荒野の七匹+
見渡す限りの赤茶けた岩肌と大地。うむ、見事な荒野だ。
あれだ、グランドキャニオンとかそんな感じの。
ギャリニア渓谷付近はまだみどりも有ったんだが、何と言うかこっちは偶に低木が岩陰に見えるくらい?
むしろ、タンブルウィードなんかが転がってそうな感じだな。
「あ!! トールさん!! あれ!!、アレ採ってきてください!!」
って、ホントに転がってたよ!! タンブルウィード!! うん、ヴィヴィアンに言われるまでも無く速攻で確保しに行ったわ。
確保したダンブルウィードは、草ってか、丸く育った木みたいだな。葉っぱなんかついてなく、折れたのか茎の様な物も見える。
「う~ん、残念ですアザミみたいですね。マメ科の何かだったら下剤の効果のある物が多かったんですが」
「タンブルウィードって、そんなに種類があんのか?」
俺は、思わずそう質問してしまう。ヴィヴィアンは「そうですよ」と、あっさり肯定した。
何でも、“タンブルウィード”と言うのは、こうやって転がる植物の総称なんだと。
転がる事で、別の場所に種を運んだりするんだとか。タンポポが綿毛を飛ばすのと同じ様なもんか? 知らんかったな。
「むしろ、この平原にはタンブルウィードしかないと言って過言では無いですよぉ」
いや、岩陰に生えてるやつ、普通に根を張ってるように見えるんだが? あ、そう言えば、さっき確保したタンブルウィードも、茎が折れた様な跡があったな。つまりは、そう言う事か?
何事も無ければ普通に育っていた植物が、何らかの理由でこうやって転げまわる事に成っているのか? とヴィヴィアンに聞けば、またしても「そうですよ」と返事をもらう。
基本的には風で茎が折れて転がり始めるんだそうな。
思わず「へぇ」と思ったわ。トリビアトリビア。
まぁ、大変興味深い話も聞けたことだし、さっそくバロメッツを探す事にするかね。
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そんなこんなで、この荒地に来てから4日が経った。見通しの良い平原と言う訳では無く、切り立った崖の多いここは、視界が通らない為にイブの【探査魔法】も使い辛い。エリスが居りゃあ、抱えて飛んでもらう事もできるんだろうが、それの為にエリス呼ぶかって言われれば、そりゃ無理だと言うわ。
そうなると、今居るメンバーで、地形適性に“空”を持って居るヤツは居らんのだよ。
風魔法で何とかならんかとも思わんでも無いが、あれは基本的に、瞬間的な風を吹かす事ができても、継続させる為には、その都度魔力を消費し続けなきゃいけない。むしろ純魔力を地面に叩き付けた方が何ぼかマシッてなレベル。
しかも純魔力を叩き付けるんだとジャンプは出来ても飛行は出来ないしな。
とは言ってもそれ程俺達に焦りの様な物は無い。そもそもが文献の確認のようなもので、実際にバロメッツが生息して居る確率なんて10%も無かった訳だし。
なんで、キャンプ生活を楽しみつつ、調査をしているってぇ所だな。
そもそも、バロメッツの詳しい生態なんか知らんのだ。端から探していく事しか出来ない。まぁ地道な作業の積み重ねだし、こればっかりはフィールドワークなんだと割り切るしか無いだろう。
今日もタンブルウィードを追っかけるミカ達を見ながら、俺は俺で食事の為の獲物を探す。
どうやら、この荒地には野生の山羊が多いらしく、ちょいちょい獲物として獲れる。と言うか、それ以外は普通の小型哺乳類とか蜥蜴何かが殆どで、それ以外だと猛禽類が飛んでいるくらいか。
たまに、狼らしき姿も見るが、ミカ達の方が格上って事なのか? 何か、遠くからこっちを見ているだけで、襲って来やがらねぇな。どう言うつもりなんだか。
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そうこうしてる内にさらに数日が過ぎた訳なんだが。
今、俺達は、狼に十重二十重と囲まれている。
今までチラホラと姿を見せていたのは偵察だったって事なのかね?
狼達の動きには、その気配で何と無く気が付いてはいたんだが、相手の出方を見たかったんで、あえて放置していた。
ちょっとばっかし気になる事も有ったし、相手の思惑も分からんかったしな。
まぁ、襲って来るってのなら返り討ちにするだけだし。
一応、臨戦態勢を取って、狼たちを警戒する。
だが、どう見ても俺達を襲うってぇ様には見えない。と言うか、どちらかというと、迷いの有る動きだ。
……
と、狼達の後ろに居たソレがこちらへと近づいて来て居る事に気が付いた。
ふうん、ずっと後ろに隠れているのかと思ったんだが、ここで前に出てくるか。
そう、思い、それが姿を現すのを待つ。
「……へぇ」
出て来たモノの姿を見て、俺はそう思った。
俺と同じ犬使いだって聞いてたんだがな。
ここでであうか……
コボルト。




