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コボルト伝

 まぁ、だいたいは予想通りだったな。

 ここは、コボルト達の集落の近くだったらしい。そう言えば、岩に穴掘って住居にしてるんだったか。

 で、そんな集落の近くに普通の人間が来て、何かを探している様な動きを見せていたんで、集落の中ではどう対応するかで意見が分かれて居たらしい。

 事情を聞いて迎え入れるか、それとも排除するか。


 何故にここまで意見が分かれるのか、それにはちょっとした理由があったんだそうな。


「コボルトって言えば、特殊な能力がある事で有名でしたからねぇ」

「特殊な能力?」


 俺の言葉にヴィヴィアンが頷く。何やら言い辛そうにしていたコボルト達に代わって、彼女がそう言ったのだが……グラスは犬系の生き物を従える位しか言って無かったが、まぁ、雑談の中で出たちょっとした話題だったからなぁ。

 だが、ふうん? 従えるってのはさっきの能力でって事か? リーダーシップでって訳じゃなく。


 穴を掘っていた子供達が縦揺れにガタガタと震える……何か一部期待感でこっちを見てる輩も居るが。

 つまりは、ミカ達を奪って俺を襲わせようと? ふうん?


『【提言】マスター。殺気をお抑え下さい。個体名【ヴィヴィアン】が……』

『【焦燥】あ、ちょっと泡吹いちゃったデス!! ああ、もう!! ここに聖弓が居ればすぐに治療できたのにデス!!』


 おっと、隠しきれない怒りから殺気が漏れちまったようだな。

 見れば、大人コボルトの中にもぶっ倒れているヤツが居る。モチつけ、俺。

 それとジャンヌ、聖弓(ロボセイント)がここに居る方が問題があると思うぞ? あいつ、魔人族王女(エリス)付の聖武器だし。


『【肯定】そう言われればそうなのデス。うっかりデス』

『【軽薄】相変わらずの浅慮ぶりですね、個体名【ジャンヌ】。それだから魔法使いであって賢者に成れないのですよ』

『【憤懣】それ、今持ち出す話題デス?』


 モチつけ、おまいら。はたくぞ? それとも強制注入の方が良いか? まだ話は終わってないからな?


『【謝罪】サー、申し訳ありません! サー!!』

『【陳謝】ご、御免なさいデス。オーナー。ですが、ボクのコンプレックスを持ち出した、個体名【ファティマ】にも非があると思うのデス』


 あー、確かにコンプレックスは感情的になり易いからな。ファティマ、流石にそこは反省かな?


『【反省】確かにその通りでした。謝罪します、個体名【ジャンヌ】』

『【許容】オーナーに感謝するデス』


 で? 隠さなけりゃいけないって事は、精神支配の術だけじゃないって事だろう?

 確かに、精神支配は使いようによっては強力な力だが、俺の様にそもそも精神力が強固な相手には効き辛い。

 俺と“絆”の深いミカ達にも効き辛い様だったしな。

 そもそも高位貴族なんかはその手のカウンターアイテムを所持しているなんて事は当たり前だし、ジャンヌがやった様に防御系の魔術だってある。

 だからこそ、コボルトは野生の狼を支配してたんだろう。

 俺達を囲っていた狼達の困惑は、俺達に対する恐怖とコボルトの支配の狭間で揺れていたが故か。

 だからこそ、そのコボルトにすら勝った俺達に身を委ねる事に躊躇しなかったんだろうな。


 まぁ、ともかく、そんな訳だから、精神支配だけでは、隠れ住む理由としては弱いわけだ。

 なら、それ以外にも理由が有るんだろうさね。


「……我々は、地中の鉱物の様子が分かるのだ」


 一大決心したという感じで口にしたボルトの言葉に、俺は目を瞠る。鉱物の様子が分かると言う事は、それは即ち地中資源の埋蔵量が分かるって事だからな。


 言うまでも無く、金や銀、銅や鉄何かの採掘は、国家事業にもなる。

 前世のゴールドラッシュの例もある通り、個人で金鉱を掘り当てれば、その人物は文字通り一攫千金で成り上がる事もできた。

 その、地下資源の様子が分かる? それがどんなに凄い事か!! 確かに、これは隠匿するべき情報だろう。

 だが、この様子からすれば、過去にその事がばれて、人間に搾取されたってぇ過去があったのかもしれない。

 そういえば、前世ではコボルトってぇのは、坑道の中で鉱石がある場所を知らせたりする精霊だったな。

 いつの間にか半獣人の魔物にされてたが。


 それはともかく、コボルト達の話によれば偵察にやった狼達も、俺達を見た途端に、敵対する様な行動を嫌がる様に成ったんだと。

 今まではどんな相手でも勇敢に付き従ってくれていた、言わば相棒の反意にほとほと困惑して居た所に、コボルト達の中で、最も支配能力の強かった『ゲーグレイッツァ』……今回の中心になった少年コボルトが、仲間と共にこっそりと飛び出して来たと言うのが今回の顛末らしい。


 何と言うかスゲエ意思のすれ違い。そもそも俺達が探しに来たのはバロメッツなんじゃが?


 俺の言葉でコボルト達が奇妙そうにお互いの顔を見合わせた。何じゃらほい? 変な事を言ったか? 俺。


「バロメッツなら、我々の村で作っているのだが」

「はい?」


 コボルトの言葉に、俺は目を瞬かせた。


 ******


 ケルブの引くキャンピングカーの御者台に座りながら、コボルトの族長であるグレッソチューンの話を聞く。この人、ゲーグレイッツァの父親だそうだ。息子がスマンと改めて謝ってくれたわ。

 族長がこんなに腰が低くて良いんか? とも思ったんだが、普段はわりと怖がられている人らしい。


 で、件のバロメッツなんだが、どうも狼の餌として育てているそうだ。基本は放置してても育つんだが、種をまく時期ってのが重要で、その時期を逃すと育たないらしい。こういうノウハウが聞けるってのは正直助かる。

 それと、バロメッツの餌として周囲に草が生えてないとあかんらしく、基本的には休耕畑に種をバラ撒くらしい。

 植物の餌に雑草がいるて……いや、魔物なんだろうがさ。何だかなぁ。

 ちなみにヴィヴィアンはソファーベッドに転がしてある。


 コボルトの集落に向かうにあたって、ファティマにケルブとキャンピングカーを持って来て貰ったんだが、最初、ケルブを見たコボルト達がまるで神を崇めるかの様に頭を下げ始めたんで、頭を上げる様に促すのに時間が掛かったわ。


 何でも、彼等の伝承に鉄の身体を持った犬の神がいるとか何とか。守護霊(トーテム)信仰かな?

 まぁ、そんなこんなで、俺達はコボルトの村に向かったのだ。

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