続々魔族
色々と言いたい事はあるが、S級冒険者て。
どっから生えてきた? 少なくとも公都では聞いた事はないんじゃが? てか、そもそもそこの魔族。何でお前が冒険者登録とかしてるって話だし、初めましてで、ライバルって何ぞ?
「お前は知らないだろうが、テモ・ハッパーボ卿は傭兵国のガイロウズでは有名な冒険者でな、各国の達成困難な依頼だけをこなしA級の上であるS級にまで上り詰めた英雄の1人なんだぞ」
「……その達成困難な依頼って討伐系だろう?」
「なんだ、知ってたのか?」
「想像はつく」
主に、嬉々として魔物を狩ってる所が。ただ、コイツが護衛依頼とか貴族連中を前に大人しくしてるとかのイメージが全くわかないんだよな……
『【思案】目撃者は全員消してるのでは?』
物騒な物言いは止めれ。ファティマ。俺も一瞬そうじゃないかと思っちまったが。
ただ、そうじゃないとすると、可能性は一つか?
「テモ・ハッパーボ卿」
「テモ! とフランクに呼んでくれたまえっ!! ライバル、ト~~~ルッ!!」
「……テモさんよ」
「何だい!? ライバル、トール!!」
「もしかして、ガイロウズとやらのマスターもそうなのか?」
で、ないと、多分この性格破綻者がS級なんてランクで、活動を維持できているっちゅう事の理屈に合わない。
俺の言葉に、テモことバフォメットがニヤリと嗤う。
「ふっふ~ん? バルバドスの事が気に成るのかい? 確かにヤツも、ライッバルッ! ト~~~~ルの様な気質の持ち主はっ! 大っ好っ物っ! だ!!」
聞きたくなかったなその言葉! 何じゃ、大好物て!! てか、バルバドスってば、ソロモン王の悪魔じゃねぇか!! って事は魔族なのは確定って事じゃん!?
いや、魔族。どんだけ人間社会に潜伏してんの!?
『【不快】取り敢えず消しますか? マスター』
だから、物騒な物言いは止めれ。それだと魔族と思考が一緒って事に成るからな?
『【反省】失礼しました。マスター』
そうか、傭兵国のギルマスは魔族か。確かに、人間態に成る事で【恐怖】の発動を押さえられてるなら、人間社会に溶け込めるだろうけどさ。
納得したか無かったが納得した。
ゴモリーの例もある。こいつ等、思ってたよりも人間社会に浸透していやがるわ。
まぁ、ここで俺が一人騒ぎ立ててもどうにもならんって事も分かった。
テモ・ハッパーボ卿って事は、つまりはどっかの国で授爵してるって事だ。恐らくは傭兵国でか。
あの国は元傭兵だった人物が興した国だと聞く。その気風を受け継いでるだけあって、強者こそ尊敬される。
だからと言って弱者が搾取されるって訳でもなく、むしろ、強くなる為の努力を怠る様な輩が見下されるって感じらしい。
聞けば聞く程バフォメットと相性の良い国だよな。まさか、傭兵国の王様も魔族じゃねぇだろうな?
うわぁ、疑念が払拭できねぇ。
いや、考えても応えの出ない事は考えない、例え今、目の前にいる魔族に聞けば分かろうが、知らん事は知らんと言う事にしとけ!!
それはともかくコイツが共闘してくれるって言うなら、心強いのも確かだ。敵対してると、これでもかって程厄介だが、味方なら……あれ? やっぱり厄介な気もするんじゃが?
『【確認】排除しますか? マスター』
それ、さっきと変わってないからな?
いやいや、邪竜と対峙した時にはちゃんと共闘できてたし、大丈夫だ、うん。大丈夫。……多分。
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「ふむ、オドでニーズヘッグを探れないか、と?」
取り敢えず、グラスには聞かせられん話も有ったんで、場所を移す事にした。教会には何と無く連れて行き辛かったんで、以前セーフハウス代わりに作っていた場所の一つへと連れ込んで、俺の考えてたオドでニーズヘッグの居場所を探す事ができないかって話を振ってみたんだが、バフォメットは人間態のままで腕を組み、口元を押さえた。こう、何と言うか乙女ゲーのスチルにでもなりそうな光景だな。
こん畜生。人間辞めてるのに美形な上にイケボってどう言う事だってばよ!!
「さすっがはっ!! ライバルッ、ト~~~~~ルッ!! その発想力、賞賛に値するっ!!!!」
うざっ! だが、ニーズヘッグの成体を倒すのなら必要な事だと思うんよ。
「出来んかね?」
『【軽蔑】やはり、邪神に魂を売った様な輩に、繊細な力の行使など出来ない様ですね。ザマァ』
『【侮蔑】所詮は欲望で人の道を踏み外す外道デス。期待する方が間違っているデス』
「ぶっ壊されたいのであるか? 木偶人形共!」
「ファティマにジャンヌ、ちょっと黙れ。そしてバフォメット、謝るんで続きを話してくれ。すまんが」
俺の言葉にファティマとジャンヌが気拙そうな雰囲気で項垂れる。
『【謝罪】申し訳ありませんでした。マスター』
『【謝罪】ごめん、オーナー』
バフォメットには謝らんのか? おまいら。まぁ、気持ちは分からんでも無いが。だが、今は止めてくれ、話が進まん。
俺が両手を合わせて頭を下げると、バフォメットが仕方なしとばかりに溜息を吐きつつも話を続けてくれた。
「吾輩には無理だが……出来る相手なら知っているぞ?」
その【加護】を貰った邪神によって好みのオドが違うんだったか。バフォメットは闘争とか向上心だったか?
と成るとニーズヘッグと相性の良い魔族か? だとするとニーズヘッグのオドは何だろう?
「うむ、ベルゼブブと言う……」
「【暴食】の悪魔じゃねぇか!!」
「魔族だが?」
いや、確かにこの世界だと悪魔じゃなくて魔族なんだがね。悪魔は神話に出てくる事があるって程度の存在で、もはや御伽話の住人なんだったか?
いや、前世でも悪魔なんてフィクションの存在だったんだがよ。
しかし、出来るって言うのなら助力を願いたい所だが、しかし、この超個人主義の魔族が「力貸して」って言ったとして、素直に力を貸してくれるのか?
いや、そもそも、あんまり魔族の知り合いなんぞ増やしたか無ぇんだがなぁ。




