好奇心がその猫を殺した(イタリアの諺)
自分が出来るからって、他の人間も同じ様に出来るとは限らんのよ。
それは何もできない側が劣ってるとかって話じゃなくて、それまで生きてきた前提条件が異なってるからなんな。
例えば俺には、ただの草にしか見えんものが、ヴィヴィアンには垂涎の薬草だったりする様にな。
その状態で、薬草探しの競争なんざすれば、余裕で負けられる自信がある。
それで、「お前、ドンクセェ奴だな、こんな簡単な事もできねぇのかよ」とか言われたら、ドロップキックをお見舞いするかも知んないわ。
なんで、一朝一夕上手く行かなくたって、別にそれを責めようとか思っちゃいないんよ。
まぁ、何が言いたいかと言えば。
目の前で泣きそうになってるコボルトっ娘、誰か慰めてやってくれ!! ハリーハリー!!
******
コボルトっ娘のティネッツエちゃんね、俺が大人も恐れるトールさんだって知って、もう半泣きになってたんだけど、持ち前の生真面目さ故か、それでも頑張って俺の言う通りに訓練を開始してくれたんよ。
けどまぁ、そもそも自分自身の身体の中に眠ってる力を如何こうしようなんて考えた事なんて無いだろうし、周囲の大人だって、能力の大小は才能に依存してるってのが定説になってた事も有って、生き物を操る力も、鉱石を嗅ぎ分ける力も鍛えようとかって事はしてなかったっぽいんだよな。
そんな中でも俺に言われたからって事も有って、分からないながらも、一生懸命何かを掴もうとしてくれてたんだけど、結局、初日は何の進展も無く終わったんだわ。
で、明けての翌日、なんか思いつめたような表情のティネッツエちゃんの顔を見た瞬間から嫌な予感はしてたんだが、一時間近くウンウン唸ってたと思ったら、突然、見る間に涙を溢れさせると言うね。いや、ホント焦った。
いや、多分4、5歳位だと思うんだが、そんな幼い子が、集中できるのなんて5分~10分が良い所だろうに、1時間だよ? 集中してたの。元々出来るかどうかも分からん事をさ。
賞賛こそすれ、怒るなんてこたぁせんわ。普通。
でも、ティネッツエちゃん真面目なんだろうね、昨日も出来なかったって事で自分を追い詰めちまってたんだわ。で、今日も出来なかったって事で、悔しくて悲しくて……
そんな話を抱きしめて、頭を撫でての宥めすかしてで落ち着かせてから、何とか聞き出したんよ。
後ろで見てただけ所か、なんかニヤニヤしてるグレッソチューンとゲーグレイッツァ、おまいら後で穴掘りエンドレスな。
そもそも、扱ってる力の根源がまだ分かってない状態なんだがね。それでもこうして訓練を開始したのは、俺の時だってプラーナだって判明したんがファティマとあって以降だったからだし、力の根源的な物の名前云々は、その力を扱うって事にはあんま関係ねぇんだろうって思ったからだ。
「ほら、目ぇ瞑って深呼吸して、俺の心音が聞こえるか? それに合わせてよ」
「うん」
俺の言葉に素直に従う。アイツらはこう言う所を見て、俺ん所連れて来たんだろうな。その意味じゃ、注文通りの相手ではあるんだが……
全くの手探り状態よりは、多少は取っ掛かりが有った方が良いか? まだ、仮説と言うか、朧気に俺の頭ん中にあるだけのモノなんだが、多分コボルトの扱ってる力ってのは短波とか低周波とか言われてる物なんじゃないかっって思ってる。
それが文字通り、音波なのか電磁波なのか光波なのかは分からんがね。いや、下手すりゃ魔力波みたいなファンタジー的な物かも知れんが。
“精神に作用する”“地中を探査できる”“青い肌に見える”って事を考えるとそれが一番しっくりくるんだわ。
まぁ、“精神に作用する”のは【低周波】で、“地中を探査できる”のは【電磁波】で、“青い肌に見える”のは【光波】って言うね、それぞで別の種類の波だから、確証にまで至ってないんだがよ。
そうか、今の状態なら、多少は確認ができるんか?
俺のプラーナを少し浸透させ、ティネッツエちゃんの中で、活性化してる、俺には無い力を探ってみれば、少なくともコボルトの使ってる力の片鱗位は探れるんじゃね?
「ティネッツエちゃん、今から俺のプラーナを浸透させて、君の力を探るけど良いか?」
「ふぇ? あ、うん、いいよ……あ、いい、です、よ?」
多少、慣れてくれたみたいだが、まだまだ硬いなぁ……まぁ、しょうがないか。
そんな風に思いながら、ティネッツエちゃんと輪を作る様に両手を繋ぎ、感覚を鋭くする為に目を瞑る。
なんか、「ふぇ!?」って声が聞こえたんだが、何じゃ? まぁ、良い。
そのまま、両手から浸透させる様にプラーナを流す。
「ふひゅううぅぅぅ……」
なんか、ティネッツエちゃんの力が抜けたな、緊張が解けたか? いや、そんな事を考えてる場合じゃないか。
そのままプラーナを治癒させる時と同じ様に、彼女に体に馴染む様に浸透させて行く。ティネッツエちゃんのプラーナに添わせる様に、波長を合わせ、同一化させ、彼女の身体の隅々まで見通す様に。
そして、俺とは違う、活性化している体の個所を探す。
「ふひゃ!! ひう!! ふやぁ!!」
ティネッツエちゃんが短い声を漏らしているが、ちょっと我慢して貰おう。もうちょっとで何かが見えそうなんだ。
彼女の身体の奥の奥までを覗き込む。
……もしかしてこれか? 額のチャクラがある場所。そこが他より活性化してる気がする。
「ひゅう!! ひゃぁ!! ひゅやぁ!!!!」
ただ、この活性化が一時的な物か、それともパッシブで活性化しているのかは、まだ分からない。
なんか、彼女が跳ねる様にビクビクしてる気がする。もしかしたらむず痒いのかもしれん。が、もう少し我慢して貰うしかない。確証が持てなけりゃ、無駄に成っちまうからな。
******
息を吐き、目を開ける。額の場所の活性化は、常に一定で継続していた。恐らくここで間違いないだろうな。あとは、この場所の力をどう動かして行くかか。果たして閉じる事が出来るのか、俺と同じ様に魔力庫の様な場所を作って、力を流し込んだりできるのか?
「って、うん?」
「ふにゅううぅぅ……」
ティネッツエちゃんがぐったりして俺に寄りかかっていた。ありゃ、我慢させ過ぎたか?
「いや、オジキ、ハンパねぇな」
「アニキ、流石に鬼畜すぎだろ」
おおう、二人からすらドン引きされてる。
う~ん、後でティネッツエちゃんに謝っておかなきゃなぁ。




