ポジティブで行こう
うん。謝ったら許してくれたよ? ティネッツエちゃん。
グレッソチューンの後ろに隠れたまま、目も合わせてくれんくなったが。
「しばらくは厳しいでしょうが、時間が経てば、落ち着くでしょう」
「そうか、なら、それまではお前が被験者な」
「お、おう、オジキが、そう仰るなら!!」
腰引けてんぞ? 代表。いつもなら父親と競り合う様に自己主張して来るゲーグレイッツァも、なんかおとなしいな?
まぁ、良い。
「俺が触るから、そこに意識を集中してくれ」
「は?」
そう言うと、俺はグレッソチューンの頭を掴み、プラーナを浸透させた。
「おっ! ふおっ!」
「黙れ、集中!!」
「ふぁ、ふぁいぃ!!」
「うわぁ、見たかなかったなオヤジのこんな顔。息子として」
あ、うん、完全に緩んだ表情と言うか何と言うか、大変見苦しいな。うん。もしかしてティネッツエちゃんもこんな感じにしちゃってたのか? あー、何と言うか、嫌われても当然かもしんない。
まぁ、それはそれとして。
「集中!!」
「ふひゃいぃ!!」
駄目かも知んない。
******
自分が集中すべき個所を自覚できたからか、俺がプラーナを浸透させるのをグレッソチューンが止めてくれと言って来た。
俺としては、そのまま観測させてくれれば良いとか思ってたんだが、何でも「むしろ集中できない」んだそうだ。
まぁ、出来そうだってんならやって見せるさね。
「ぬっ、うっ、ふう~ぬ!!」
「掛け声は良いから、どうにかして見せや」
そうは言っても、一朝一夕に行くとは思ってないんだがね。ぶっちゃけ、動かすにしろ何にしろ、どうしたら良いのかなんて分かんねぇだろうし。
そんな風にツラツラ思ってたら、グレッソチューンが、パタリと倒れた。ちょ!! おま!!
近寄ってみると、顔が青紫と言うか何と言うか、そんな感じに。一瞬チアノーゼかと思ったんだが、いきみ過ぎて頭に血が上ってのぼせただけっぽい。
「ゲーグレイッツァ、水とタオル持って来たげて」
「ウッス!!」
その間に風通しの良い所に引き摺って行く。
「オジキィ、すんません」
「構わんよ、そもそも俺だって、そんなにすぐに出来るとも思ってないしな」
「オレァ、自分が情けないんすわ。ちょっと前までコボルトの代表だなんだと、気勢を吐いてたってのに、この体たらく」
ぶわって感じで仰向けに寝転んだまま、涙を溢れ出させるグレッソチューン。って、ガチ泣き!?
「コボルトの先が無いってのは分かってました。だが、結局オレには、伝統を守る事しか出来なかった。だが、オジキ! オジキは違った!! アッちゅう間に、オレ等の生活を変えっちまった!! それも、良い方向へ!! 今回の事だってそうだ!! 本気でオレ達の事を考え、コボルト達の境遇を変えようと、こうして尽力して下すってる!! なのに! なのにオレァ!!」
うん。コイツもコイツで積年の葛藤ってやつが有ったんだろうな。どうして良いか分からなくて、目の前の壁さえ見えなくなってもがいてる時に、それを一足飛びにしちまう奴を見ると、どうしようもない程無力感に襲われる。
俺も前世では、良く味わった感情だ。
それでもグレッソチューンは、前向きにコボルトの未来を見据えて行動をしてたんだろうさね。だが、その上で期待に沿えないって言う、更なる無力感……
おおう!! 俺まで、ネガティブに引き摺られてるわ!!!!
「……で? だとして前はこれからどうしたいんだ?」
「え?」
結局、今のグレッソチューンは、今までの苦悩と、新しい環境での戸惑いと、それを自分が成せなかったと言う無力感。だからこそ、新しい環境での自分の役割って奴を自分の立ち位置って奴を見出そうと必死になってるって事だ。
ただ、これは、ソレを見出す事で自身のプライドを守ろうって、言わば下心的な物があるからって事でもある。
今までの栄光を忘れられなくて、新しい環境の中でもこれまでと同じ様な地位を望むって言うな。
「環境を変えられなかったってぇ後悔は分かった。これからのコボルト達の道行きを引っ張りたいんだって望みもな、だったら、これはチャンスだろう?」
「え? チャ、チャンス、ですか?」
「そうだ、出来ない事があるって事は、つまり、まだ、出来る事があるって事と同じ事だろ?」
「!!」
プライドだとか過去の栄光だとかを取っ払っちまえば、そこに有るのは結局“やるか”“やらないか”しか残らない。その上で、達成するまで“諦めないで続けるか”“諦めて終わりにするか”を選択できる様に成る。
今のグレッソチューンは、言わば“やりながら、諦めて、でも続けてる”ってややっこしい心情になってる状態なんだ。
だったら、変にややこしく考えるよりは思考はシンプルにした方が良い。
「で、お前はどうしたいんだ?」
「……オジキの言う、『能力の制御』できる様に成りたいです」
「なら、簡単だ。どうすればうまく制御できるかだけを考えてれば良い。特に、『出来なかったら』なんて事は考えずに、『これは無理だった。なら、他には?』って考えるんだ」
「そう、ですね……うん。そうだ」
そう言うグレッソチューンの表情は、さっきよりは幾分マシに成った様に見えた。




