不死を殺す、たった一つの冴えたやり方
暴れ回るニーズヘッグを避けつつ、端から削って行く。無数の尻尾が飛び交う中、それを避け、いなし、弾き飛ばしながら少しずつ削り続ける。
てか、さっきよりも尻尾の数増えてねえか!?
「アオン!」
バラキの鳴き声に視線を動かす。削り取った筈のニーズヘッグの体の一部がウゾウゾと動き這っている。
はぁ!? どう言う事だってばよ!!
まさか、本当に不死って訳じゃねぇよな!!
タシタシとバラキが踏みつけるソレを俺はファティマで拾い上げると一旦その場を離脱した。ウリが『任せて!』とばかりに一吠えする。頼もしいな!! 兄弟!!
少し離れてオファニムからパージ。ファティマもメイド形態へ。
虹色に光る鱗の一枚の様に見えるが、確かにさっきまではウゾウゾと蠢いていた。
裏返し、矯めつ眇めつ観察する。
「!! え? これって、もしかして、さらに小さい幼生体なのか!?」
平べったくはあるが、確かに厚みがある。眼球こそないが鼻なのか小さな孔が確認でき、その下方に吸盤の様な形状の口と思しきものが確認できた。
「ファティマ」
『【了解】確保してきます。マスター』
俺の考えを読み取ったファティマが戦闘をしている場所へと駆けて行く。
その戦闘している場所を見て、俺はハッと気が付いた。
「流血が殆どない」
だとすると、俺の想像の裏づけが取れるかもしれない。そう思ってた所にファティマが戻って来た。
『【献上】マスター』
同じ様な鱗状の大小の物体。それら全てを手に持って確かめる。
そしてその中の一つをエクステンドで形成した刃で貫いてみた……のだが……
「柔軟で、堅い」
刃は通らず、ブランブランと揺れていた。ならば、と、エクステンドを高速回転させる。だが、それも貫くまではいかない。
結局、ソレを貫けたのは、地面に固定した上で、エクステンドドリルを威力マシマシで使ってやっとだった。
この鱗状のソレは、多少の個体差はあれど、全て同じ様な生き物だった。
「そう言うカラクリかよ」
おそらく、あのニーズヘッグはいわゆる群体なのだろう。無数のこの生物が群れて、1体の生物の様に振舞っているのだ。
これが、プレニーズヘッグと呼べるような更に幼い幼生なのか、それとも、幼生が育つとこの生物に成るのかは分からない。
だが、下手な攻撃をした所で、たった一匹を表面から剝がすだけの結果にしかならないって事は分かった。
あの巨体だ。いったいどれ程の数が群れているか見当もつかない上、表面から剥がれたとしても、確実に潰さない限り、ああやって本体と合流して元の状態に戻るだけだろう。
いや、下手をすれば、全く別の場所に群れを作って後ろから襲撃なんて事にもなりかねない。
もしかしたら、この群れの中にリーダーと言える個体が居るのかもしれないが、それを確認する方法がない上、すでに二体に増えている事から、リーダーに成れる個体が一体だけとも限らないのだ。
どうする? どうしたら良い?
相手の正体が分かった所で、今までみたいに単純な腕力で吹っ飛ばせば終わるって相手じゃないって事が分かっただけだ。
今まで幼生だと言っていたニーズヘッグは、少なくとも高熱で焼き殺す事も切り刻む事も出来た。
もしこれが更なる幼生体って訳じゃなく、成体だとするのなら、濃縮成長をしてるのかもしれない。
いや、考えが逸れた。どうしたら、倒せるか、だ。
確かに渾身の力で一匹ずつなら潰せるとしよう。だが、それだと間違いなくこっちの方が先に潰れっちまう。あの巨体を構成するのが、どれ程の数に成るのか全く分からない。少なくとも千や二千じゃ効かないだろうからな。
だとすると、まとめて潰せる方法の方が良いだろう。問題はその方法だ。
今、俺は一人じゃない。イブもジャンヌもファティマや犬達。ついでにバフォメット、こいつはあまり手を貸してくれなさそうだがベルゼブブも居る。
これだけの手札が有れば……
「何か、思い付いた様だな! ライッバルッ、トーーーーール!!!!」
「どわ!!」
いつの間にここまで近付いた!!
「おまっ、いつの間に!! てか、向こうは良いのか!?」
何かベルゼブブから「ふざけないでよ!!」って声が聞こえるが。
「なに、吾輩もそろそろ飽きてきたのでな。ただ散らすだけの作業など、何の感慨も無い」
ああ、うん、こう言うヤツだよな。
いや、とにかく今は倒し方だ。
「……オドの解放の仕方を教えろ」
「ほう?」
******
魔力装甲を解除して、俺は1人森の中に立った。作戦を効果的に行う為、身体能力向上も切ってある。
イブとジャンヌにはファティマから既に作戦を伝えて貰った。
……また、イブに泣かれそうだよなぁ。
いや、気持ちを切り替えよう。全ては討伐を終了してからだ。
肝はベルゼブブなんだが、そっちはバフォメットに任せよう。なんだかんだでバフォメットの事信用してるのか? 俺。いやいやそんな事ないだろう。いきなり襲って来る様な輩だからな? あの魔族。
俺は深呼吸を繰り返し、体調を整える。バフォメット曰く、オドは生命力が活性化している時に最も放出されるらしい。
因みに、死の直前も大量に放出されるそうな。いわゆる蝋燭の最後の煌きとかってアレだ。
その為に、魔族の中には態々、その瞬間を狙って人間を追い詰める輩も居るんだとか。何度考えても人間と相いられない種族だよな。魔族。
いや、それは関係ない話だったな。
イブとファティマ、ジャンヌとケルブも含めた犬達と、バフォメットとベルゼブブがニーズヘッグを押さえてくれている。
「良し!! 開始だ!!!!」
そう叫ぶと同時に、俺は魔力装甲以外を全発動する。
プラーナが渦巻き、周囲に風が吹き荒れる。バフォメット曰く、この状態がオドも大量に吹きだしている状態なんだそうだが……
ビクリ、と一瞬動きが止まったニーズヘッグだったが、偉い勢いで俺に向かって来た。当たり前だ。今この辺りのオドはベルゼブブが枯渇状態にして居たんだ。
そこに、大量のオドをまき散らせば、どれ程極上の料理が出された様に見えるか。
飢餓状態だったであろうニーズヘッグが、俺に襲い掛かる。
俺は、そこから地を蹴り、大きくジャンプする。殺到し、二体だったニーズヘッグが混じり合い、一体となって、その巨体が俺を追う。
俺は、そこから更に宙を蹴って上空に身体を舞い上げた。
「イブ!! ジャァァァァンヌゥゥゥゥゥゥ!!!!!!」
「ん!! 【詠唱破棄】【エクスプローーージョン】!!!!」
『【了解】【詠唱破棄】魔法名【エクスプローーージョン】デス!!!!』
二つの爆発が伸びきったニーズヘッグを襲い、その爆風が俺の身体を更に上空へと吹き上げる。
だが、ニーズヘッグは苦し気に身をくねらせるも、倒すには至っていない。
そうだよな、表面だけ焼焦がしても、まだ足りないよな?
「バフォメットォォォォォォォォォォ!!」
「任された!! ベル!!」
「分かってるわよ!!」
ベルゼブブの黒い灼熱の風が、ニーズヘッグを覆い、俺を空中でキャッチしたバフォメットが、俺のオドを使って、更にその周囲を囲い込む。
なぁ、知ってるか? 電磁場ってのは、プラズマである炎を押さえ込めるんだぜ?
そして、完全に爆発ごとニーズヘッグを封じ込めた電磁場の檻が出来上がる。
「バフォメット!! 圧縮だ!!」
「ハハハハハハハハ!!! やはり、ライバル、トーーールは面白い!!」
俺の号令で、その檻が一気に収縮した。




