新たな訓練兵を召集する!!
固定観念が邪魔してイメージを作れないと言うのであれば、それに対してのブレイクスルーが必要だろう。
これって結構、簡単な様でいて難しいんだけんどもよ、ただこれが、誰でも良いんだが、一度成功してしまうと、何故かその周辺でも成功する人間が出てくるもんなんだよな。
経験ないかね? 例えば陸上短距離なんかで、9秒台が出て無かった時代なんかだと、その壁を破るのが難しかったし不可能にも思えた。
だが、それを一度出せる人間が現れると、それに続く様に次々に9秒台を出せる人間が現れた。
要は、これって、無意識に誰もが無理だって思ってたから、それが心理的壁となって、全ての人に共通の認識とされてたんだけど、それが、“やって見せた”人間がいる事で、『無理』から『出来る』に、認識が変わったおかげで、その心理的壁がぶち壊されたって事な訳だ。
まぁ、それ以前に研鑽されて積み重なっていた技術が有ったからだし、つまりは、その最後の壁が壊されたってだけなんだろうけどさ。まぁ、それが1番大変なんだがね。
ただ、そんな難しい話じゃなくても、当たり前に“出来る”と思ってると簡単に出来てしまうけど、疑念が湧いた時点で出来なくなる事って有るだろ? 逆な事例に成っちまうけど、つまりはそう言う事だ。
なんで、まだ頭の柔らかそうな子供で、こう言った訓練の出来そうなヤツが居ないかとグレッソチューンに訊ねてみた所、数人のコボルトの子供を紹介された訳だが……
「あう? うきゃ!!」
「ゆるみゅーる! たべちゃだめ!! ぺってして!! ぺって!」
「……」
赤ん坊に幼女になんか俺を睨み付けてる男の子。
いや、幼女は良いんだ別に。訓練に付き合える程度に理性が有れば。いや、赤ん坊は無理だろ? 頭の柔らかさじゃ他の追従を許さんだろうが、言っちゃぁ何だが、そもそもこの特訓の意義を理解出来るとは思えん。
睨み付けてくるガキは……いや、何で睨む? 初対面だと思うんじゃが?
「お、おれは、おまえなんか、みとめねーかんな!!!!」
ソイツの方を見ると、俺にビシッってな感じに指を差し向けたかと思うと、なんかそんな事を言って走り去ってしまったんじゃが? おい、グレッソチューン?
「ああ、いえ、アイツはグーテンシュバッソと言うんですが……」
「いや、名前を聞いた訳じゃねぇんだが? 何でアレを連れて来た?」
こっちは特訓に付き合える奴を指定した筈なんだが?
俺がそう言うと、グレッソチューンが頭を掻いてゲーグレイッツァを見る。
ゲーグレイッツァが慌てた様に口を開いた。
「あ、その、何と言うか、子供達の中ではリーダー的な存在で、根性も有るヤツだったんで連れて来たんっすよ、それに、素直な奴だったし、今まで、こんな態度取った事なんて……」
……あー、うん。大体わかった。
憧れのアニキポジだったゲーグレイッツァ。だけども有る時から、なんか知らん奴を褒め称える様に成った。何だソイツは!! 気に入らん!! って感じか?
子供達のリーダー的存在だって言うんなら、コイツがまず特訓を受けてれば、他の子供達も後に続くんじゃないか? って思惑も有ったんだろうな、ゲーグレイッツァも。
まぁ、蓋を開けてみるとこんな感じ……と。
これは、グーテンシュバッソとやらのゲーグレイッツァに対する憧れが強すぎるのか、俺の威厳が足らんのか……どっちもだろうな。うん。
ただ、素直に言う事を聞いてくれんのなら、こっちとしてもやり様がないんで、アイツは保留だな。
「う~ん。残念だが、あの様子だと、こっちの言う事なんざ聞かんだろ? あれの参加は保留だな」
「すんません、アニキ」
「お前が謝る事じゃない」
「アイツには、良く言って聞かせますんで!!」
やめれ! それ絶対逆恨みされるヤツだから!! 俺が!!
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結局、赤ん坊も除くと、幼女1人が残った。何か緊張でもしてんのか、落ち着かない感じでソワソワキョロキョロしてる。
と、俺に近付いてくると、そっと耳打ちをしてきた。何じゃろか?
「あのね、なんか、おとなのひとがこわがるくらい、おっかないひとがくるんだって! だから、さからったりしたらいけないんだって、こわいよね!! だから、あなたもおとなしくして、さからわないようにしなくちゃだよ!!」
そう言って、真剣な顔で俺の表情を伺ってくる。
あ、うん。何じゃろか? こう言う時、どんな顔したら良いかワカラナイヤ。
そうか、コボルトの子供達の中じゃ、俺ってそう言う扱いに成ってるのか。
だからこの子も、あんな怯えたような感じだったんな。
身に覚えがありすぎて、反論もできねえわ。
そう考えると、さっきのグーテンシュバッソって、かなり根性据わってたんだな。
成程、ゲーグレイッツァの言う通りだった訳だ。
うん、黄昏れるのはこれ位にしとこうか。
何か、目の前の幼女が困惑と悲しみで、表情を曇らせて来てるし。
でも俺、教会に帰ったら、ミカとバラキをモフり倒すんだぁ。




