そう言えばアイツ、竜なんだって
空気ってのは圧縮されると高熱を発生させる。いわゆる圧縮熱ってやつだ。実は大気圏突入時の高熱も摩擦熱じゃなくこっちらしい。
今、俺の眼前では、ただでさえ高熱となっている空気が電磁場によって密封され、さらに圧縮されている。
この電磁場牢の中はどれだけの地獄となっとるんじゃろね。
「で、どれだけこのままにしていれば良いのだ? ライバルトール」
「ニーズヘッグの蒸し焼きが出来るまでかな? ってか、いつまでこの状態キープできる?」
そう聞くと、俺を抱えたままのバフォメットが少し首をひねる。
「3、4ヶ月は持ちそうだな、流石のオド量だ。ライバル、トールよ」
「流石にそこまでは続けねぇよ!?」
3、4ヶ月も抱えられたままでいられるか!! ワシは帰らせて貰う!! いや、今は帰れんのだが。
「まぁ、1、2時間って所だな」
「そうか、残念だ」
何が!?
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時間が過ぎ、取り敢えず上方の電磁場だけ消してもらうと、偉い勢いで炎が噴き出した。いわゆるバックドラフトだろう。
轟音と衝撃がこっちにも響き、身体の芯を揺さぶる。
何と言うか、尺玉以上の花火を見た時の事を思い出したわ。
「ひっ!」
ファティマやジャンヌは知識として知って居たんだろう。少し硬直するにとどまっていたが、イブは驚きで目を丸くしていた。そう言や、説明して無かったな。失敗失敗。
でも、イブさんや、アンタも【エクスプロージョン】とかって爆破魔法使ってたよね?
犬達も一瞬身を竦めたが、すぐに元に戻っていた。適応力凄いやな。
それとは逆にバフォメットとベルゼブブは面白そうに見ていた。ニヤニヤとしてる様子が、怪人態って事も有って悪役感が凄いんだが。あれ? もしかして、いらん奴等に余計な知識与えちまったか?
ま、まぁ、この電磁場牢は、ここにいる全員の協力が無きゃ出来んかったもんだし、大丈夫だよな?
「な、何ですかー!!」
「いったい何が!?」
あ、今の衝撃で気絶娘達が起き出して来たな。戦闘の時は起きなかったのに。安全になってから起き出して来るって、ある意味危険感知能力が高いのか?
「そうだ!! バフォメ……」
俺が注意する前に人間態に戻ってやがった。素早いなぁおい。
さて、大丈夫だとは思うがニーズヘッグはどうなった?
バフォメットに完全に電磁場牢を解いて貰うと、そこには何も残って無かった。
もしかしてコレでもまだってぇ心配もあったが、どうやら杞憂で終わってくれた様だった。灰すら残らず燃え尽くしたらしい。
裏次元に潜った可能性は、まぁ、無いだろう。その為にベルゼブブには引き続きニーズヘッグ周辺のオドを枯渇させて貰ってたわけだし。
その証拠に、オドをたらふく食べたベルゼブブ、やけに艶々に成ってやがる。
問題は、討伐証明ができない事位なんだが……まぁ、残らず燃やし尽くす為に、二体に戻るまで態々戦闘に時間をかけて貰った訳なんだから、文句は言えんな。
これは、グラスん方で、経過観察して貰うしかないか。
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戦闘地の端でバラキが何かをテシテシやってたんで見に行った。覗き込む俺に、キラキラとした感じの視線を送って来るバラキ『褒めて褒めて』って感情を全身で表してるんだが何じゃらほい?
そこに“居た”のは虹色のひし形。鱗状のそれ。
「うおっ!! まだ残ってた!!」
ウゾウゾと蠢くニーズヘッグ(単体)。良し殺そう。
「ちょちょ!! ちょっと待ったぁ!!」
あん? 何かヴィヴィアンが慌てて俺の腕に取りつく。何じゃろか?
「聞きましたよ! これ、竜素材なんですよね!? ハッパーボ卿から!! せっかくのサンプル、殺してしまうなんてもったいない!!」
ハッパーボ卿? ……………あー、バフォメットか。そう言や、そんな設定有ったなぁ。
「幼生体の時はそんなこと言って無かったじゃん」
「トールさん、これが竜だって、言わなかったじゃないですか!!」
「言ってないしな、知らんかったし」
そう言えば、バフォメットがそんなこと言ってた様な? てか、ニーズヘッグも竜なんか。いや、こっちが本当の竜なのか? 自称邪竜と違って。いや、アレも自称ではないんだろうが。
その辺どうよ。
『【回答】竜とは、単一種を呼ぶ呼称ではなく、ある一定レベルを超える強さを有する個体につけられる称号の様な物です。マスター』
あー、そう言うカテゴライズなんね。そう言や、邪竜にしろニーズヘッグにしろ、強かったちゃぁ強かったし厄介だったちゃぁ、厄介だったな。
「そりゃ、ドラゴンスレイヤーのトールさんは竜を倒せれば満足なんでしょうが、見た事の無い素材ってのは貴重ですし、色んな所からの需要が有るんですからね!? 特に竜素材なんかは!! ああ、どうしてわたしは、あの時、血を洗い流させちゃったりしたんでしょうか!! 知らなかったとは言え、わたしのバカバカバカ!!!!」
人を『竜絶対殺すマン』みたいに言うなや。
「そう言や、幼生の方は集めんかったもんな」
「蛇の魔物の亜種だと思ってたんですよ!! 一応のサンプルくらいしか採取して無かったのが悔しくて悔しくて!!」
佐為ですか。
「んじゃ、ほれっ」
そう言って、ニーズヘッグをヴィヴィアンに投げ渡す。受け止めそこなってファンブルしてこけてスライディングの上、頭にニーズヘッグをのっけたヴィヴィアンは、ハッとして立ち上がって、まるで眼鏡を探すコントの様にアワアワとニーズヘッグを探し、頭に乗っかってる事に気が付いて取ろうとして引っ付かれてる事に気が付いて悲鳴を上げた。
何やってんだか。
ま、これで討伐も終わりだ。後はギルドに任せるさね。




