おめでとう!!
ケルブの犬車が止まり、扉が開かれる。
宿に戻るもんだと思っていたらしいイブが目を見開いた。
フットマンが扉を開いた先に居たのはエクスシーア。
「お待ちしてました我が君。イブ嬢」
エクスシーアが芝居がかった感じに頭を下げる。その後ろに見えるのはちょっと良い感じのレストラン。
流石に貸し切りとはいかなかったけど、個室をエクスシーアに予約して貰った。
こういう店なんで、犬達を店内に入れる事は出来なかったが、外の厩舎に肉を用意して貰っている。
折角なんで一緒に祝いたかったんでな。
場違い感を感じているのか、イブがキョロキョロしている。けどな、今のお前は最高に、こういう場に合ってるよ。買ったばかりのドレスも相まって、まるでお姫様の様だろ?
俺は満面の笑みで、彼女に言った。
「誕生日、おめでとうイブ!!」
今日はイブ、6才の誕生日だ。
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少し調べた所、この世界のテーブルマナーも、前世のソレとはあまり違いがないっぽい。テーブルに肘をつかないとか、食事中に音を立てないとか、カラトリーは外から使うとか。
それでもまぁ、正式にマナーを学んだ訳じゃないし、そもそもイブにもテーブルマーなんて物は教えた事が無かったんで、そう言った事を気にせず食事を楽しむ為に個室を用意して貰ったんだがね。
コース料理と言うよりは、幾つか見繕って貰った料理を小分けにして出してもらっていると言った感じ。俺にしろイブにしろそんなに量は食べられんしな。ファティマやジャンヌは食事はしないし、エクスシーアも体格の割には量は食べない。
曰く「効率の良いエネルギー摂取が出来るのでな」との事だ。変換炉でも積んでるんじゃろか?
今日、提供して貰ってる料理の中には、俺の記憶から引っ張って来た物もある。カニクリームコロッケだとかエビグラタンなんかがそうだな。
前に聖王国に行った時に、イブも魚介類を美味しそうに食べてたんで、前世では子供に人気のあった料理で、こう言う高級レストランで出しても可笑しかない物のレシピを提供した訳だ。
魚介類自体は聖王国からのこっち側の玄関口であるポルワールって言う港町から運んでもらった。流石に聖王国からだと時間がかかるからな。
この販路は最近エクスシーアがルーガルーのジジイと一緒に開拓した販路の一つで、キャンピングカーに乗せる予定だった冷蔵庫の試作品をエクスシーアが転用した物を使って運んでいる。
何で実装しなかったかって言えば、単純に俺等、現地で獲物取れるからって事と、冷却で使う氷自体は魔法で生み出さなきゃならない。
この冷蔵庫の真骨頂は、移動している間、ヒートポンプの理論を使って冷やし続ける事が出来るって所だったんだが、どの道キャンピングカーを使う時ってイブかジャンヌも乗ってんよな。なら、二人に直接冷やして貰えば良いってんで、放置されるに至った訳だ。
だけど、そんな冷蔵庫も大規模に運搬するなら、今までに類を見ない程の革命的技術らしく、試験運用も兼ねて、少数をこうやって使ってみてる訳だ。
氷自体はソレ系統が得意な人に任せるも、移動時に冷やし続けられるってだけでも随分と違うらしい。
他愛もない事を話ながら食事をし、さて、最後のデザートだ。これはちょっとお店に無理を言ってファティマに作らせて貰った。
前にも言ったような気もするが、この世界の甘未と言うのはほぼ砂糖の塊だったり、果物のシロップ漬けだったりで、ひたすら甘さを追求したと言うか、甘みの限界に挑戦しとるんじゃなかろうか? ってな物が多い。
ケーキにしたってパウンドケーキみたいなシットリズッシリな感じのモノ。それに生クリームやらジャムやらを付けて食べるのが主流と言うか。
流石に俺も、ケーキには詳しかないが、それでも、誕生日ケーキと言った時にアレ等を出されるのは“コレジャナイ感”がな。
なんで、そんな感じの事をファティマに言った所『【返答】それはスポンジケーキですね』と、すぐに答えを出してくれた。
なんでもメイドの嗜みらしい。うん、突っ込まんぞ?
そんなこんなで今世では初お目見えのショートケーキ。イチゴに似たベリーを提供してくれたのはヴィヴィアン。
植物系に限って、ホント優秀だよなアイツ。
「!!」
ショートケーキ特有の甘い香りに目を輝かせながら、俺の方を見るイブ。
「食べてくれ、イブの為に用意したんだから」
「ん!」
切り分けたケーキをフォークを使って頬張ると、さっきよりもさらにイブは目を輝かせる。うん、気に入って貰えた様で良かったな。俺、基本的に何にもしてねぇけど。作ったのファティマだし、イチゴのシロップ漬け用意したのはヴィヴィアンだしなぁ。資金提供くらい? やった事って。
その資金にしたって、最近はエクスシーアが稼いでるようなもんだしなぁ。
そんな感じでちょっと黄昏ていた俺に、イブが「トール、さま、ありがとう」と満面の笑みで言ってくれた。
うん、まぁ、今日はこれで満足しとこう。自分の不甲斐なさは、また何かで挽回すれば良いやね。




