白の少女
あれか? もしかしてループしとるんか?
ゲーム脳な気もするが、“扉”の転移を考えれば無いって訳じゃない。と言うか、この規模の広さがあるって考えるよりよっぽど現実的な気がする。まぁ、“扉”のソレとはまた違ってる気もするが、方式が違うのか法則が違うのか……
だとすると、施設の中に有る何らかのギミックを解除しなけりゃ、このループが終わらん事に成る。ってか、その前に、一旦戻れるか確認だな。
鉄扉から元の部屋に戻ってみる。うん。特に問題は無い様だな。
とりあえず、部屋同士は行き来できるっぽい。もしこれがループだと言うなら、戻った所で無限に続くだけなんじゃが……
一応、最初の部屋まで戻れるか試してみるか……
そう思って一歩踏み出したんだが、うん? 何か……違和感を感じ周囲を見回す。
あ! シリンダー装置に入っている動物の種類がこれまでとは違う!!
え? つまり、ループギミックの解除方法は、入って来た扉から戻るって事だった!?
分かって居れば簡単だったかもしれんが、先に進もうとするヤツ程引っ掛かる。要は、時間稼ぎの為のギミックか。本来なら警備のためのガーディアン何かが、その間に来るような仕様だったんだろうな。
だが、今は遺跡が機能停止してるんで、応援がこれない……と。あれ? だとすると、何でギミックは生きてるんだ? う~ん、まぁ普通に考えると独立した動力に成ってるって事なんだろうけどさ。
そんな事を考えながら周囲のシリンダー装置を眺める。こっちは動物よりも魔物の方が多いか? 遭遇した事ない魔物ばっかなんで確証は薄いが、だいたい角付いてるから多分そう。
一旦通り過ぎて戻ってシリンダーを覗きこむ。
「あー、どっかで見たと思ったら、こいつ、サイクロプスか」
色が無いんで分からんかった。顔の一つ目、それに見える様な模様だったしな。
と、その覗き込んでいたシリンダー装置の更に向こう。そこに、不思議な物を見つけ、俺はそっちへ向かった。
他と変わらないシリンダー装置。だが、そこに入っている物は、周囲のソレと比べ明らかに異質だったからだ。
「人間の少女、なのか?」
色素と言う物の一切が無い真っ白な少女。他が魔物だらけの中でただ一人異質な存在。どう見てもただの女の子なんだが? 角とかもないし。
「!!」
その直後、その少女が目を見開いてこちらを凝視しているのを見て、俺は思わず後ろに飛び退いた。
赤い目?
『サンプルの覚醒を感知しました。第三警戒シーケンス開始します』
アナウンスが響き、周囲を囲っていた、その壁がせり上がる。と、全ての空間が繋がった。
パキンッ!! と、短い音が聞こえ、少女がシリンダーのガラスを叩き割る。何か感じたって訳じゃない。空中に放り出された少女を見て、俺は、思わずソレを受け止めてしまった。
照明が赤く染まり、けたたましくサイレンが鳴る。少女が、オファニム越しに俺の首筋に唇を寄せる。
「!!」
急速に俺の中からプラーナが吸い出される感覚。
俺は驚き、咄嗟に少女を突き飛ばそうとする。
「?? 魔力装甲が!!」
解除された自分の身体を見る。装甲が消えているという事は、オファニムとの接続が絶たれているという事でもある。
オファニムがガタンッと、膝をつく。クッ早く魔力装甲を発動し直さないと!!
『サンプルの危険度上昇。第四警戒シーケンス、及び捕獲シーケンスに移行します』
その警告メッセージの直後、オファニムが何かに絡め取られる。捕獲、とか言っていたか? なら、サンプルってのは、この少女って事か?
接続が絶たれた事で、今の俺は周囲の状況が全く分からない。ただ、オファニムの装甲がギシギシと軋んでいるのが聞こえる。このままじゃ拙い!! 慌てて接続をやり直そうと、魔力装甲を発動しようとする。が……
「発動しない!?」
もしかして、警戒シーケンスとやらで、ジャマ―が掛かってるとか、そう言う事なのか? クソッ、どうする!?装甲の軋みが大きくなる。俺はどうにか発動できないかと、名体内循環を加速させ、練り上げ、外装へと変化させようとする、が、やはり発動しない。いや、身体の外に出た瞬間、唐突に消費させられてるって感じか??
そう、思った瞬間だった。
オファニムの胸部が開き、俺を矯正パージする。
「オファニム!?」
排出された俺が見た物。それは、周囲に有ったシリンダー装置が、その配線をまるで触手の様に伸ばし群がり、オファニムを飲み込まんとしている姿だった。その、オファニムが、動けない筈のオファニムが何故か少女を押し上げる。
俺は、咄嗟にその少女の手を掴むと、抱き寄せ、宙を蹴って、その場を脱出した。
地に降り立ち、振り返る。おそらく、その群がるシリンダー装置の中心に居るであろうオファニムの方を見て、思わず呆けてしまう。
何だ? 何が起こった? いや、分かっている。オファニムが俺を助けてくれたんだ。
だとしても……。俺は自分が抱きしめている少女を見る。真っ白な、色素と言った物の一切を持たないであろう少女。
その、少女の眼だけが、血の様に真っ赤な瞳だけが、俺を映していた。




