ゲ〇トオープン!! 解放!!
「緊張感が足りぬのではないか? ライバル、トール」
犬達をモフって居ると、バフォメットが声をかけて来た。そんな風に見えるかね?
「お前等については知らんが、人間、四六時中緊張してる事に耐えられる様には出来てねぇんだよ」
「だとしても、気を抜き過ぎではないか?」
「そう、思うか?」
こちらを見下ろすバフォメットに、あえて見上げる様に視線を送る。
「いや、ライバル、トールに関してはそんな事は思ってはいない。だが……」
バフォメットの視線は六脚で佇んでるキャンピングカーの方に。森の中に六脚の建物って、ジ〇リ作品的なファンタージーっぽさはあるな。
特に、その前で洗濯とかされると、幻想空間に生活感的な。
いや、それはともかく。
「言っただろ? 四六時中緊張してなんていられないんだよ。気を休める事も、重要なファクターだ。何事にも準備期間ってやつは必要なんだよ。第一、裏次元への通路を開く為にもこうして準備の時間が必要だっただろ?」
「成程? そうであるな」
そう言って頷くバフォメットを横目に、まだ魔法陣を描いているベルゼブブに視線を送る。
「ああ、ベルは、身体的攻撃力は低いが、術式制御に関しては高いのでな。こう言う時には役に立ってくれる」
コイツがこうまで言うのであれば、多分高いんだろう。俺には判別など付かんのだが。
「……こうしている間、ニーズヘッグからの干渉とか無いんかね?」
「その為に、ベルに“啜らせた”のだ。此方にオドが残ってなければ、向こうからの干渉も出来ないのでな」
「うん? ベルゼブブは、この状態で干渉してたよな?」
「それが出来るからの一流よ」
つまりは、ニーズヘッグの幼生ごと、全てのオドを啜り餐んだ時に、アンカーの位置を特定し、オドを消費させて干渉出来なくした上で、引っ張りだす手段を講じてるって事か?
確かにそれをあの短時間で行ったとしたら、凄まじいな。
「この間に、成体の方が逃げ出す可能性は?」
「それが出来るなら、幼生で薬草など貪り食おうとはせんよ」
どゆこと?
「オドが強いと言うのは、そのまま“世界”に影響を与えうる力が強いと言う事だ。今、ニーズヘッグは、あまりオドの強くない幼生を使って、オドは強いが、無力でもある薬草類を貪り食っていた。つまりはそれだけ弱っていると言う事でもある」
良く分かった様な分からない様な。要はニーズヘッグが移動できないくらいに弱っているから、使用コストの低い幼生を使って、摂取すると大量のコストを得ることの出来る薬草類を狙ったって事か?
そう、バフォメットに訊ねると、概ね合っているらしい。
「準備、できたわよ」
ハスキーな美声がそう告げる。ベルゼブブの若干怯えを含んだ眼差しが、俺を映している訳だが、お前を叩き潰したんバフォメットなんだが、何故、俺に対して怯えを見せるんじゃろか? しかも今の俺、オファニムどころか魔力装甲すら発動していない、生粋の三歳児なんだが?
まぁ、侮られるよりは良いか。
「で? 俺はどうすりゃ良い?」
「うむ、通路の前に立っていてくれれば、後は吾輩がやろう」
佐為ですか。突っ立るだけの簡単なお仕事。……お仕事って言えば、ルールールーは起さんで良いんじゃろか? 俺の情報をルーガルーん所に持ってくのもアイツの仕事だと思うんじゃが?
まぁ良いか。俺、困らんし。
******
準備が終わり、気絶娘たち以外が魔法陣の前に集まる。怪人態のバフォメットとベルゼブブが、俺の後ろで配置についた。
バフォメットも怪人態なんな。気合入ってるやね。それ位本気って事か、通路繋ぐだけなのに。
いや、むしろバフォメットが本気になる位、通路を繋ぐのが難しいって事か。
それを本能でこなしてるニーズヘッグが凄いのか、本能でやってる事を魔法陣として扱えるまでに解明してるバフォメットが凄いのか。戦闘民族なのになぁ。
バフォメットが俺の頭に手を乗せ、そのバフォメットを後ろから抱きすくめる様にベルゼブブが寄り添う。
若干恍惚としてるように見えるのは、俺の気のせいかね? 何かオドを同調制御する為にはなるべく多くの面積を密着させる必要があるとか何とか……
バフォメット、俺の頭に手を置いてるだけなんだが? 吸い取るだけだからこれで良いらしい。いや、バフォメットに抱きすくめられたか無いが、多分にベルゼブブの感情的な何かが混じってる気がするんじゃよ。
うん、どうでも良いな。
「では、始めるぞ!!」
バフォメットの言葉で、俺の中からオドが……う~ん。特に何も感じんのじゃが? 何か吸い出されてるとか、疲労感を感じるとかも何もない。
その割には後ろで「グッ、うう!!」とか「うん! うふぅ!!」とか声だけが聞こえる。バフォメット達は真後ろだから目では追えんのだが、イブの様子を見れば、目を見開いて、何か顔を赤くしてるし、ファティマやジャンヌも、気拙そうに直視しない様にしてる。反応が無いってか欠伸とかしてるのは犬達くらいじゃろか?
いや、俺の後ろで何が起こってるの? いやホント、マジで。
「くぅ!! うっあああ!!!!」「ふうぅ!! あ!! くううう!!!!」とかって、一際大きな声が聞こえた瞬間、魔法陣の描かれた線から、そして魔法陣全体が光り出し、周囲を虹色に染めた。
パキィィィィィィィィン!!!!
何かが割れた様な音が響く。
光が治まり、そこに現れたシルエットは、直径で言えば10mを軽く超える胴体を持つ、角の生えた蛇。ただし、その体は無数に枝分かれし、絡み合い、蛇団子の様な感じに。
テズルモズルって知ってる? ヒトデの一種らしいんだけど、あんな感じの塊。
って、え? もしかして、あの分岐してる尻尾が全部幼生体に成るん? マジで?




