見守るお仕事
何でも彼女、一族の中では優秀だと持て囃され、事実、同年代だと、頭一つ飛び抜けてる自覚もあったんだそうな。だけど、そんな彼女が1番認めて貰いたいと思ってる、彼女の曽祖父からはずっと『半人前』扱いされていたらしい。
まぁ、あの詰めの甘さを見ればさもありなんって感じだが。
で、俺と対峙した爺さん、ルーガルーって名前だそうだが……いや、人狼の別名って、こっちも思いっきり偽名じゃねぇか!! いや、前世ではそうだったってだけで、こっちではどうなんだ?
まぁ良いわ、そのルーガルー爺さんが、俺の話や実際に見た実力を見込んで鍛えて貰って来いと彼女に言って来たんだそうな。住み込みで。
男女の師弟で住み込みって事は、まぁ、そう言う意味もある。ただし俺、三歳児だからな? “そう言う事”になんざ、成り様がねえんだが?
で、自分は、認めてくれない曽祖父が、たった一度の対峙で認め、その上、『鍛えて貰ってこい』と来たもんだ。男女の師弟って事が、そっちの意味もあるって分かってるルールールーが錯乱するのも分からんでもないが。
本っ当っに!! あの爺さん!! 何考えてやがる!!
あんな爺でも、一族的には“伝説の”なんで枕詞が付く位には畏敬の念を持てれているらしい。それこそ、ひ孫にも、だ。
俺から見たら、根性ババ色の腹黒爺にしか見えんのにな。
襲い掛かられた後、彼女の事を掬い投げて、身動き取れなくした後、空中で縦方向にグルングルン回したったわ。
で、いい加減、眼鼻口から色んなモン出して倒れ伏したルールールーを更に揺さぶって話を吐かせると、そんな理由だった訳だな。
つまりはこの残念ひ孫娘を育てさせるってのも報酬に含まれるって事だ。
目ぇまわして倒れ伏してるルールールーを見ながら、俺は溜息をついた。鍛えろってんなら鍛えたって良いがよ、何でコイツに、あんな含みのある言い方しやがったかな? 多分は人質って意味もあるんだろうな。
あの一件で、俺が爺さんの事を気に入らないって思ってるのは分かるだろうしな。まさか、本気でハニトラ用員って考えてる訳じゃねぇよな?
言っとくが、俺、三歳児だからな!?
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「はい、今日から住み込みのお手伝いとして、一緒に暮らしてもらうルーちゃんです!! 拍手!!」
キャルが皆の前でルールールーを紹介する。まぁ対外的にはルーさんに成るんだが。偽名の偽名て。
まぁ、それは良い。
鍛錬はさせるけど、仕事もやって貰わにゃならん。第一、その為に人を手配して貰ったんだからよ。
家の内情を知って貰うのにも、一通り手伝いをして貰うってのは理にかなってると思うんだがね。たぶん。
そんな感じで今、ルールールーメイド風味。用意したのはファティマ。
自分がメイドタイプだからなのか、その辺強いこだわりがあるっぽい。実は家の拠店内で働いてる女の子達のユニフォームが、このメイド服なんだわ。
ファティマ曰く『【熱弁】全員に一体感を及ぼし、意識の統一を図る為です』との事だったんだが、取り敢えず「希望者だけな」とは釘を刺しておいた、にも拘らず、何故か、メインで働いてる女子全員が、翌日にはこうなってた。何だこれ?
イブも外に出る時はちょっと裕福なお嬢様風の格好に成ってるけど、家事をする時はメイド風。これがヴィクトリアメイドみたいな正統派の格好なら良かったんだが、何でか全員がひざ丈位か少し短い位のスカート着用なんで、アキバ感半端ないって言うな。
まぁ、それは置いといて。
一通りの家事やら仕事やら遣らせても、大体無難にこなす辺り、確かにに優秀なんだろう。
ただ、ちょっとでもイレギュラーが起こると、途端にフリーズする。
子供が走ってて転んで怪我したなんつったって、「大丈夫か?」って声を掛けて、ダメそうなら、おぶうなりなんなりして水場に行って、傷口を洗って布でも当ててやれば良いんだろうが、その度に誰か居ないか探してキョロキョロして、誰も居ないと固まっちまう。
良い子であれと、優等生であれとして来て、それに周囲の大人も応えてしまっていた弊害なんだろうな。
自身で考えてって辺りが全く育ってねぇんだわ。
自主的に動くって場合は、プライドが先立って感情的になってるからってのがしばしば。
ただ、全く一人っきりの場合は、普通に動けていることを考えると、周囲に『どう見られているか』って事を気にしているぽいな。
優秀で良い子供と言う、正解を探しちまうんだ。
悪いとは言えねぇ。ただ、それだけじゃ足りない。
あいつの一族の中だと、ある意味全員が一体となって同じ方向を向いてるから分からなかったかも知れないが、ここだとそうも行かねぇだろう。
だからこそ、もう少し、ここの生活に慣れれば、ちったぁ、改善してくんじゃ無いかね。
だとしたら、俺の役目は、ルールールーが、少しでも馴染んで行ける様に見守って行くことかね。
決して、怖がられてるから、どうしたら良いか分からないって訳じゃねぇからな!!




