取り敢えず撒く方向で
「出て来ないのな」
『【予想】マスターの力を恐れているのでは?』
「どうでも良いから、もうちょっと周囲の被害を考えてよぉ!!」
焼け野原にしない様に全部ぶった切ったのに、文句の多い奴だ。確かに一面血の海に成ってはいるが、ちゃんと焼け焦げてはいないし、元の植物だって残ってるじゃあないか。
ああ、そう言や、血をぶち撒けた所って、土壌が塩化や強酸性化するんで発芽しにくく成るんだったか?
「灰でも撒いとくか?」
「何で、そんな物撒くのかな? さっきもカビの種撒いとけとか言ってたけど、そんなに何か撒くのが好きなのかな?」
う~ん、この反応は、土壌のペーハー云々って話じゃないのか?
いや、てか、この間酸性アルカリ性に付いては分かってる筈がないって結論出したばっかじゃん。
「数が尋常じゃないんだから、どう倒したって、血塗れにはなると思うぞ?」
「ゔ、それは、そうかも知れないけど……」
「古戦場等、死が多く残る場所では、残った無念の為に植物が育ちにくいと言う話の事では?」
ああ、ペーハー云々ではなく、無念とか話に成ってるのね。あれ? そうすると、灰で浄化とか、そう言う概念は無いんかね?
まぁ良いか。ジャンヌ、水撒いて洗い流したんさい。
『【了解】オッケーデス!』
俺の言葉にジャンヌが応え、初級の水魔法で周囲の血を洗い流して行く。イブは、それを少し羨ましそうに見ていた。
イブは、炎系の魔術が得意で、その関係なのか、次いで風と土、水と続いて、最後に闇系の魔法が来る。
水系の魔法は、出来ない訳じゃないんだが、何と無く苦手ではあるらしい。まぁ、まだ制御が不安定なんで、出力が……ね。たぶん今使うと、鉄砲水みたくなるんじゃなかろうか?
光系は、そもそも聖職者じゃないと覚えられない系統なんで、使う事ができない。要は、回復系な訳だが……【浄化】って光系じゃないんじゃろか? イブ、使えるんですけれども?
そもそも、この分類ってどうやって確立したんだろうかねぇ?
確かに、目に見えるって意味だとこう言った分類に成るのも分からんではない。
だが、前世の記憶がある自分からすると、随分可笑しな分類に見える。
まぁ、プラーナで色々物理現象を覆してる俺が言う様な事じゃないんだろうがね。
第一、この世界の知識系統が、経験則の成功体験に基づいて確立されてる以上、俺の前世とは齟齬が生じるのは致し方ないんだがな。
ただ、物理法則さんは、前世とほぼ同じ気がするんよね。魔力ってイレギュラーのおかげで、色々食い違いが発生してる感じ?
まぁ、前世と違うのは魔力だけじゃなくて“オド”や“プラーナ”もそうだけどさ。
……あれ? オド? オドって、生物なら何でも発してるんだよな?
裏の次元ってはどの程度この世界と乖離してるんだ? 気配は無理でも、オドみたいな不思議力場とかなら感知できんもんじゃろか?
どこぞのSF作品で電磁場を発生させて次元に穴をあける的な似非科学が有ったと思ったんだが、もし、ニーズヘッグが、自身の生体磁気を使って次元に穴をあけ、そこを出居るしてるとするなら、その干渉は裏と表の次元に通じて居なけりゃできないハズなんだ。
なら、それを感知できれば、おのずとニーズヘッグを捕らえる事ができる……ハズ。
ただ、その為には“オド”を感知できることが前提何だが、俺の知っている限り、そんな物を感知できる存在なんて、あの邪竜とバフォメット達“魔族”。
う~ん、まさか、魔族の手を借りたいとか思う日が来るとは。
だが、何処にいる中分からん上に、そもそも基本的にあの迷惑以外何物ではない種族とは会いたくない。
魔人族の人とか、チラッとでもオドの感知が出来んもんじゃろか? 聞くのも何だが。
「トールさん、これからどうします?」
ルールールーが、そう聞いて来る。この娘も、今回、冒険者登録させて追従させたら、随分と大人しくなったわ。
まあ、百聞は一見に如かずと言うヤツかね。曽祖父から、いくら「あいつは強い」的な事を聞いてたとしても、実際にその戦闘力を目の当たりにしなけりゃ納得なんぞ出来んもんな。
ただ、ちょっと遠い目をする事が多くなったがな。
さっき、ニーズヘッグ(幼生)を殲滅している最中も、護衛させてるヴィヴィアンと一緒に、どこか遠い所を見てたし。
いや、構わんっちゃ、構わんのだが、折角だから見取り稽古位はして欲しいんじゃが? え? 無理? 見えなかったと? そ、そうか、それは残念だ。
「まぁ、成果はあったっちゃぁ、有ったし、報告がてら、一回戻るか」
「承知しました」
『【了承】そうですね、オファニムやケルブのメンテナンスもしたいですし、それが良いと思いますマスター』
何も言わないが、イブやジャンヌも魔法の撃ちっぱなしで、少し疲れてるみたいだしな、久しぶりに狭くない状態で休ませたいしな。
キャンピングカーのおかげで、ベッドは使えるんだが、少々手狭なのも否めないんじゃよな。
******
俺に油断は無かった。そのハズだ。
だから、この状況は俺の予想の範疇をはるかに超えた事態だった、それだけの事だと思う。
「S級冒険者のテモ・ハッパーボ卿だ、今回のニーズヘッグ討伐に立候補してくれたんだぞ? この方ならお前の戦闘にも対応できるだろう」
報告に行ったグラスが、ドヤ顔で金髪の偉丈夫を紹介してきた時、俺は顔を引き攣らせる事しか出来なんだわ。
ああ、確かにコイツなら、俺の戦闘にも、十分対応できるだろうさ!!
俺の目の前にいる男は、バフォメットの人間態なんだからさ!
「うん、初めまして、我がライバルっ ト~~~~~ルッ! 吾輩がっ! テモ・ハッパーボである!!」
マジか。




