鳴り響かせるは戦いへの雄叫び
ガキョンガキョンと言う音を響かせながら、機動キャンピングカーが森の中を進む。
いや、自分で言ってて意味不明だが、そんな感じなんよ。
ケルブも今は“伏せ”の状態で、変形した御者台の所に収まってる。前世でこんなプラキットあったなぁ。あれは猫だったが。
いや、なんかもうファンタジーどこ行ったって感じなんだが?
「フハハハハハハハハハ!! 流石っ!! ライバルッ、ト~~~~~ル!! 吾輩には想像もつかぬことをやってくれるぅ!!」
バフォメット。悪いがコレ、俺も想定外だかんな?
1つの物に多属性を付けたがるのは、古代文明の特性かなんかなんかね?
何というか、こう、前世の日本人的な? ナンバーワンよりオンリーワン的な? ちょっと違うか。
俺達は、先ずヴィヴィアンの指示で、薬草の群生地を目指している。ベルゼブブがニーズヘッグのオドを拾えるかどうかは、まだ未知数ではあるが、少なくとも、現状で感知は出来ていない様なので、一先ず居るであろう群生地に向かう事にした訳だ。
俺は今、オファニムを纏った姿で御者台のケルブに跨り、ジャンヌを構えている。左右にはイブとファティマ。
そんなキャンピングカーの周囲に、ミカとバラキを始めとした犬達が走り廻っている訳だが。……ウリ、何でお前は樹上を駆けてるかね? もっとこう、犬らしさをだな……
うん、無理だ。俺には説得できんわ。俺自身が、3歳児らしからぬ事やってんのを自覚してっからなぁ。
……? 視線を感じて振り向く。ベルゼブブか? 不自然に顔を背けられた。何じゃろか? のっけからあまり良い感情を持たれて無かったっぽいが。
おっと、余計な事を考えてる場合じゃなかった。俺は眼前の通るのには邪魔になる木をジャンヌの魔法で薙ぎ払いついでに、飛んで来た妖虫種を串刺しにしてから放り投げる。
相変わらず妖虫種の数は多いが、周囲の犬達とイブが潰してくれているんで、俺の所にはたまにしか来ないんだがね。
でもまぁ、こういう状況だと、ファティマ振り回すより便利だよなジャンヌ。
いや、ファティマもごねたけど、本番前の露払いの様な物だって、言いくるめて宥めすかして、ご機嫌とって、後で二人っきりでプラーナの注ぎ込みをするって約束をさせられて、ようやっと納得してもらったわ。何だこの修羅場風味。
それでも、まだちょっと不機嫌なファティマのジト目を横に感じながら、その上背後からはベルゼブブの視線が刺さりまくるって言う謎状態。酷く居た堪れないんじゃが? どうにかならんかね?
成らないかぁ。そうか、残念だ。
そんな感じの針の筵状態で薬草の群生地へ。
邪魔な木を薙ぎ払い、妖虫種を仕留め続ける事、数時間。
不意に、目をギラつかせたベルゼブブが、ニタリと嗤いながら御者台と車内を繋ぐ窓から身を乗り出して来た。
「感じるわぁ! とても食欲を刺激する、香ばしい香りが!!」
え? オネエキャラ? それともマジ女性? どっち?
見た目も声もどっちともとれるから良く分からんわ! てか、やっぱり香るんな。オド。
ベルゼブブの反応から遅れて、俺にも気配が察知出来た。凄いな、これなら裏次元に居る成体も、見つけ出せそうだな。
思わずニヤリと笑みがこぼれる。
って言うか、ヴィヴィアンの予想、相変わらず的中率高けぇな。ホント。
這いずる音、爬虫類特有の匂いがカビ臭さと共に大気に混じリ始めた。
森が開ける。そこに広がるのは、ここ数日でおなじみに成っちまった光景。
薬草や、カビに群がるニーズヘッグ幼生体の姿。あれだけ連日倒しまくってるってのに、数が減った様に思えんってのが……
『【肯定】実際に、減った分だけ成体から補充されているのでしょう』
リポップポイントがニーズヘッグ成体に付随してる様なもんか。成体の方を倒さんと埒が明かねぇってのが厄介な。
「行けるんだよな?」
キャンピングカー内のバフォメットに声をかける。打合せ通りで行くなら、俺達の仕事はベルゼブブの護衛って事に成る。
「正直、つまらん仕事ではあるが、ベルの能力は信頼できる」
「ああん! バフィがアタシを褒めてくれている!!」
ん、んんんん~~~~~?
色々と気に成る反応だが、今は意識を切り替えよう。
ベルゼブブの食事中、無防備になるその身体を守るってのが俺達の仕事だ。それも、相手を殺さない様に。
まぁ、生きている限り、ニーズヘッグ共はベルゼブブの餌でもあるからなぁ。
「ルールールー!! ヴィヴィアンを頼んだぞ!!」
「わかりましたトールさん!!」
「ええ! わたしは引き籠って居ますとも!! ええ!」
ヴィヴィアンには外を見ない様に言い含めてある。ベルゼブブの使う魔法が、今までの俺達の戦い方より、更にえげつないっからって事で言いくるめて。
ルールールーは見てても構わないが、見た物は信頼できるルート以外には漏らさない様にって言っておいた。
いや、知られた所でバフォメット達本人はどこ吹く風な気もするが、周囲の反応がね。大体予想が付くというか……
俺達に気が付いたニーズヘッグ達が、鎌首をもたげてこちらを威嚇する。ヴィヴィアンとルールールーがキャンピングカー内に退避したのを見届けて、俺はケルブを御者台からパージさせると、オファニムとケルブを合体させた。
四脚で大地に立った俺は、手に持っていた聖槍を上空に投げ、掌を彼女に向ける。
「ファティマァァァァァ!!」
『【了解】イエス!! マスター!!!!』
俺の呼び声と同時にファティマが聖斧モードへ変形し掌に収まり、逆にジャンヌは魔法使いモードに変形し御者台に降り立つと、杖を構えた。
『【気合】個体名【イブ】!! ボク達もやるっデス!!』
「ん!」
イブとジャンヌが風魔法の【ウィンドウォール】でキャンピングカーの周囲を守る。
「おお! 流っ石はっ!! 吾輩のライッバルッ、ト~~~~~ル!! この短期間でさらなる進化を遂げているとはっ!! 良いっ、闘志!! 良いっ、向上心!!」
「クッ!! バフィが認めるだけの事はあるわね。強さに対する貪欲さ!! 実に美味しいわっ!!」
ううぉぉぉぉぉぉぉぉぉい!!!! 美味しいってなんだ! 美味しいって!!!! つまみ食いしてんじゃねぇよ俺のオドを!!!!




