彼等の選択
コボルトの村は、ぽっかりと空いた穴の中の壁を利用して作られた岩窟屋だったわ。
いや、ぽっかりと空いたってぇか、掘ったのか? ここ。
風の強い外に比べ、岩窟屋の中は風がそれ程強くないんな。
その上で、日の入る時間が多くないのだが、空気自体は乾燥してるんで、涼しい割にジメジメしてると言う事もねぇ。
「上手い造りだな」
「?」
俺を抱きかかえているイブが首を傾げる。
岩を掘った家って事は、元々、内部の温度変化は少ないハズなんだ。教会の地下がそうである様にな。たぶんここはそれ程雨の多くない場所なんだろう。
だが、周囲の地形は山も多い、つまりは地下水脈は豊富なんだろうな。見れば、何ヶ所かに井戸も掘ってある。
鉱脈の分布でそう言った水脈の位置も分かるんじゃろか? これはコボルトにしか作れない村造りだよなぁ。
環境に合った家づくりと言うヤツか? ちょっと違うか。
そんな話をイブにしながら、他の犬達も引き連れてグレッソチューンに村の中を案内をされる。
村の中には子供やその母親らしき人達なんかもいるし、狼が放し飼いに成っていて、それ等の視線が俺達に集まっていた。
まぁ、族長に案内されてるってだけでも目立つし。幼児幼女犬達にロボ……こっち的にはゴーレムか、ってぇ色物集団だしな。
因みにヴィヴィアンはぶっ倒れたまんまなんで、キャンピングカーの中に放置。ケルブもいるし、なんか外に居た狼達も守る様に侍っていたから、まぁ平気だろう。
で、畑なんかはその岩窟屋の中央。最も日当たりの良い、日照時間の長い場所にあって、バロメッツもそこに、植えられていた。
羊? 羊かぁ……何か瓢箪に毛皮つけた様なモコモコな謎植物。スイカ畑のスイカの実だけをまんま入れ替えれば、こんな光景に成るんじゃね?
思ってたよりは植物寄りだな。あの妖怪よりはよっぽど。
とか思ってたら、目の前で突然ジャンプして周りの畑の雑草に飛びつき、尻尾? の様な部分に繋がってる蔦で引き戻される。
で、そのバロメッツが飛びついてた先を見ると、そこの雑草がゴッソリなくなってた。
うん。魔物だな。魔物だわ。まごう事なき。
ミカ達が警戒し、バラキとラファが俺ってかイブの足元に寄り添う。イブもちょっと目を見開いてるな。うん。なんだろうな、この謎生物感。
何と言うか。ファンタジーな世界に転生したって言うのに、著しくファンタジー要素が見えると戸惑っちまうのはどう言う事だろう。特に魔物関係。あれだ、他の魔物もそうだが、前世の生物でっかくしただけって様なヤツが多いからだな。
ジャパニメーションと言うより、海外のB級パニック映画見てる様な?
ああ、だからか。B級パニック映画見てたら、突然ファンタジー要素ブッ込まれたかの様な感じ?
魔法やら獣人やらコボルトやら見てるのに今更な気もするっちゃするんだが。
そう言や、ドワーフらしき人は見た事が有るが、エルフっぽい人って見た事ねぇな。
「で、コイツを分けて貰えるのか?」
「それで、謝罪の代わりと成るのなら」
バロメッツ自体は結構な量が有るんだな、これを全部狼の餌にするのか。ヴィヴィアンは毛を回収すれば布を織れる的な事を言ってたはずだが、そう言った方向での活用はしてないんじゃろか? 見た感じ、この村に居るコボルトは皆、毛皮を着てる様だが。
「ああ、そうだファティマ」
『【了解】ヴィヴィアンを起こして来ます』
生きてる所を見てみたいとか言ってたからな。とりあえず、種は分けて貰って、植えてみて、育つかどうかか?
……うーん、それ以前に布を織れるほどの量を確保する為には、結構な量が要るのか。こうしてみると、畑を作るにしても相当な面積が必要だよな。
公都にそれだけの土地が有るかってのも問題だが、それだけの土地を確保して畑を作り始めたらかなり目立つだろうし。
その事とは別に考えてる事も有るんだが……
俺はイブの顔を見る。キョトンとした感じで俺を見返して来た。ソレを実現させる為には、多分、コボルト達に協力してもらうのが、手っ取り早い感じなんだよなぁ。
ただなぁ、過去に、搾取されてたって話を聞いちまうと、お願いするのもちょっと気が重い。人と関わり合いに成りたくないから、こんな所に住んでるんだし、俺達に対しての対応をどうするかで村が二分したんだろうからな。
さて、どうしたもんか。
******
「うっひょ~~~~~~!!!! これがバロメッツ!! 生バロメッツ!! うっひょう!!」
あのオタク娘起こして来たの間違いだったかなぁ。村のコボルト達がドン引きしてんじゃねぇか!!
犬達が村の狼達にマウンティングをしている。あー……軒並みウチの犬達の方が上なんな。
まぁ、それはともかく、色々と熟考した上で、俺はコボルトに取引を持ち掛けてみた。この村に、何が必要かとか分からんし、今の所、こっちが欲しい物がこの村にあるってだけだから、突っぱねられればそれまでだし、不利なのも確かだ。
まさか、「許してほしけりゃ俺の言った物を納めろ!」って、訳にも行くまい。どこの盗賊だって話に成る。
見た所、この村はこの村の中で完結している。
今更、他からの介入なんて必要ないっぽいしな。
グレッソチューンの家の広間。恐らく集会場としても機能しているだろう場所に、コボルトの代表者数人とグレッソチューン、それに対して俺とイブ、ファティマとジャンヌが相対している。バラキやラファもこっちに来たがってたんだが、狼達との格付けが必要らしく、ミカ達に引き摺られてったわ。
「どうだ? 出来る限りそっちの望みは聞き入れるつもりだが……」
俺の言葉を聞きながら、グレッソチューンが腕を組み目を閉じている。周りのコボルト達も彼の動向に注目している。
しばしの間、何か考えていたグレッソチューンだったが、やがて眼を開けると、他のコボルトに目配せをした。
コボルト達が、それに頷く。何か、先に決めていた事でもあるのか?
まぁこっちとしてはお願いしてる立場だしな。俺に出来る事であれば考えよう。
「本当に、聞き入れてもらえるのですな?」
「さっきも言った通り、俺の力の及ぶ範囲ならな」
その言葉にグレッソチューンがニンマリと笑う。
「ならば、我々コボルトを貴殿の配下に加えていただきたい」
…………
……
はい?




