存在はSFチックなのにな
ウニョウニョと蠢く配線が、見えない壁があるが如く、俺達の周囲を1m程の距離を開けて這いずり回っている。いや、実際見えない壁なんだろうさね。サイキックバリアとか、そう言う感じの何かか?
進んでいる方向のシリンダー装置が、こちらも1m程の距離から、まるで押し出される様に分かれ後ずさる。こんだけ密集してるってのに、まるで無人の荒野を行くが如くだな。
いや、実際、人間は居ないんじゃが。
今の自分が酷く仏頂面してるって自覚はある。軽率な行動したって自覚もだ。
今、あの少女は俺を抱きかかえて頬ずりしながら、軽やかに歩みを進めている。いや、歩みと言うか何と言うか、コイツ、両足揃えた状態で少し浮かびながらスルスルと移動すんのな。
多分【念動力】で。
前世で見てたアニメの超能力者みたいな感じだし。
さて、今、起こってる事をありのまま話すぜ!
……なんか懐かれた。
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甘いんだって自覚はあるさね。このまま放置して行くのが最善だって事も。シリンダー装置が追いかけてるのはこの少女で、そもそも、コイツが逃げ出したから、こんな事に成ってる訳じゃん?
だがねぇ。数百年間シリンダーの中で浮かんでいるだけの生ってどうよ?
だからこそ、逃げようって思ったんじゃね?
この施設が、その時生きてた動物なんかのサンプルを残す目的で作られていたんだとすれば、まだ生きている彼女は、つまり対象外な筈なんだ。
だったら、コイツが逃げる程度、構わないんじゃね? とか思っちまったんよ。
俺にとっては、まぁ、脅威に成らないんだってのも、理由の一つだ。プラーナ全開なら、何とか抵抗出来るみたいだからな。
なんで、プラーナの強制注入をしてみたんだが……
そしたらこう成った。
注入してる間、仰け反って、ビクンビクンしてたと思っていたら、何故か俺を【念動力】で身動き取れなくして、本人はサクッと拘束解いて躙り寄ってくる。
確かに、先に俺を利用したのはコイツだが、排気ダクトに引っ張り込んで、拘束した挙げ句に転がしてたのは俺だ。すわ、復讐か!! って身構えてたら、愛おしそうに俺を抱きしめ始めて、今ここ。
どうやら図らずも餌付けに成功しちまったらしい。そう言えば、前世でも、「野生動物に下手に餌をやっちゃダメだからな」って先生に注意されてたっけ。小学校の時。確か、人間が餌をくれると分かったら、人里に降りてくるからとか何とか。
しかし、ぬぅ、振りほどけん! さっきと立場が逆転しちまった!! ちくせう!! 回復した後の【念動力】の威力がこんなに強いとは、このトールの目を持ってしても見抜けなんだわ!!
取り敢えず、全裸でウロウロさせるのも何なんで、俺の服の残骸使って、申し訳程度には胸と腰は隠させたわ。
「なぁ、オファニム、回収したいんじゃが?」
俺の言葉に首を傾げる。あかん、言葉が通じん。そりゃそうだ、こう見えても数百年前に生きていた、それも魔物な訳だ。人間の言葉が通じるわきゃ無いわな。
いやいやまて、人の中に紛れて生きてた可能性も微レ存じゃね?
てか、思い返してみれば、俺を利用しようとした時点で人間ってものの特性は理解してる筈。ハズだよな?
なら、何で言葉が通じてないんじゃろか? ファティマ達にしろエクスシーアにしろ通じてたじゃん?
んん? いや、俺の言葉に反応して、あまつさえ首をかしげてる時点で理解できてねぇと可笑しいんだってばよ!! なら、何で?
……あ!!
「俺の着ていた鎧を回収したいんじゃが?」
今度は、少し考えてから頷く。
うん。オファニムで通じる訳無いやん。反省反省。
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居ねえし。
多分、俺がパージされた場所、だと思うんだが。
押し潰されたにしろ引き裂かれたにしろ、その残骸すら残ってねぇ。クソッ!
ああ、駄目だ。俺を抱えてる少女に微かな殺意が湧く。コイツがあんな事さえしなけりゃって……
違う、分かってる。コイツもそれしか方法が無かったんだ。ああ、ネガティブになってやがるのか、俺は。思ってる以上にショックを受けてたんだ。
まだだ、大丈夫。破壊されたと決まった訳じゃない。可能性を信じろ!! 大丈夫、大丈夫だ!!
まだ未来は確定した訳じゃない!! 信じろ!! 信じるんだ!! 俺とオファニムの可能性を!!
大丈夫! まだやれる!! まだいける!! 俺達の可能性は無限大だ!!!!
よし、ポジティブに成れた!! 逆転の発想だ! 残骸が無いって事は壊された訳じゃないって事だろ? そうなると連れ去られたか? しかし、鎧を?
…………
いや、生物のサンプルを回収してるんだったら、無くはないのか?
ああ見えてオファニム、魂有るし。魔法生物ってカテゴリだしな。
うん、無事だろう。きっと無事だろう。無事じゃなきゃ駄目だ。
あんな別れ方なんざ認められるか。
だから大丈夫。きっと、絶対。
俺の頭を少女が撫でる。コイツなりに何か感じ取ったのかもしれない。
いや、傍から見ても分かる位に落ち込んでるのが分かるんだろうな。
気持ちを切り替えよう。落ち込んでてもどうにもならない。
現状、オファニムの行方は分からない。なら、分かる所から手を付けるか。ウニョウニョと俺達の周囲で蠢く配線を見渡す。
取り敢えず、施設の掌握が必須だな。
「なぁ、俺の仲間と合流したい。力を貸してくれるか?」
見上げながらそう言うと、少女はその美麗なかんばせに少しの苦悩を浮かべるが、しかし、最終的に首を縦に振ってくれた。
「そう言えば、お前、名前は?」
「……ラミアー」
そう来たか。




