平和を脅かす怪獣の心意気
『前門の虎、後門の狼』ってえ程、切羽詰まった状況じゃぁないが、行くも下るも出来ない状態。
そもそも狼の方が前に居るし。
後ろは、崖が崩れてるってぇ事も有って、それ以上進む事は出来なかったんで、前にしか進めない。にも関わらず、その前方方向には、どうやら角犬の集落があるらしくて、十重二十重に立ち塞がれて、ちょっとばっかし通りづらいってぇ状況な訳だ。
警戒マックスで、こちらに槍を向けて来る角犬達に、敢えて一歩踏みだす。ビクリッと肩を震わせ、後退った。
成程、彼我の力の差は理解出来てるんな。それでも尚こちらに向って攻撃態勢を緩めないってぇ事は、下がれない理由が有るからだろう。
ただ、そう成ると余計に厄介で面倒臭いんよね。下がれない理由が有って覚悟を決めた相手って、何が何でも引いてくれないからなぁ。所謂“死兵”ってヤツだ。
まぁ、上、飛んでっても良い気もするが、あの手槍投げられても鬱陶しいし、下手にホムンクルスに当たっても、どうかと思う上に、角犬の集落も有るっぽいから、そこにたどり着いた所でさらに面倒臭い事に成りそうってのも有って、どうしたものか。
そもそも何が面倒って、槍を迎撃しようと思ったら、手ぇ使う事に成るじゃん? 俺の【空駆け】は、文字通り空中を走るってぇ感じになるんで、足で迎撃できんのよね。
ただ、そもそも原理としては『イオンクラフト』なんだから、別に蹴らんでも空中に浮けそうなんだが、俺の最初のイメージが空を走って行くってぇ物だったからか、その場での静止ってヤツが出来んのよね。まぁ、その場で足踏みすれば、宙に浮いては居られるんだがね。
そんな訳で、それらの槍を迎撃しようと思えば、片腕でやらにゃあかん訳だ。いや、ホムンクルスを完全に見捨てるなら、【魔導装甲】展開してそのままつっきちまえば、多分、ノーダメージで行けるんだろうけどさ、ホムンクルスも護るって成ると、俺の方に防御手段が殆ど無ぇんよね。
ある意味【魔力城塞】なら、防御できるんだろうけど、たった一体を護るには大仰しいし、あれ、設置型でもあるから、逆に動けなく成る。
……思った以上に、俺、他人を護衛しながらの戦闘に向いて無いんな。まぁ、基本、俺の周囲の家族達って、自己防衛が出来るやつらばっかりだったしな。ティネッツエちゃんは除くけど。そっちにしたって、基本、護衛に付いてくれる人材が居てくれる事が多かったから、俺が直接守る必要も無かったし。
まぁ、言い訳だが。
てか、相手の顔が顔だけに、あまり敵対したくないってのも正直な所なんよね。だって俺、犬派だし。
多分、俺って言う存在を脅威に感じてるからこその行動なんだと思われるし、魔物にとって、俺はまるで悪魔の様な存在なんだろうって事は理解できるし自覚も有る。
何せ、今まで討伐して来た数が数だし、基本、『発見殲滅』だったからなぁ。むしろゴブリンに関しては積極的に拠点潰しまでしてたしなぁ。
今更、俺に畏怖を感じる魔物が出た所で不思議にも思わんのだがね。
怯えを瞳に湛えながら俺に向けて武器を向ける角犬達を見る。
会話が出来て、俺が脅威じゃぁ無いって事を理解して貰えれば、こんな無駄な戦いに身を投じる事なんざ無いだろうが、流石に魔物の言葉は分からんからなぁ。
『不理解こそが諍いの第一歩』とはよく言った物だ、が、こう、何とかうまく出来んかね?




