酒場のおっちゃんの女房は、コレに似てるんだってさ
全長3mは軽く超す様な二足歩行する蛙の群れが、街道に掛った橋に群がっている。
見れば川の中から上がって来ては、横倒しになってる馬車を踏み砕いたり、馬を丸呑みにしたりして居る様だな。幸いと言って良いのか、動き自体は緩慢だし、より大きな物から口にしている様で、怪我をしている人間ってのは確認できない。
いや、それ以前に丸呑みにされてる可能性も有るんだけどさ。
商隊だったのか複数の馬車で構成されていて、荷物も積んでいたんだとは思うんだが、それらは薙ぎ倒され踏み潰され、最早商品価値なんて物を残してはいない様に思える。
なんか護衛と思しき屈強の男達に押さえつけられながら大声で嘆いてるオッサンとか居るし、商会長さんかな?
護衛があえて手を出さない所を見ると、腹いっぱいに成れば帰って行くタイプの魔物なのかもしれない。
「こんな所にトロルですか、珍しいですね」
「知っているのか! ルールールー」
「……え? ええ、そりゃ、結構有名ですし」
ちょっと戸惑い顔のルールールー。う~ん。前世ノリには乗って来てくれんかったか。当たり前か。
てかトロルか、北欧だったかの醜い妖精の事だったか? 確か2足歩行のカバモドキもトロルだった覚えがあるが、この世界だと蛙なのか。
「助けた方が良いんだよな?」
「どうでしょう? 基本、お腹が膨れれば帰って行きますし、動く物しか標的にしませんから、ジッとしてれば襲われませんし」
災害扱いみたいなものか?
それよりも。
「珍しい……のか?」
「ええ、普段はもっと下流の渓谷などに居ますし、この辺りだと食料になる魔物も少ないですから」
ああ、そう言やそうだよな。王都付近は魔物の出現率が低い。それはつまり、トロルにとっちゃ、餌が無いって事だ。なら、わざわざ餌の少ない地方に来るってのは、どう言う意図があるんだって話だ。
自分等にとって天敵と成り得る魔物が出たか、それとも渓谷の方が餌が少なくなったか……
ただ、見る限りでは痩せこけてるって様子はない。だとすると天敵の方かね?
「なぁ、ルールールー。それで、トロル共何時いなくなるんだ?」
「えっと、満足するまで食べるか、食べた物を消化し切ったら、でしょうか?」
「よし、潰そう!」
そんなん、待ってられるか!!
******
トロルと言う魔物は体が粘液で覆われているせいで斬撃が滑って効きにくい上に、ぶよぶよとした体のおかげで打撃もあまり効かない魔物だそうな。
その上、多少の斬撃が入ってもその粘液がすぐに止血をし、少々の傷じゃぁダメージに成らない。その上、麻痺毒を持ってるんで厄介な魔物だとか。
まぁ、俺達には関係ないけどな。
『【狙撃】【詠唱破棄】魔法名【ファイアランス】デス!!』
「ん! 【詠唱破棄】、【ファイアランス】!!」
合計100はありそうな炎の槍が、次々とトロルに着弾する。
13匹ほど居たトロルは、そのファーストアタックだけで、あっさりと全滅した。あー、今回出番なかったよ。オファニムまで纏ったのになぁ?
「トロルは騎士団が出て来ないと対処できないと言われているのに……」
ルールールーがまた遠い目に成った。
イブとジャンヌの【ファイアランス】、前より量も威力も上がってるな。
何と言うか、前世で爆竹蛙の口ん中突っ込んだ時のこと思い出したわ。なんでとは言わんが。
まぁ、取り敢えず、トロルは駆逐したけど、これって、獲物を横取りした事に成るんかね?
「なぁ、大丈夫か? これって、横取りとかに成るんかね?」
「え? いえ、向こうも静観していたわけですし、大丈夫かと」
こういう時、常識を分かってる人間が居ると良いやね。俺等、その手の暗黙の了解とか疎い自覚あるし。
殲滅し、移動を再開する。商隊の方の護衛のリーダーらしき人物が、こっちに声を掛けてきた。
寸暇も考えず、ルールールーの手を取って。
「オレは、『栄光の絆』のギャラハンだ、あんたのパーティー名と、名前を教えて貰えるか? 特にあんたの」
ハードレザーのアーマーに赤茶けた髪と日焼けした肌。精悍そうな顔の頬には一本の傷が走っている。
何と言うか、冒険者冒険者した冒険者だな。
見ると、「またかよリーダー」みたいな表情で、『栄光の絆』の面々がこっちを見てる。
ルールールーが、困ったような表情で俺を見たんで頷いておく。ガツンと言ったんさい。
「わたし達は『トール様と愉快な仲間達』の……」
「ちょ! 何だ!! そのパーティー名!!」
誰が決めた!! そんなん!! てか、パーティー名とか、別に決めてなかったじゃろ!?
「ですが、グラスさんが……」
よし! 帰ったらアイツ絞める!!
「D級冒険者のトールだ、コイツラは俺のチームメンバー」
「あまり変わらないではないですか」
「違うよ!?」
ペイっと、手を振り払われたにも係わらず、クックックッと、ギヤラハンが喉を鳴らした。
「成程? アンタが『黒鎧』か、運にだけは、恵まれてるって話は本当だった様だな」
俺のチームメンバーを見渡して、ギャラハンはそう言った。
途端に周りから殺気が湧き上る。
やめれ、喧嘩したって得はないからさ。そう思って、手で周りを落ち着かせる。
「おいおい、冒険者のくせにタマ無しかぁ? 女共に守られて、情けなくはないのかよっ!!」
コイツはコイツで何言ってんのかね? 家族がお互い守り合うのは当たり前ですから。
少なくとも家はな。
それに、実力は兎も角、幼児相手にイキってるこの男について、どう思う?
『【滑稽】ああ、成程、ある意味当たり前の事ですね。子供が大人に守られるのは』
『【納得】確かに、見当外れな事を言ってる訳デス』
『どう言う事?』みたいな表情のイブ達に、ファティマとジャンヌが、こしょこしょと耳打ちをすると、3人もそりゃそうだって顔になる。
実情を知らないからってのもあるが、だとしても、コイツの言葉は言い掛りにもならない。
関わり合うのも時間の無駄なんで、そのまま通り過ぎようとした、その時だった。
「貴様ら!! 弁償しろ!!」
商会長らしき男がそんな事を言ってきたのは。




