特に美味しい訳じゃない方の白子
毛皮をジャブジャブと洗いながら、俺は昨日の事を思い出していた。
昨日はほとんど無意識でやっていたけど、あの、魔力を抜くのって、効果的にやれば、身体能力向上をオフれるんじゃね?
もちろん、思い付きが成功する程、世の中簡単には行かないだろうけど、試してみる事はできる。
「やってみる価値ありまっせ!」ってやつだ。
昨日やってたのは、身体中の……細胞と言う細胞に魔力を与えていたのを逆にして、魔力貯蔵庫? 電池? まぁ、どっちでも良いか。
そんな感じの所に戻したかんじか。
アレをやっている時に気が付いたんだが、どうも、魔力ってのは全身の細胞で作られてる様な気がした。
ミトコンドリアがエネルギーを作ってるみたいに、だ。
そう考えると、俺の身体能力向上がパッシブなのも、魔法が使えないのもその辺が理由だろうか? 魔法を使う為に集める前に消費しちゃってる。みたいな?
あれ? なら、今なら魔法、使えるんじゃね?
……そう考えてた時期が俺にも在りましたさ。
身体中に巡ってる魔力を魔力貯蔵庫に集めながら、そこから必要な分の魔力を引き出し、呪文に乗せて属性に変化させながら解き放つ……ややっこしいんじゃ!!
え? なに、世の中の人って、皆こんな面倒臭い事、鼻唄歌いながらやってんの!?
特にイブさんや、あんたファイアーボールを5個も6個も同時に……マジ天才!
ハハハ、世の中の人達に比べれば、俺なんてクソ雑魚ミジンコだって良く分かりましたわ。
俺が死にかけながら倒した角熊なんて、きっと他の人にとっては指先1つでダウンなヒデブに過ぎないんだな。生きててスミマセン。
!! って、ネガティブ様が御降臨なさってる! 修○は、修○はどこじゃあ!!
やれるやれる、出来る出来る! 俺なら出来るって!! なんだよお前ガンバれよ!! 諦めたらそこで試合終了なんだよ!! 諦めんなよ! やれよ! もっともっとだ!! やれるやれる、出来る出来る!! 俺こそ異世界の富士山だ!!
……ふう、そこはかとない不安に、世の中を儚む所だったぜ。
まぁ、当初の目的通り、まずは魔力抜きから始めるかぁ。
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あれから四時間、まだ抜き続けている訳だが、ちっとも尽きる気配がない。
……これはあれか? 抜く量に対して、作られる量が多いってやつか?
それとも単純に細胞に入っている魔力の量が多いだけか?
ぬう、判断がつかん。
毛皮も3、4時間は干しとくだけだし、全力で抜いてみるか? 魔力。
………………まぁ、大丈夫だろう。根拠はないけど。
よし、やるか!!
******
「トール、さまは! うっく、むちゃ、し、して、ひっく……」
「いや、ゴメンってば」
「うっ、うえっ」
イブにめっちゃ泣かれた。
当たり前か、小屋に戻ったら俺がぶっ倒れてたんだからな。真っ白になって。
結果から言えば、魔力抜きは上手く行ったんだわ。ちょっと抜き過ぎでぶっ倒れたけど。
生命維持にも魔力って使ってるらしいね。あれだ、ほら、MP使いすぎてHPも減っちゃった、みたいな。
で、俺は今、身体能力向上を使って、毛皮をタンニンに漬け込んでる所。
何せ、イブが俺をガッチリホールドしたまま離れてくれないんでな。
さすがに身体能力向上無しで、角熊の毛皮を運ぶのは無理だったわ。
ミカ達なら運べはするが、引きずっちまうからな。
イブがこんな状態なんで、何の対抗意識なのかバラキも俺にのし掛かってきて動き辛い。何の罰ゲームだ。
あ、バカやってぶっ倒れた事のか。自業自得だったよ。
それはそれとして、身体能力向上が切れた後の俺な、真っ白だったよ。
燃え尽きた的な意味でなく白子って意味で。
そりゃまあ、捨てる方に俺が選ばれるわ。
双子でさえ禁忌だっちゅうに、アルビノだぜ? 場所によっては神子扱いだけど、多分この世界では違うんだろう。不幸を呼ぶとか何とか。
占い師の婆さん、逆恨みするところだったぜ、メンゴメンゴ。
だが、俺を指定したのは確かにアンタだからな! その分は恨む!
ササクレ剥けろ!! 小指を強打しろ!!
……ふう、これくらいで勘弁してやらあ。
それはともかく。アルビノですよアルビノ。
折角、ナイトメアモードから抜け出せたかと思ったら、まだまだハードモードだったよ。
まぁ、赤銅のゴブリンライダー疑惑からは外れられるだろうから、それは助かるんだがな。
折角、身体能力向上をオフに出来るようになったんだから、そっちの状態にも慣れておく必要があるだろう。
改めて身体能力向上をオフにすると、まるで加重力でもかかったかの様に身体が重くなる。
これが普通の乳児の状態って事か。成る程、今までの自分がいかに異常だったのかが良く分かった。
だが、まったく動けないって状態でもない。大人と同じ様にとまでは行かなくても、それなりになら動けるな。
それに……
「イブ、大人しくしてるから、しがみつくのは止めてくれ」
「う、はい」
白子化した俺を見て、イブはしがみつく代わりに自分の膝の上に乗せる。
なぜだろう、しがみつかれるより恥ずかしく感じるのは。
「明日は、俺も街に行くぞ」
「トール、さま、ホント?」
元々、そう言う予定だったしな。こうして身体能力向上を切っても、目が霞んだり、呂律が回らなくなったりはしない様だ。
これからは、又聞きじゃなく、直接話を聞いて回れるな。
布でも頭に巻いておけば、少し白い子供って事で誤魔化せるだろう。




