王都デート
「まったく、グラスに聞いてた通りじゃな」
そう言ったのは王都の冒険者ギルドのマスターのゲパルト。
白髪の長髪を総髪にした貫禄のある爺さん。
グラスと同じ様に俺の事情を知っている相手なんで、今の俺は幼児の姿を晒している。
ゲパルトはグラスが冒険者時代、お世話に成った相手で、今も色々と相談に乗って貰ってる相手だそうな。特に貴族関連で。
そんな関係で、今回王都に来るにあたって、グラスが話を通してくれた相手でもある。
しかし、グラスあんにゃろ、どんな話しやがった? 事と次第によっちゃ、アイツの生え際10cm後退させちゃる。
「何をすれば叙勲に行っただけの王城でお墨付きまで貰ってこれるのやら。それに、あれじゃぞ?」
どれじゃ? ミカの耳を弄びながら首を傾げる。
「この紋章は国王個人を示すものじゃ。つまり、他の王家の庇護を受けた者達と違って、国王自らが信を置くと宣言している様なものじゃ」
おおう、それはまた。随分奮発してくれたぜセルヴィス伯父さん。単なる王家の紋章より、さらに身分をハッキリと保証してくれるって訳だな。ただ、これ持って何かやらかしたら、それはそのまま国王本人の顔に泥を塗る様な事に成るが。
『あたしも!!』って感じで圧し掛かって来たバラキを転がしてお腹をワシャワシャすると、気持ちよさそうに尻尾をビタンビタン床に叩き付けた。
バラキをもふりながら、紋章の入った短剣に目をやる。俺にとっては有益にもなるが、国王にとってはリスクもある。つまりそれだけ、この紋章を渡した相手を信頼してるって喧伝してる事にも成る訳だ。
成程、俺の性格を良く掴んでやがるわ。
まあ、これも魔人族国に対抗してってのも有るんだろうがね。
向こうが伯爵位を与えてるから、こっちは実質的後ろ盾をって事で。
今の王室に王女は居なかったはずだから、これで俺が権力欲とかあったら、適当な貴族から養女を取って、婚約とかさせてたんじゃないんじゃなかろうか?
まぁ、そう成ったとしても、やっぱり俺の年齢がボトルネックに成るんだが。
「まぁ、良いや。俺はそろそろ行くわ」
ミカとバラキをもふるのを止めながら俺がそう言うと、ゲパルトはクシャリと顔を緩ませて笑みを作った。
俺がギルドまで来た理由は、公都の方に連絡を入れといて貰いたかったからだ。
俺の叙勲自体はすんなり行ったんだが、エクスシーア商会支店の建物と従業員の選別が思いの他時間を食っちまってるんで、もうちょっと、時間がかかるぞと連絡をな。
「うむ、グラスの方には連絡を入れておくでな、ゆっくりしていくと良い。デート、楽しんできなさい」
で、俺がこれから何をするかと言うと、まぁ、デートな訳だ。勿論イブと。
******
「待たせたな」
「ん、そうでも、ない、よ?」
ギルドの酒場でベリーのフレッシュジュースを飲んでいたイブは、俺の姿を見て表情を綻ばせた。
彼女の周囲には護衛代わりの犬達とケルブが侍っている。特にラファが張り切っていて、何か姫を守るナイトって感じで、ちょっと表情もキリっとしてるんな。
今日はデートって事で俺もイブもちょっと良い格好。裕福な商人の坊ちゃんとお嬢ちゃんって感じだ。
ファティマとジャンヌも今日はエクスシーアに付き添って商業ギルドの方に行って貰ってる。俺の代理って事で。
もしもの判断が必要な場合、ファティマなら念話が使えるしな。
本当はファティマだけでも良かったんだが、『【強制】私がマスターの側に居られないのに、アナタは一緒に居られる等、許容できる物ではありません』『【抗議】理不尽デス!!』ってな感じでジャンヌを引き摺てったんだわ。ドンマイ!!
まぁ、デートって言っても、良さげな屋台冷かしつつ、皆の土産を探すってだけなんだがね。流石に高級レストランとか幼児2人と犬達で入れんからな。
と言っても、ちょっとしたサプライズは用意してあるんだが。
「じゃ、行くか」
「ん」
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屋台で買い食いをし、露天商で土産を見繕う。そうこうしている内に結構な時間が経った。
「そろそろ皆の所に戻らんとだな」
「ん」
ちょっと寂しそうな感じでイブが頷く。俺は苦笑しながら彼女の手を引き、目的の店へと足を運んだ。
「お待ちしておりましたお坊ちゃま、お嬢様!!」
連れていかれた先で、そう声を掛けられたイブは目を白黒させる。俺がイブを連れて来たのは洋服店。中古ではない新品を扱ってる店で、商会の『ゴールデンウール』を卸してる店の一つ。まぁご察しの通り、貴族御用達のお店。
「あらあら、可愛らしいお嬢さんだ事!!」
「よいわぁ!! こんな素敵なダイヤの原石!! 腕が鳴るわね!!」
「お坊ちゃまから、化粧品も預かってますのよ!! 今日は目一杯着飾っちゃいましょう!!」
そこの女性スタッフに半ば強制的に連れて行かれたイブは、ちょっとばっかし涙目だが、今日はちょっと我慢して貰おう。
「……それで、オーサキ様、今後は化粧品と装飾品もも卸して戴けるとか?」
「うん、エクスシーアには、その旨も伝えておいてもらったはずだけど」
「はい、伺っております。今後ともよしなに」
「うん」
王都に来た目的の一つは、こう言った提携店との取引もある。何か気が付いたら、家の取扱商品って、高級布地に化粧品に装飾品って、貴族やら裕福な女性層向けが増えてたんよね。
ただ、商品が作れても、それを売り込めなけりゃ、商売は成り立たない。その辺りが、エクスシーアの手腕ではあると思う。
もっとも、エクスシーア曰く「我が君の人脈故ですよ」って、俺を立ててくれるんだがね。実際、特になんかやったって実感はないんじゃがねぇ。
そんな風に店の店長と話をしてたら、どうやらイブの準備が整ったらしい。店員に促され、イブがおずおずと、こちらに歩み出る。
おお!! 淡い黄色のふんわりとしたドレスに青の宝石をあしらった銀の髪飾り。胸元には真珠のネックレスを付け、ナチュラルに仕上げた化粧が、これでもかと可愛らしさを際立たせている。
「うん!! 可愛いぞイブ!!」
「!!」
俺の言葉に、イブがバラ色に頬を染めた。




