角犬さん家の家庭の事情
お通夜ムードで角犬共が、重い足を引き摺る様にゾロゾロと歩く。
俺を中心に前後を固めて居る感じに成っちゃいるが、俺を護ってって訳じゃぁもちろんなく、警戒してってぇ事なのは確かだろうさ。
言っておくが、俺が同行を強要したとかじゃなくて、コイツ等が自主的に自分達で今の隊列を組んだんだわ。恐怖に負けて案内する様な事に成ったとしても、自分達の仲間を護る為に、勝てないまでも、もしもの時は、せめてもの抵抗をと言った所かね。
こっちとしては、偶々俺達が落ちた所が角犬達の集落の近くだったってぇだけの話でしか無いんで、別にコイツ等の集落を襲おうだとか、そんな事なんざ端っから考えても居ないし、何なら素通り希望な訳なんだが、そんな事を説明したいと思った所で、言葉自体が通じない訳だし、どうにも出来ないんだよなぁ。
まったく、難しいよね、異種族コミニケーション。
そんな訳で、周囲の雰囲気がえらく重い所為で、最悪な空気では有る。が、まぁ、恐怖で支配された一団の歩みなんて、こんなもんで当たり前の事だろうさね。
ましてや、最初はその恐怖心が有ったとしても守ろうとした自分達の集落へと、その恐怖に負けた相手である、その権現たる俺を連れて行かなけりゃいけないなんて状況だ。自己に対する失望やら自己嫌悪なんかも相まって、そりゃぁ、さもありなんと言った所だろう。
とは言え、どれ程雰囲気が最悪だったとしても、歩いてれば目的地に着いちまうのは当たり前で、ってか、むしろこの状況で本当に、素直に集落に案内されるとは、このトールの目を持ってしても見抜けなんだわ!!
絶対、途中で罠があると思ってたんだがなぁ。むしろ俺なら罠に掛けて、一発逆転を狙ってる所だわ……これ、俺の性格が悪いってだけの話ってぇ訳じゃないよね? 二重三重に策を考えてる方が普通だよね?
それはともかく、角犬の集落は崖の壁面に穴を掘った原始的な感じの場所。下手すりゃ粗末ながら小屋を建てられるゴブリンの方が文明レベルは上かもしれない。
いや、五十歩百歩か?
こちらを窺う視線がチラホラと感じられるのは仕方の無い事だろうが、それだけじゃなく、集落全体がなんかピリピリしてる感じがする。
『あきゃあ! あきゃあ! あきゃあ! あきゃあ!』
と、突然、謎の泣き声が集落に響き渡ったと思ったら、洞穴から、角犬達が顔を出し、おおよそ全てが、その泣き声を響かせた洞窟へと向けられた。だけでなく、俺の周囲にいた角犬達の雰囲気もソワソワとしだし、同じ様に、件の洞窟へと意識を向ける。
そして、一匹の角犬がこちらの集団から飛び出す。
……あれは、コイツらのリーダーだったヤツか?
それと同時に、一匹の角犬も、件の洞穴の中から、両手で恭しく掲げ上げた“何か”を運び走って来る。
『あきゃあ! あきゃあ! あきゃあ! あきゃあ!』
謎の泣き声は、その掲げられたそれから聞こえて来ている様だわ。
……あれ、もしかして赤ん坊か?
兎に角、飛び出して行ったリーダーに差し出された赤ん坊と思われる“ソレ”を受け取ったリーダーの方も、何か『うおおおん〜〜』とか唸って、それを一度抱き締める。
もしかしてだけど、リーダー角犬の奥さんが臨月で、いつ出産するか分からない状態だった所に、俺って言うイレギュラーが近づいて来てたから、余計殺気立ってたってぇ事なんかね?
そんな事をつらつら考えていたら、何でがリーダーが、その、我が子らしき赤ん坊を俺に差し出して来た。
……は?




