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答えはシンプルに

 逡巡する俺に、少女が()()()()()()()()


「な!!」


 刹那、目の前に真っ赤な瞳。俺は咄嗟にプラーナを活性化する。が、魂にヌルリ、と触れられたような不快感。一瞬の隙。少女が俺の首元に腕をまわす。


 じっと見つめて来る赤い瞳。それに【抵抗(レジスト)】する前に背後から触手が伸びる。


「クソッ!!」


 床を蹴り、前方に加速。少女を横抱きに抱えた状態で、だ。


 コイツ、完全にタイミング計ってやがったな!! もう既に、理性では突き放さなんといかん事は分かっているが、『彼女を守らないと!!』って衝動が湧いて来る!!

 そして、こうやって実際に背後から襲われているって言うシチュエーション。コイツの【魅了】に対抗するには状況が悪すぎる!!

 それでも、思考できる程度には理性が回復して来てるのがまだ救いかっ。


 背後から絡め取らんとして来る触手を躱し、避け、回避する。

 この、良い様に使われてるって状況、何とかせんと!

 ジッと俺を見つめる赤い瞳。


 ……


 いや、まさかなぁ。そんな簡単な事でか?

 ふと、思い付いて少女の瞳を手で塞いでみた。


「あっ」


 鈴を転がす様な、耳朶に響く涼やかな声が彼女から零れる。と、途端に俺の思考がクリアになった。


「マジかぁ」


 【瞳術】って奴か? しかも、俺を見続けていないと効果を発揮できない。えー、こんな簡単な対処方法?

 後ろから来る触手をステップワークで躱しながらも力が抜けそうになったわ!!


 いや、そうでもないのか? コイツの目を塞がなくちゃいけないって事は、手の届く範囲に居なくちゃならないって事だ。

 今はこうして抱きかかえてるから割と簡単に目を塞げているが、離れていたとすれば、回避不可能って事じゃんか。

 厄介だな、範囲が視界ってのは。有効な距離はどのくらいなんじゃろ?


 そんな事を考えてる間、少女が、何とか俺の手を外そうと四苦八苦しているんじゃが……

 何この非力さ。三歳児の俺の片手を両手で外せないて。さっきの超スピードはなんじゃったんか?


 いや、違うのか? もしかして()()()()()なのか?


 背後から触手が伸びる。ああ、うぜぇ!!


 俺は、ジャンプし、宙を蹴ると、天井付近の壁を蹴ってダッシュした。加速に驚いたのか、少女が俺にしがみ付く。

 いやホント、どんだけ思考が鈍ってたんよ。何で態々、シリンダー装置に合わせて床とか走ってたんだか。挙句に、コイツの身体に考慮して負担に成らない速度を維持してるとか。俺なら、速度でぶっちぎれるってのに、ホント、何やってたんだか。


 俺は、目に付いた換気ダクトに体ごと突っ込んだ。


 ******


 着ていた服を割き、少女の頭を覆った後、手足を縛る。俺の考えが正しいのなら、これでも逃げられる可能性の方が高いが、それでも、時間を稼げれば上々か。


 全裸の美少女を縛りあげてるってのは、中々に犯罪チックだが、こうでもしないと、また【瞳術】を使われて厄介だからな。


 少女から少し離れて体内循環を練り上げる。そして次に、魔力外装を発動してみた。とたんに、俺の体表を赤色の光が覆い尽くす。


「ああ、やっぱりか」


 俺の魔力装甲の発現を邪魔してたんは、この施設じゃなく、この少女。いや、正確には邪魔じゃないんだろうな。コイツにとっては食事って所か。


 地中に埋もれてどれくらいの時間が経ってんのかは分からんが、数百年、最低限生命を維持できる程度にしか栄養を与えられてなかったとしたら、色々と枯渇してるんは確かだ。

 あー、この地下が独立した動力源を持ってるって事を前提にしてたが、侵入者が居たから非常電源的に動力が入ったんだとすれば、それまでの生命維持も自前か?

 他のサンプルとやらはピクリともしてなかったしな。


 だとすると、尚更、飢餓状態だったって事だ。


 ()()()()()()()()サンプルとして保存され、おそらく使っていたのは【魅了の瞳術】と無人になったオファニムを動かした【念動力(サイコキネシス)】に【短距離瞬間移動(テレポート)】。そして俺の魔力外装をはぎ取っていた【エナジードレイン】。


 つまりは、吸血鬼(ヴァンパイア)って所か。


 伝説だと、霧になったり、蝙蝠になったり、黒狼になったりしてた筈なんだが、あれだけ力が衰えてる所を見ると、回復し切って無いって事なんじゃろか?

 いや、伝説についちゃ前世の話だから、この世界の吸血鬼がどんなもん何だか知らんけどさ。


 さて、どうするかね、一番は、この状態でシリンダー装置の群れん中に放り込む事なんだろうが、自由になったとたんに同じ事されそうなんだよなぁ。

 だからと言って始末しちまうか? って事に成ると、それをする程の事はされてないし、食べる訳でも無いのに命を奪うのも何かなぁって感じじゃし。


 たぶんコイツは逃げたかっただけだろうしな。体が弱ってるから、足に成る相手を欲していたって所か。俺の存在、足兼食料。

 何か、久方ぶりにアッシーとかメッシーとか言う単語を思い出したわ。


 放置してるのも面倒な事になりそうだが、連れてくのも追い回されるんでどうかって、なぁ……


 あ、手足縛ってた布が緩んでるな。俺は魔力外装を解くと少女を縛ってる布を縛り直した。あ、ぐったりして、すすり泣きし出したな。


 そうか、【念動力】、そんなに大変な能力か。頑張って結び目解いてたんじゃな。うんうん。頑張った。

 【短距離瞬間移動】もしない所を見ると、基本的に【超能力】ってエネルギー消費が激しい能力なのかね?

 あ、そもそも、この状態で【短距離瞬間移動】しても、縛られたまま移動しちまうんか? いや、それ以前に見えない状態で【瞬間移動】とか危なすぎて出来んわな。


 あれ? もしかして、このまま放置して行っても大丈夫じゃね?

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