殲滅作戦を開始したんだけどね
どれだけポンコツだろうと、そこは一流だってこったろうな。ヴィヴィアンは、薬草の分布をまとめ上げ、その薬草の種類、今までニーズヘッグが襲っていた傾向から、次にニーズヘッグが襲う可能性の高い場所を導き出した。
「あくまで、可能性なんだけどねぇ」
とは言うが、虱潰しにしようと思ってた俺とは比較に成らんだろう。コイツはコイツで天才ではあるんだろうな。残念少女だが。
実際には、現場まで行ってみて、その都度情報の修正をしなけりゃならんらしいんだが、全く目算の経たなかった事を考えると、天と地ほどの差がある。
まぁ、取り敢えずは行ってみるかね。
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「いやぁ、ある意味壮観だなぁ」
「ちょっと気持ち悪いねぇ」
「トール、さま……」
ウゾウゾと薬草ってかカビか? あれ。朽ちた木に群がるニーズヘッグの幼生の群れは、その数の多さも手伝って、生理的嫌悪が沸き上がる。
ぬらぬらとした表面の鱗がやけに艶々としてるのも、それに拍車を掛けてるなぁ。
あれだ、前世でガキの頃、無意味に蛭を集めて瓶詰にした時の事を思い出したわ。呼吸ができる様にって蓋に穴開けてたんだが、そこから脱出しやがったんよね。あの時はマジびびった。
ヴィヴィアンは軽口叩いてるけど、イブもルールールーも顔が青いし、ルールールーに至っては口すら開きやがらねぇ。メンタル弱いなぁ。諜報員なのに。
それはともかく。あの成体の姿は見当たらんが、取り敢えず、一発でビンゴって、流石としか言い様がねぇわ。
「イブ、ジャンヌ」
「ん!」
『【了解】オッケーデス。オーナー!!』
二人が返事をし、空中に浮かぶのは合計60にも及ぶ【ファイアランス】。……こないだより数増えてねぇ?
「ふわぁ!! すっごい、ですぅ!!」
ヴィヴィアンが感嘆の声を漏らすが、しかし、その【ファイアランス】が、ニーズヘッグに次々に着弾するさまをみれば、その表情は唖然としたものに代わる。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!!
次々と起こる轟音と地震の様な揺れ。幼生とは言え、強靭な鱗を持つ魔物が、次々と吹き飛び、擦り潰され焼け焦げる。
こんだけ数が居ると、何処に着弾しても当たるなぁ。入れ食い状態だ。……ちょっと違うか?
「はわわわわわ!!」
あー。俺達にとっちゃ、ある意味見慣れた光景だが、残念少女にとっちゃ、衝撃的な場面だったらしい。
縦揺れでガタガタと震えながら白目剥いてやがる。
ファティマ。
『【承知】キャンピングカーに転がして来ますね? マスター』
うん、頼んだ。それと、ルールールーも連れてってやれ。まだ顔が青い。
『【了解】行きますよ個体名【ルールールー】、足の方を持ってください』
「……はい」
地形が変わる程の攻撃。それでも何匹かのニーズヘッグは生き残っているみたいやね。さて、本命が出てくるかどうかは分からんが、殲滅しますか。
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何ヶ所か周り、その都度ニーズヘッグ(幼生)を殲滅した訳だが……
「本命が出て来んのな」
ヴィヴィアンが指定した薬草の群生地に、ほぼ100%の確率でニーズヘッグが居たのは流石としか言いようがないが、だがそれは、それだけあの魔物達が、群生地へ群れ成しているってぇ事でもある。
その度にボコボコ魔法を放ってたんで、流石のイブとジャンヌもお疲れ気味だ。
いや、こんだけ魔法を放ってて、それだけで済んでるってのも凄いんだが。
で、殲滅する度に変わった地形を見て、ヴィヴィアンがまたぶっ倒れたんだわ。
「全く、鈍感なくせに繊細な奴だな」
「攻撃の度に地形変えちゃってる人達に、言われたくないですぅ!! ああ、来年からあそこ、ちゃんと薬草生えるのかな?」
大丈夫じゃね? 知らんけど。地面焼けてっけど、焼き畑農業って農法もあるくらいだし、きっと生えてくれるだろう。多分。
「心配だったら、カビの種でもバラ撒いとけ」
「カビの種って何です!?」
あれ? カビが狙いじゃなかったんかね? どの場所も生えてたじゃんね? カビ。まぁカビなら適度な温度と湿度が有れば生えるから。確かその為に態々ワインを塗って作るんだったか? ブルーチーズって。
そう言えば、こっちの世界に転生してから、チーズ食ってねぇな。レンネットだっけ? 子牛の第三胃にある酵素が必要なんだったか? あれ? 牛って居るのか? ……犬、猿、猪、兎、熊、甲虫、蝙蝠とか居るんだし、居るよな、きっと。
それはともかく、本命の成体が出て来ないな。ファティマの話だと、ニーズヘッグって、成体が居れば、単性生殖で卵を産んで増えるらしいんで、そっちを潰さん限り埒が明かないんよな。
ミッスルトーの時は、幼生体を潰してたら出て来たんだが……
結局、虱潰しをするなら、もうちょっと攻撃方法を考えんとな。
全ての薬草の群生地を焼け野原にしたんじゃ、本末転倒だしなぁ。
そもそも、なんでカビを狙ったんだ? 騒ぎが最近始まってるって事を考えると、ニーズヘッグの主食がカビやら薬草類って訳じゃないだろうし。
もしかして元々傷を負っていた? 最初のミッスルトーを喰らいに来たのは、それの治療の為……とか?
で、その時に俺と遭遇して、身体を半分まで切断された所為で動けなく成っちまったとか?
まぁ、仮定の話だ。正しいかどうかは分からん。
ただ、やはりあそこで取り逃がしちまったのは痛かったな。




