情報戦略しませんか?
「戦力の充実が急務だと思うんだが?」
「そうじゃよねえ……」
色々と事業を広げて、それが上手く行ってると、必ずその秘密を暴こうって輩が出てくる。
公都に俺が居る内は良いんだが、何だかんだアチコチ動き回ってるんで、手薄になるって所は必ず出るんだよな。
それでも、事業を拡大する前にエクスシーアを仲間にできたのは幸運だったと思うわ。
そこは元とは言えガーディアン。基本スペック半端ねぇ。
確かにオスローやジャンも育って来てはいるんだが、“この年齢にしては”ってえ括りからは外れられていないんよな。
イブが規格外すぎるって事でもあるが……まぁ、うちの娘天才だし。
あ、俺は例外な。天才とは、また違う意味で常識外の自覚はあるんで。
そう言や、俺のパーティー、ウチの最大戦力が揃ってるんな……うん、見なかった事にしよう。
ぶっちゃけ、戦力って意味なら結構揃ってるんよね。俺等パーティーを抜かしたとしても、だ。
オスローやジャンにしたって、同年代よりは抜きん出てるのは確かだし、コボルト連中の狼達だって、結構強い。
もっとも、そのコボルト達だって弱い訳じゃない。
ただ、今欲しいのは、諜報としての能力だ。情報を集め精査し、裏を読む。また、そう言った情報の流出を止め、欺瞞工作の行える様な、ね。
それも早急に行える人材が必要な訳なんだわ。
別に、俺が鍛えても良いんだろうが、それだとどうしても時間がかかる。
正直、ちょっと前まで、こんなに事業拡大するなんて思ってなかったからな。
今はエクスシーアが、不穏な気配の相手をシャットダウンしてくれているんで、それ程問題に成ってはいないんだが、そのエクスシーアだって、商談がある時は教会に籠ってるって訳にはいかない。
それだけじゃなく、『エクスシーア商会』に、係わってくれた従業員の安全の確保も必要じゃと思うんよな。
それには手が足りて無いって事もある。例えば狼達ならその辺のフォローも出来なくはないが、公都の中にそんな大量の狼を潜入させておく訳にもいかないしな。
キャルが「秘伝だあ!!」とかって騒いでた時に、何か対策考えておくべきだったわ。反省反省。
変に知識があるせいで気が付かなかったんだが、そもそもこの世界だと、栄養素だとか鉱毒の種類だとか酸性だとかアルカリ性だとかの知識なんて物も存在しない訳だ。
コンディショナーなんて、煮沸した水に果汁を混ぜるだけの簡単仕様な訳だが、それだって、レモンっぽい果物の果汁が酸性だって知らなきゃそもそも発想として出て来ない。アルカリ性が低いから鹸化が不完全なんて知識もな。
この世界で現存する知識ってのは、前世みたいに科学的知識に基づいてって事じゃなく、全てが経験則でのモノな訳だ。そりゃ、俺の言ってる事が“秘伝”扱いに成るのも当たり前ちゃ当たり前だったわ。
で、秘伝だって事なら、その秘密を知りたいって思うのは、例えば商売敵なら当然だし、基本的には守秘義務の意識ってのも薄い人間が多い。
取り敢えず、作業自体を縦割りにして全体像が分からない様にはしてるし、仕事場の、作業の話に関してはあまり余所に漏らさない様には言ってるが、それが何処まで通用するかねぇ。
そう言った経緯もあるんで、諜報に向いた人材の確保が急務な訳だな。だが、そんな人間に対する伝手も宛も無いんだよな。
いや、エリスってかゴドウィン侯ん所なら居るだろうとは思うんだが、あの国はあの国で、今、色々と大変と所だし、あまり、個人的には借りを作りたくない。
何と言うか、「よろしい!! ならば婚約だ!!」とか言い出しそうでさ。あのお爺ちゃん、孫馬鹿な所あるから。血ぃ繋がってないのになぁ。
……そう言えば、あったな、一ヶ所だけ、心当たり。
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「それで、ワタクシの所に来たのですか?」
眉根を寄せながら、ジョアンナがそう言う。
第二夫人が俺をギュッと抱きしめ、頭に顔を埋めている。何か息遣いを旋毛の辺りに感じるんだが、もしかして匂いを嗅いでる?
夜会とかで嫌な事でもあったんじゃろうかねぇ? 第二夫人がこうやって甘えて来る時は、大概がストレスがマックスに成った時だからな。
「ああ、そう言った伝手を持ってそうで、尚且つ口の堅そうな相手なんてアンタしか思いつかなかったんでな」
「ご友諠を結ばれているギルドマスターには、相談なされないのですか?」
うわぁ、怖えぇ。いや、俺って言う人間がどんな存在なのかって分かってるってアドバンテージがあっても、ここまで的確に情報を持ってるって。
「なら、分かるだろう? 冒険者ってやつは、気配に敏感だったとしても、秘匿された情報を取り扱ったりは、基本しない。餅は餅屋だよ」
「蛇の道は蛇ですね。ですが、情報屋を雇うでも、ましてやアナタならそう言った連中を躾ける事も容易では?」
いや、本当に何処まで情報を掴んでんだ? まぁ、ブラフって線もあり得るんだが。
「情報に精度と信頼が欲しいんだよ。恐怖で縛るよりはプライドと金の方がまだマシだ」
「ワタクシが裏切るとは?」
「アンタに裏切られるならしょうがないさ」
「!」
甘っちょろい事を言ってるのは分かってるが、ジョアンナの第二夫人に対する忠誠は本物だ。そんな彼女が俺を裏切るってのなら正直どうしようもないとも思ってる。
そもそも、俺と言う存在を今の今まで秘匿してくれているのも確かで、それに関しても感謝をしてるし、その事に対して誠実でいたいとも思っている。
気が付くと、俺を抱きしめている第二夫人がジョアンナの事をじっと見ていた。
「……分かりました、その手の情報を扱っている手の者を紹介いたします。ですが、その者を扱えるかどうかは貴方次第ですよ?」
「ああ、有難う」
視線を逸らし、ため息を吐くジョアンナを見ながら、俺は口の端を上げる。
そう言う、アンタの第二夫人に甘い所、俺は結構好きなんだわ。




