根本的な所でムリ
いつの間にかランクアップの条件が揃っていた件。
まぁ良いわ。別に誰が損するって訳でもないしな。
だが合同依頼! お前はダメだ。
って言ったんだが、どうしてもグラスが納得してくれんかったんで、「良かろう、ならば体感してもらおう」って事で、ギルドの訓練場まで来て貰った訳なんだがよ。
「ねぇ、今どんな気持ち?」
直接攻撃を喰らった訳でもなく、ファティマの一振りの、その衝撃波で吹っ飛ばされたグラスにそう聞いてみた。
「おま、マジか……」
気を失わんだけでも立派立派。邪竜討伐の時のアレは、流石にまだ再現出来てないが、通常の攻撃でも、これ位には成るんよ。
手加減できる相手なら問題はなかったんだがね、本気出すとなりゃ、これに耐えられる人材でないと話に成らんのだわ。
「おいおい、ランク詐欺がシャレに成らんレベルじゃないか!!」
「その言い方はどうよ」
自覚はあるがね、それでも貢献度ってやつは足りてないんじゃねぇかなぁ。
この頃はそうでもないが、基本的に、常設依頼に合致した魔物が、狩って来た獲物の中に有れば出してただけだしな。
確かにドラゴンをスレイヤーして来たけんどもよ、あれ、別に依頼って訳じゃ無かったしな。ギルドに対する貢献度って意味では、全く意味をなしてなかったんよね。
翻ってギルドに依頼されてたって事にしたとしても、じゃぁ、何処からの依頼だったんだって話になるし、あれだけの魔物の討伐と成れば、その依頼料も尋常じゃない大金に成るのは当たり前じゃんね。
ぶっちゃけ、魔人族国に、それ程の余裕なんて無かったし、あの国のギルドが出すってのも厳しかっただろうしな。
なんで、いくら詐欺だと言われても、ランクを上げられはせんだろうと。
「うがぁ!! マスター権限でも、一気に上げられるのはCランクまでだしなぁ」
「いや、ムリに上げるなや」
「上げねぇと詐欺だって言ってるだろうが!! “元”とは言え、Aランクを戦斧の一振りで吹っ飛ばす奴が、Dぇランクで良い訳有るか!!」
中々の錯乱っぷりだなぁ。だが、グラス、重要なこと忘れてんぞ?
「俺は、基本的に鎧を脱げねぇんだってばよ!」
スンッて音が聞こえるかの様な表情になったグラスが、「ああ……」と呟く。
上位ランクの冒険者となりゃ、名誉爵位を与えられたり、貴族との顔繋ぎが有ったりして然るべきなんだがよ。
俺、年齢を詐称してる関係上、そう言うとこに出て、素顔晒す訳に行かんのよ。最も、それ以前に貴族連中に顔を見られる事自体がマズかったりするんだが。
「そうか、お前は素顔を見られること自体がまずかったんだな。そう言えば」
「忘れるなや」
「そう思うんなら自重してくれてれば良かったんだよ」
「それで、魔人族国は滅亡してればよかったと?」
俺がそう言うと、グラスが苦虫を嚙み潰した様な顔をした。
「あー……うん、お前が他のパーティーと合同で依頼を受けられないってのは良ぉく分かった!!」
露骨に話逸らしやがったな。まぁ、良いさね。理解して貰えたなら上々だ。
******
ニーズヘッグの出現する場所ってのは、所謂ポーションの原料に成る薬草類のある場所に限定されているらしい。今の所は。
この魔物の厄介な所は、表次元に出て来るまで、全く気配を察知できないって所だ。
しかも、裏次元から表次元に出て来る時は、必ずと言って良い程、地中から出現するせいで、視認での確認も、し辛い。
そう、例え出現する場所が薬草の取れる場所だと限定された所で、何処を狙うかが分からない以上、どうしても後手にまわっちまうんよね。
「そこでぇ、わたしです!!」
「え? おまいも同行するの?」
「何で、落胆するんですかぁ! これでもわたし、植物のエキスパートですよぉ?」
いや、そりゃ知ってるけどよ、足手纏いに成るからって他の冒険者パーティーとの合同依頼断ってるっちゅうのに、そのまんま足手纏いでしかないヴィヴィアンを連れて行く事には不安以外のモノがないのだが?
俺が疑念を思い浮かべていると、ヴィヴィアンは、真面目な顔に成り居住まい正す。
「ニーズヘッグが、何を考えてポーションの材料を喰らい尽くそうとしているのかは分かりませんが、現状を静観していても、我々薬師にとっては痛手にしかなりません。そう言う意味でも、早期解決を目指したいと思っています。ですので、どうか力を貸してください。冒険者トールさん」
そう言ってヴィヴィアンが頭を下げた。そう言われてしまえば無下にも出来ん。どうやら、ヴィヴィアンには、ニーズヘッグを探し当てる手段に関しての秘策の様なものがあるらしい。
ならば、見せて貰おうか、変わり者錬金術師の実力とやらを!!
っつても、戦ってる時はどうしたもんかねぇ。
……そうだ、ルールールーを冒険者にしよう。




