろう」とばかりに鼻を膨らませるイブ。

 オジサン、イブさんの中の俺の立ち位置が分からなくなって来たんだけど? やっぱり、一回キチンと話し合った方が良いな。


「俺が喋っているとか今はどうでも良い。これからの話をしようか」


 お兄ちゃんが混乱しながらもぎこちなく頷いた。


 ******


 二人の名前はオスローとキャルと言うらしい。と言うか、正しくはオスロットとキャロラインだそうだが、両親からは最初の愛称で呼ばれていたんだとか。


 二人の両親は冒険者で、冒険をしながら旅をしていたんだそうだ。

 子連れで冒険者か、定住とか考えなかったんだろうか? 子供の為にも……あーそれはそれで何か職に就けないと意味が無いのか。


 色々大変だよな生きるって(遠い目)。


 さて、ここからは良く有る話。

 旅の資金が尽き、しばらくこの街に滞在していた二人の両親は、そろそろ旅を再開する為にと、その資金を稼ぐために()()()()()()依頼に出かけ、そして帰って来なかった。


 冒険者にとって実入りが良いって事は、それだけ危険度が高いって事だ。つまりは二人の両親は身の丈に合わない難易度の依頼に手を出したって事だろう。

 そんな物に手を出した冒険者が、ほんのちょっとでも運に見放されればどうなるかなんて、火を見るより明らかだ。

 そうして親の因果が子に祟ったそれが、二人の今の現状。


 親が不在で、帰る見込み無し。その上、ごく潰しの子供だけとなれば、商売をしている人間にとっては厄介者以外、何物でも無い。

 その為、二人は早々に宿を追い出され、ストリートチルドレンと相成った。


 これでもし、この街が孤児政策に力を入れていればまた違ったんだろうけど、この街の上の人は、下級市民を救うよりも、町の活性化や、上の方を肥えさせる事に重点を置いているらしいからな。

 露天商のおばちゃんが、()()税金が高くなったとかボヤいてたな。


 まぁそれはともかく、言い方は悪いが、流民の子供を救おうなんて殊勝な者も居ない現状、哀れ二人は露天の下って事に成った訳だ。


「で、お前らはどうしたい?」

「え?」


 イブは誘った、一緒に来いと。それを自分の主の元に来て罪を償うって意味だと勘違いしたんだろうが、今、兄弟はここに居る。

 ならば、俺は問わなけりゃならない。今後、二人がどうしたいかを。


 解放する事の方がリスクが高い事は分かって居る。だが、“生きて行く意志”の無い者に関わってやれる程、俺も暇じゃない。


 オスローが迷った様に視線を泳がせる。

 たぶん今までは、自分達が生きる為だけに生きて居たんだろう。ただ、それは動物が餓えない様に生きる為に、植物が枯れない様にする為に過ごしているのと何ら変わりはない。


 数か月前の俺だってそれは変わりは無かったが、しかし、今は家族を守ると言う‟生きて行く意志”を見出している。

 イブだって同じだろう。

 だから問う。


「お前は、これから何の為に生きて行きたい?」

「!! …………妹を守りたい」

「分かった、なら、俺は手を貸そう」


 そう言って、俺はニヤリと笑った。

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