王都からの召喚
そんなこんなで暫く忙しくしてた俺なんだが、ようやっとグラスに呼び出されてみた訳だ。
時期的にニーズヘッグの件だろうが、何だか嫌な予感がするんだよなぁ。特にこうしてグラスが態々『冒険者のトール』さんを直々に呼び出したりする時は、な。
「おう、ニーズヘッグな、大森林の異常も見られなくなったんで、無事事態は収束したって事で良いと思うぞ?」
「そうかい」
「で、だ、2体目の竜討伐って事で、王宮からお前に呼び出しがかかった」
恐らく俺はすごい顔をしてたんだろう。グラスが気拙そうに視線を逸らした。
『冒険者のトール』さんもそろそろ14才、それも職業についてるとなれば一人前の大人って事で扱われるお年頃な訳ですわな。
いやホント、どうすんのよ? これ以上はごまかし切れんぞ。
「……根回しについてはどうなってんのよ?」
「行って、くれるのか?」
グラスの言葉に、俺は大きく溜息を吐く。
「王様からの呼び出しだぞ? 行かん訳にゃいかんだろ」
問題に成るのが俺自身の存在と言うね。
多分、当初のグラスの想定だと、俺はちょっと優秀な冒険者くらいにはなるだろうって程度の判断だったんだろう。
まぁ、なんだかんだで中級程度の冒険者なら、周囲との柵もそんなに大きくはないから、特に問題になんてならんしな。
だが、俺は活躍し過ぎた。そのこと自体に後悔なんて無いし、何なら同じシチュエーションと遭遇すれば同じ行動をとるだろうさ。
だが、その為に王侯貴族に目を付けられっちまった。
そうなると、今度は俺の本当の年齢と出自が問題と成っちまう。いや、出自の方は知らぬ存ぜぬでも構わないだろうけどな。年齢に関しちゃごまかしがきかないだろう。
……いや、もしかすると、やり様があるか?
「なぁ、グラス」
「何だ?」
「事に依っちゃ、俺が白子だって情報、バラしちまっても良いぞ」
「……ああ、成程、そう言う方向に持ってくのか」
この世界、白って色に色々因縁がある。主に宗教絡みで。
簡単に言うとその色は神様の色だから人間は使っちゃいけませんよって奴だ。犬猫で白いヤツとか居ても許されるのは、「そんな事も理解できない獣だから」だ。まぁ、熱心な信者の中にはそれでも許せないって輩も居るらしいがね。
そして困った事に、ソレを人間にまで適応させる奴ってのがやっぱりいる訳だ。
そう言うヤツ等の行動は大雑把に分けて二つ。『動物と同じだから隷属させても良い』と『けしからんので消してしまえ』って感じにな。
俺なんかほら、白い上に双子だった訳じゃん? まぁこうなるわな。理解は出来ても納得などせんがね。
ともかく、そう言う風に匂わせて、黒鎧を脱がなくて良いって方向に持っていけんか? って話な訳だ。
そんな感じで、王様の前でも鎧姿で通せるなら、今後、公爵に合う時に鎧を脱がなくても良くなるんだがね。
国の最高位の前でも許された行為を、それより下位の地位の人間が強要するなら、それはそれで不敬罪に成るからな。
「わかった、王都のギルドにも事情は通しておく。それで良いんだな?」
「ああ、それとカバーストーリーも作っちまおう」
「流石、前世持ちは強かだな」
「誰のせいで苦労してると?」
そもそも、コイツが冒険者登録なんざさせたから、ややっこしくなったんだが? いや、目を掛けててくれる事は感謝してるがね。
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何だかんだで王都赴く日が来た。普通なら行きがけの駄賃代わりに護衛依頼でも受けとく所なんだろうがね。俺達は色々と事情があるから、ほぼただの観光旅行だわ。
「トールちゃん!! お土産はお菓子!! お菓子でお願い!!」
「ちょっと、キャル!! あ、視察の件、お願いね。まぁエクスシーアも一緒だから大丈夫だと思うけどさ」
欲望に忠実だな、キャル。
マァナも言っているが、今回の王都行きにはエクスシーアもついて来る。王都の出す支店の下見の為だ。経営に関しては、全てエクスシーアに一任してるんだが、今回で、店員の確保も含めてやってしまう心算らしいんだわ。
働き過ぎじゃね?
エクスシーア以外のメンバーは俺とイブ、ファティマとジャンヌ、ミカ、バラキ、ウリとガブリ、ラファとセアルティ、そしてオファニムとケルブのいつもの面子。
……これだけいても人間、俺とイブしか居ないて。
まぁ、良い。グラスの方も向こうに話は通してくれたみたいだし、何事も無ければ、問題なく謁見と叙勲だけで終わる筈だ。
今回、王都に呼び出された名目は『竜退治』の大業に対する勲章の授与って事らしいからな。
もっとも、こうやって報奨を出す事で、優秀な人材の流出を防ぐって目的があるんだがね。冒険者に対しては、効果は薄いだろうが、やらないよりはマシなんだろうさね。
「じゃ、向こうに着いたら、ギルドを訪ねてくれ」
「おう」
グラスから召喚状と王都のギルドのギルマスに対した紹介状を渡される。王都では、ギルマスが色々と世話をしてくれるらしい。色々と苦労して準備してくれたグラスには……自業自得ではあるが感謝をしておこう。
「さて、じゃ、出発するかファティマ!!」
『【了解】イエス! マスター。出発します』
ファティマが手綱を引き、ケルブが歩を進める。
こうしてキャンピングカーは、一路王都を目指した。




