旅の仲間達
大森林内部の異変は、すぐさま公都の冒険者に情報として公開された。その原因であるニーズヘッグの事も含めて、だ。
それと同時に、予想通り、高級ポーションの価格が高騰した。が、ミッスルトーの採取依頼自体は増えなかった。
これは、公爵が、他領からの輸入を早々に決めたからだ。
高級ポーションの高騰は、転売屋も確かに介入してはいるが、輸入に成った事でコストが嵩んだからだな。
今の所ニーズヘッグは、ミッスルトーを食べちまってる以外の被害は出していない。
だからこそ、手を出さずに静観するってのが上の判断らしい。手ぇ出した場合の被害やリスクとか天秤にかけての判断だろうな。そこに関しては公爵グッジョブと言っといてやろう。
親としてどうだろうかと言うのと、為政者として、貴族として優秀だってのは矛盾しないらしい。まぁ、俺はアイツのこと嫌いだけど。
ニーズヘッグに関しちゃ、俺も手を出さない事にした。素材は気になるが、領主が決めた事に真っ向から喧嘩吹っ掛ける様な事を態々する気も無い。
前回倒した幼生の分の素材だけで我慢しといてやらあ!
ニーズヘッグは、あれはあれで、そう言う生き物らしいし、そもそも、裏次元に籠られたら俺じゃぁ手出しできんわ。ジャンヌ曰く、『【解説】そもそもも表に出てくる事が珍しいデス』って事だしな。
つまりは、今回の事こそがイレギュラーで、あり得ない事態だってこった。
むしろ、なんでミッスルトーを食べに出て来たのかって事の方が気になるが、考えた所で答えの出ない事に頭悩ましててもしょうがないんで、それ以上考えるのはやめた。
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聖武器ネットワーク経由でエリスから連絡が入った時は、正直意外に思った。
何せそれで伝えられた情報が、植物関係のソレだったからだ。
こう言うのは、ヴィヴィアンからだと思い込んでたわ。
で、何の話かといえば、見つかったんだそうな、バロメッツが……いや、なんで魔物の方が先なんじゃろ? 普通に綿花の方が探しやすかねぇか? まぁ、良いけど。
正確には、バロメッツそのものの発見じゃなくて、生息地の情報の載っている文献をだがな。
その場所なんだがねギャリニア渓谷近くの荒れ地らしい。
そう、ギャリニア渓谷。ワイバーン狩りしたあそこ。
うわぁ、ニアミスじゃん。
いや、人生結構そんなもんだと思うけどさ。何か二度手間な気分。
情報は有り難かったんだが、何かね、こう、気分が乗らない……って、ネガティブが降臨してやがる!!
見知った場所の近くで良かった!! 迷わず行ける!! 前回は周り迄探索できなかったからラッキー!! 国内への旅の方が少なかったからこれでもっと自分の国の事がが分かるぜ!! 嬉しー!! 良し!! ポジティブになった!!
今回もまたケルブの犬車で行こうと思う。メンバーは何時ものミカ達と、ファティマ、ジャンヌと、当然イブ。
前回行ったギャリニア渓谷にも足を延ばしてみようって事になったんで、何か必要な物有ったっけ? と話をしてたんだが、そこにドヤ顔で登場したのがマトスン。
「師匠!! こんな事も有ろうかと思って野営用オプション装備を作っておきました!!」
あーうん、まぁ、冒険者だしね。するよね野営の準備。普通。
い、いや、違うねんで? 食事に成る物は途中で採れるし狩れるし、水を出すにしろ着火するにしろイブができるし、夜は眠ってても気配が有れば起きられるし、犬達もいるし、基本日帰りだったし。
ちょっと野営に必要な物って存在をど忘れしてただけなんや!!
さて、そんなマトスンご自慢の野営セットなんだがね、見た目から既に色々と変わっているのな。犬車が軽乗用車だとすると、これ、軽ワゴンかな? 内装は、ちょっととした応接室の様なテーブル付きのソファータイプの椅子。簡単な調理ができるキッチン。シャワー室とトイレ……
ソファーを倒しベッドにでき、屋根を持ち上げると優に三人は眠れる寝室に早変わり、と。
うん、何だろうな? 誤解を恐れず俺の知っている物の中で最も近い物を上げるとすると……
キャンピングカーかな?
何じゃこらあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!
ファンタジー世界に何でキャンピングカーか!! いや、長距離を旅し、野外で寝泊まりをするって事を考えて必要な物を選択し、機能を突き詰めて行けば、こうなるのかもしれないが!
それも自分達で持つとかじゃなく、相応の馬力のある物に引っ張って行って貰う事を考えれば、そう言う方向に行くのは必然かも知れないが!!
前回の犬車が全くの馬車の延長だったちゅうのに、この短期間で何故こんな魔進化をした!!
いや、便利だと思うよ? 便利だと思うよ?
しかし、何と言うかこう、ファンタジー的余韻が欲しいと言うか、ちょっとモヤモヤが!
「えっと、師匠? 俺、何かやっちゃいました?」
「いや、何と言うか、世界の不条理について考えてた」
「何故!?」
まぁ、せっかく作ってくれたんで活用するよ? 便利だし。
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「……いや、何で居るん?」
「何言ってるんですかぁ。当然じゃないですか」
出発当日の朝、何でかキャンピングカーに当然のように乗り込んでいるヴィヴィアンに、俺は眉根を寄せた。
「バロメッツを取りに行くと聞きましたぁ。バロメッツですよぉ!?」
「うん、だから何で?」
「わたしも行きますよぉ!! だって伝説に名高い奇薬じゃないですかぁ!!」
ああ、そう言う。




