それは見ていた
プルプルしてるホムンクルスを小脇に抱えながら、仔角犬を捧げ上げる角犬の列を捌いて行くと言う、シュールな状況。
果たして角犬共の中で、俺の立ち位置がどんなモノに成っているのか分からんし、知れたとしても怖くて聞きたくはないんだがさ、とは言え、これ捌いて行かんと二進も三進もいかないからなぁ。
いや、シカトして行けば問題ないんだろうけど、それをやるには期待の籠った熱い視線がちょっと……
てか、既に結構育った仔角犬にまでシフトしてるんじゃが!?
本当に、角犬等の中で、俺ってどう言う存在に成ってるんだ??
そんな疑問を抱きつつも謎儀式を続けて行く。と、ようやっと全世帯が終わったっぽく、仔角犬を連れた角犬の姿は無くなっていた。
表に出ている角犬の群を見回す。いやぁ、見た限り300体近い群れなんだが?
魔物の群れがこれだけ居るって、結構な脅威だぞ? 普通の領地なら。
まぁ、今の所、この場所が何処なのかも分らんのだけんども。少なくとも俺が動いていた圏内では見かけた事のない魔物だから、既存の地域じゃ無いってぁ事は確定か。
少なくとも家の国の付近じゃあ無いのは確実ってぇ話で、これ、マジで出入口に成ってた“扉”を見つけんと埒が明かんって事だわな。
調査団の面々を連れて移動できる距離じゃぁ無いだろう。おそらく。
そんな事を考えながら、ようやっと終わった謎儀式への達成感を感じつつ、首を回す。と、周囲からの熱視線再び。それも畏怖やら尊敬よりも、もっと直接的な肉食系なそれ。
一定数の角犬、仔角犬からの、ある意味エモノを見つけたかのようなソレ。
あれだ、優良物件を見つけた時の貴族令嬢の様なアレ。『ハッハッハッ』って感じの荒い呼吸とギラギラとした視線。
これは、一寸ミスったか? 言わずもがな【プラーナ】は生命の根元だ。ソレを多少なりとも浴びせられるって事は、つまり、『生命の喜び』そのものを与えられてるってぇ事でもある。【プラーナ】を与えられた時に幸福感を感じるのもその為だと思う。
理性ある人間ですら、ああ成る様な代物を、より本能に近い魔物に与えたらどうなるか。
その片鱗は多少なりとも有ったんだ。キメラ然りサイレン然り。
生命力の根元に触れ、増幅されるのは本能のそれ。理性は溶かされ、残った本能の、その欲求に於いて食欲と睡眠欲は満たされた状態。そうなれば、残った欲求は言わずもがな。
そしてそれは、幸福感を与えて来た相手に向けられるのは、当然の帰結で……
ヤバイ、ロックオンされている。発情期とかってどうなってるんだ!? 年がら年中発情してるのなんて、人間とウサギくらいのモノの筈なんじゃが!?
そう言う視線はせめて同族の中でやって下さいオネガイシマス。
どうにか逃れようと逃走ルートを探し、視線を巡らせる。地面にはルート無し。
ならば上空か!? と、上を見上げる。
「あ」
思わず間抜けな声が出た。頭上の岩場から送られてる視線。『あらあらあらまあまあま』って感じの育ての親のそれと、『ねぇ、お兄ちゃん、何やってるの?』って感じの末妹のそれ。
「いや、ちゃうねん。そうやないねん」
何でか言い訳が口から洩れた。




