知らない方が良いって事は確かにあるんだわ
復活したベルゼブブは、さっそくニーズヘッグの成体の居場所を察知した。
凄いな魔族。あんな状態からでも復活できるんだな。
予想通りと言うか何と言うか、ニーズヘッグの成体は裏次元に潜んではいるものの、幼生体が出現していた場所に一緒に居たぽっい。
『【解説】そもそも、ニーズヘッグの幼生体は成体からあまり離れて生存が出来ないデス』
どんな生態なんじゃろ? 形状から考えれば蛇の魔物なんだろうが、前世の蛇と生態が違い過ぎて全く参照できん。
そもそも蛇の生態なんざ詳しく知らんしな。ただ、幼生体を引き連れている蛇とか、前世ではおらんかったと思うんだが、どうだったんだろ?
「で? ニーズヘッグの成体は、引っ張り出せるのか?」
「ふむ、オドをアンカー代わりに、こちらの次元と繋がってるのは確かだが、流石に次元に穴をあけるのにはエネルギー量が足りん」
俺の方をチラチラと見ながら、バフォメットがそんな事を言う。言いたい事があるならハッキリ言えよ。
「アンタのオドを使わせなさいよ」
『【警告】それ以上マスターには近づかないでください』
少し、怯えの入った視線で俺を睨みながら言ったベルゼブブの言葉に、ファティマが反応する。うん、さっき、俺達を巻き込んで攻撃しやがったからな。
と言うか、俺のオドを使わせるってのは? どゆこと? ファティマとベルゼブブが睨み合ってるんで、俺はバフォメットの視線をやる。
「うむ、ライバル、トールのオドは、他の追従を許さぬほどに濃密で芳醇なのだ」
だから、その枕詞って、必要なのか? そう言えば、俺のオドは、漏れ出してる分だけでも十分満足できる程“濃い”とか言ってたか。
つまりは、それを次元開放のエネルギーとして使わせろ、と。
「どうやって使うんだ? やり方さえ教えてもらえれば……」
「いや、教えて居られる程、時間も掛けられんだろう? 『許可』さえ貰えれば。吾輩が代わりに使用しよう」
まぁ、そうか、俺はイブと違って、教わって即時使える様に成るって程、天才じゃねぇからな。むしろ、何やるにしろ前提となる物を必死に特訓するタイプだ。まぁ、要領は悪いって自覚はあるわ。
******
バフォメットがベルゼブブに何かを指示し、地面に何か図形や数式の様な物を書いて行く。俺は、それを見ながら少し眉根を寄せた。
これ、あれだ、魔法陣だ。エロイムエッサイムのやつだ。
え? 裏次元との通路を開くってこんな方法なの? 俺の考えてた似非科学チックにバカでかいコイルに電流流して、放電現象ババババーって感じで、空間に七色の亀裂が入ってって、未知の世界へヨーソローではなく?
これに俺のオド使うって、最早、生贄感しかないんじゃが?
いやぁ、バフォメットやベルゼブブには似合い過ぎるほどに似合ってて。逆に違和感が凄まじいわ。
そう言えば、バフォメットってサバトの悪魔だったか。コイツは魔族だが。
え? やっちゃうの? サバトっちゃうの? ここで。
!! バフォメット、魔法陣、裏次元への通路!! 全ては繋がってたんだ!!
「つまり、裏次元は地獄だったんだよー!!」
「な、なんだってえー!!」
ふう、満足した。
今回は『裏次元への通路を開く』って目的があるから理解できるが、本やらメモやらも見ずに、指示を出せるバフォメットに、つい“他にはどんな目的の魔法陣を知ってるんだ?”とか“これらの魔法陣っていつもは何の目的で使ってんだ?”って言う疑問が湧く。
コイツ等が道徳的な善悪で行動していないのも分かるが、冒涜的な善悪で動いている訳でもない。俺だって目的の為に手段を切り捨てる事もあるし、後ろ暗く成らない程度にグレーゾーンを歩く事もあるからな。
そもそも聖人君子の様に正義を掲げて、悪を許さないなんて事を言うのなら、今ここで、こんな風に共闘なんてしちゃいない。
まぁ。こんな事、考えててもしょうがないんだが。
取り敢えず、魔法陣が出来上がるまで、俺に出来る事は無い様だな。
この間に少し休んどくかね。魔力庫の方にプラーナも溜めときたいし。
そう思って、キャンピングカーの扉を開けると、何か、ルールールーが倒れ込んできた。
「なんだ?」
車内を見れば、ヴィヴィアンもソファーの上で白目をむいている。
……あー……【恐怖】に晒されてオチたのか。エリスやイブの時みたいにある程度心構えが出来てたならともかく、唐突にアレを喰らえば、気絶位するよなぁ。失敗失敗。
ん? 違和感に気が付き、気絶娘二人をよく見る……
…………
……
あー……
お~い! ファティマさんや~い!!
******
イブが洗濯用の水を生成し、ジャンヌが風魔法で換気をする。洗濯位なら俺がやっても良かったんだが、女性陣から「駄目」とのお達し。うんまぁ、モノがモノだしな。
仕方がないんで、オファニムも脱いで犬達とのふれ合いタイム。
あ、女性としての尊厳を取り戻させた、ヴィヴィアンとルールールーは、二階のベッドルームに転がしておいた。
何でとは言わないが、車中泊の準備が合って良かったよね。何でとは言わないが。
気絶したままの二人が居るキャンピングカーの二階を眺める。
うん、知らないって、幸せな事だよね。




