そして旅立ちへ
……グラスから聞いたのか? しばらく公都から離れるって事を話しに行ったしな。
「話は分かったが、なぜ一緒に行くと?」
「その……種が欲しいんですよぅ」
「種?」
種ってのはバロメッツの? いや、あるのか、植物系の魔物だったとすれば、別に可笑しかない。
だったとしても、俺に頼めば良いだけだ。態々ついて来る必要なんてない。
「言って貰えれば、取って来たぞ?」
「えっと、その、それも有るんですが……」
顔を赤らめてヴィヴィアンがモジモジとし始める。まだほかに理由があるのか? と、何故かイブが俺にべったりとくっついて来た。
どうした? いきなり。いや、元々俺を膝に乗せたりするのが好きな娘だったな。
と、ヴィヴィアンと話してる最中だった。
「言い辛い話なのか?」
「こんな事言うと、はしたない女だと思われるかもしれないんですが……」
俺を抱きしめるイブの手に力がこもる。イブさん、ちょっと苦しい。
うんうん、イブが何を心配してるのかは大体理解し出来るが、その心配は大丈夫だと思うぞ?
ヴィヴィアンだし。
「生きている内に解体した方が薬効が上がるかもしれないじゃないですか!!」
ほらな。
バロメッツは、伝説と言われるほど、その生態が謎の魔物だからな。
むしろ幻獣とか言った方が良いんじゃねぇか?
効能厨なヴィヴィアンなら、自分で確かめたくなるのも当たり前ちゃあ当たり前か。
ましてや、採取した後ならともかく、生きてる内にってのは、早々出会えないだろうしな。
ただなぁ。
「一緒に行くのは構わないが、俺達も文献に記された生息地に行くってだけだから、確実にそこにバロメッツが居るとは限らんぞ?」
「それでも!! 可能性があるならば!!」
いつものもっさりっぷりが嘘の様に、キラキラとした……いやギラギラとした? 目で気勢を上げるヴィヴィアン。まぁ、本人がそれで良いってんなら構わんけどさ。
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ガジガジと干し肉を齧りながらヴィヴィアンが俺達も事をジトッとした目で見ている。おお、ジト目シスターズに新たな加入者が。これで4人目か? あ、イブさん、何か察しないでください、オナガイシマス。
『【確認】それは私も入っているのでしょうか?』
声に出したらあかんやん!! ほら、イブさんのジト目率が上がっちゃったじゃないですか!!
『【閑話】それはそれとして、オーク肉のオーブン焼きと、根菜のスープ出来上がりました』
「うん、有難う」
「……ずるい」
ヴィヴィアンがボソっと言う。だから、別に俺達は無理強いはしてないってばよ。
「たべ、る?」
そう言いながら、イブがそっとスープを盛ったお椀を差し出す。だが、ヴィヴィアンは、首をブンブンと振って、拒否をした。
「連れて来て貰ってるだけでも迷惑をかけてるんですから、これ以上ご厄介に成る訳には行きませんよぉ。食事はこうして持参してる訳ですから、これで十分ですぅ!!」
そう言って干し肉と堅焼のパン、そしてワインの入った革袋を持ち上げた。
いや、だから、そう恨みがましい目でこっちを見てる位なら合流して欲しいんだがな。
まぁ、自身の発言で自縄自縛になってるのは分かるんだが……
旅のしばらくは良かったんよ。マトスンの作ったキャンピングカーは、俺が車に対しての技術として提供したゴムタイヤやショックダンパーなんかの技術を、存分に消化して、多少揺れはするものの、現在ある馬車なんかとは比べ物に成らない程の快適さを実現してたからな。
で、日も高くなって来たんで昼食でも食べようかと言うところに成って、俺達が狩りの用意をしてた時に、ヴィヴィアンはまぁ、したり顔で言った訳だ。
「あれぇ? 長旅だって言うのに食事の用意もしなかったんですか? わたしはほら、ちゃんとしてきましたよぉ。狩りをするみたいですけどぉ、早々獲物なんて取れる訳ないじゃないですかぁ」
てな。
うん、普通ならそうなんだろうさ、普通ならな。
だがね、俺達は、伊達に毎日の様に魔物を狩っている訳じゃねえんだよ。
まぁ、効能厨で、引きこもり気味なヴィヴィアンが、普段の俺達の事なんて分かるわきゃ無いんだがね、それでもコイツに頼まれた採取に関して、採って来れなかったってぇ事は無かったはずなんだがなぁ。
そもそも、何でこの車に簡易キッチンが付いてると思ってんだか。
で、だ、こうしてオークとその途中で採取した根野菜を調理した所、見事にへそを曲げた訳だ。
ああ、うん、コイツはこういうヤツだったって思い出したわ。
何だかんだで最近割と良好な関係だったしな。
でも、まぁ、家の娘さんを悲しげな顔にさせたのはいただけないな、と。
「良いから、こっちに加われや」
ちょっと本気の威圧。
ビクリと身を振りわせた後、ガチガチとヴィヴィアンが奥歯を鳴らす。
「一人で意地張っててもしょうがないだろ? 旅は始まったばかりだし、別に保存食を食うなとは言わんが、皆で食事を囲むってのも旅の思い出だとは思わんか?」
威圧を止めて、そう言うと、彼女はコクコクと頷いた。
「ほれ、じゃぁ、こっち来い」
俺がそう言っても、何でか、ヴィヴィアンに動く気配がない。
どうしたんじゃろ? って皆で首を傾げていると、ヴィヴィアンが何かを呟く様に言ったんだが……
いや、聞こえないんだが?
「聞こえんかった。ワンモアプリーズ」
「こ、腰が抜けたんですぅ!!」
ヴィヴィアンが真っ赤な顔でそう言った。
あ、うん。それは正直すまんかった。




