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コーメーの罠

 グラスのヤツから呼び出されたのは、それから暫くしてからだった。

 自室で、ゴドウィン侯に打診して取り寄せて貰ったワインをルールールーに渡していると、ノックもそこそこにマァムが入ってきたんよ。


「ギルドから、『冒険者のトール』に、緊急だって!」


 ******


「洗い浚い吐いて貰おうか!!」

「お、おう」


 普通に対応された。詰まらん。


「……で、何があった?」

「……おう」


 ギルドの執務室で、俺とグラスが向かい合う。入って行った時の様子から、茶化す場面じゃないと判断した俺は、ソファーに腰を沈めると、グラスに話しを促した。


「件のニーズヘッグな、他のポーションの原料まで荒らし始めやがった」

「マジか!」


 ニーズヘッグ、高級ポーションの原材料の一つであるミッスルトーを食い荒らした魔物だ。その際には、俺も、ミッスルトーを集めるのに随分と苦労させられた。

 その時に遭遇はしたのだが、色々あって取り逃がしちまった相手でもある。

 ファティマの話では、普段は“裏次元”とやらに潜んでいて、ほとんど表に出て来ない。ってか、ミッスルトーを喰らう為に出てきたこと自体が珍しいって話だったんで、あんまり出て来ないって事なら、無理に討伐せんでも良かろうと放置してたんだが、まさかそれでポーションの材料に被害が出るとは、このトールの目を持ってしても見抜けなんだわ。

 いや、その可能性は微レ存で考えてたんだが、本当にそう成るとはって方が近いか。


 ポーションは、文字通り冒険者にとっては生命線とも成り得る品物で、これを持っていたからこそギリギリで生還できたって奴も多い。

 何せ、この世界、回復魔法の使い手ってのが神官や神父、僧侶と言った神聖職の、それも一部の者にしか使えない、神の奇跡だからだ。


 まぁ俺、自力で回復できるんで、あまり関係ないんだがな。


 更に拙い事に、そう言ったポーションの原料の一部ってのが未だに栽培に成功していない。つまりは採取以外では手に入らないものな訳だ。

 恐らく、今回ニーズヘッグが食い荒らしているのもそう言った採取以外で手に入らない物なんだろう。


 ミッスルトーの時は、それ程数を必要としない事もあって、公爵が早々に輸入することを決めた事で、あまり騒ぎにも成らんかった訳だが、通常のポーションの原料だと、消費量も生産量も違いすぎて、その使用する量が比較に成らないほど多くなる。

 そうなると、同じ手では対処出来なくなるんで、討伐するしかないだろうな。

 

「多分、お前も同じ事考えてると思うが、今回は討伐しなけりゃならんだろう」

「だろうな」


 グラスの言葉に俺も頷く。


「で、今回は、流石に公爵様も全ての原材料の輸入には踏み切れなかった様でな、その代わり、こっちの討伐の賞金の方に一枚噛んでくれた……って、露骨に嫌な顔すんなや」

「それで、俺を指名したって流れだろ? それ」


 あんま正面切って公爵と相対するの嫌なんじゃが?


「まあまあ、間には入ってやるからよ」

「てか、そろそろ『冒険者のトール』、無理が出て来たんじゃね?」


 そもそも、あれ、家の若い連中が食っていけるまでの間の資金稼ぎの為で存在だった訳だし?

 オスローやジャンなんかもそれなりに稼げて来てるしさ。


「いやいや、むしろ、『冒険者のトール』のおかげで、こっち、冒険者の地位もやっと上がって来た所なんだぞ!?」

「それ、俺関係ないやん」

「いや、お前が『冒険者トール』だろうが!!」


 ハッハッハッ。『冒険者のトール』はフィクションであり、実在の人物、組織、団体とは一切関係ないんだよ? グラ太くん。


「そろそろ現実見ようよ、良い大人なんだから」

「オレが、現実見てない若造みたいに言うなや!!」


 前世含めりゃ、確実に俺の方が年齢上だがな。

 まぁ、グラス、イジんのはこれ位にしとくか。


「間に入ってくれるってのなら、構わんのだがね」

「おう、そこは任しとけ」


 んじゃ、丸投げヨロ。

 ただ、この依頼受けるにあたって、もう一つ問題があるんだわ。


「それと、俺のパーティー単独でやるからな?」

「……本気か?」

「多分、他のパーティーだとついて来れんぞ?」


 「いくら何でも」とグラスが言いかけて、うーんと唸る。そもそも、コイツの目の前にいる俺自体が非常識の塊なんだと今にして思い出したみてぇだな。


「そう言や、お前三歳だったか?」

「おう、ピッチピッチの三歳児だ」


 その表情、忘れてやがったな。それでもムウって唸って、口を開く。


「本当に他のパーティーは必要ないのか?」

「邪魔だし」


 てかね、今の俺が本気で戦闘をするとなると、取り敢えず衝撃波に耐えられんとあかんのよ。

 イブがラファが護ってくれるが、正直、それ以外の人間にまで(てぇ)割かれたかないんだわ。


「いや、今後ランクが上がれば、合同依頼ってのもあり得るんだ、それのお試しって訳じゃねぇが、相性の良いパーティーをか作っとくのも責務じゃないか?」

「高難易度の依頼受ける時にお試しを勧めるなや。てか、既に護衛依頼が無理な以上、ランク上げなんぞ出来んわ!!」


 たしか、ランクを上げる為に盗賊相手の退治依頼と護衛依頼を受ける義務があった筈だ。その内、盗賊退治は既に済ませてるが、俺が鎧を脱げないって事情があるんで、護衛依頼は受けられんのだわ。


「ああ、護衛依頼は成功にしといたぞ」

「何でじゃ!!」


 おいおい、内部腐敗か? 自分の都合で依頼偽造しやがったか?


「いや、お前、女王さん、魔人族国まで護衛しただろうが」


 女王さんて……エリスの事か? あの時はまだ王女だがね。


「いや、だからアレはお試しの経験積みの為で……って、ああ!!」


 俺が気が付いた事でグラスがニヤリと笑った。

 そうだよ、確かに“普通の護衛の経験を積む為”って話になってたが、あれ、()()()()()だったやん。

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