3歳になったよ
まぁ、日々色々忙しく立ち回っている訳だが、そんな俺の日常には変化があったりなかったり。大まかなルーチンは変わらんのだが、細かい所が色々とな。
だとしても時間ってやつは全ての人に平等に過ぎて行く。
何が言いたいかってぇと。3歳に成りました。
……3歳、3歳かぁ。かなり色々あった気がしたから、ずいぶん時間が経ってると思ってたんだが、まだ3歳なんな俺。むしろその事にびっくりだわ。
最近は、グラスに頼み込まれた事も有って普通の依頼も受ける様になった。常設の討伐依頼はオスローやらジョンが受ける事が多くなったしな。
で、俺の方にはいつものメンツの他に聖犬が加わった訳だが。
聖犬にはケルブと言う名を付けた。智天使の別名だが、確かその原型が有翼人面獣身の守護獣だったはず。そんなイメージで。
で、このケルブも、神の乗り物とかって役目がある天使だったんじゃなったかな? 確か。
まぁともかく、聖犬のオプションとして、マトスンにジャンヌのマウント用の器具と折り畳みの台車を作って貰って、もっぱら俺は、こっちで荷物を運ぶようになったんよ。
そして、今までとの一番の違いは、イブとパーティーを組んで依頼をこなす様に成った事だな。
イブは準冒険者ってぇ立場だが、冒険者である俺と一緒なら森の奥にも入って行ける。
グラスは難色を示していたが、元々のギルド規則もそうなってた筈だ。準冒険者だけでの森の奥の探索はご法度だが、冒険者の後見人が居ればその限りじゃないってな。
つまり、臨時雇いで準冒険者を使う場合は森の端までしか立ち入らせる事は出来ないが、ちゃんとパーティーを組めば一緒に探索も出来るって事だ。
俺の受ける依頼は、大森林の奥地まで入っていって、珍しい獣や植物の採取がメインとなる。
なんで、大体、ヴィヴィアンの所に行って、情報を仕入れてから向かう事が多い訳だ。
その時にヴィヴィアンに頼まれて採取したりとかな。
そんな訳で、今日も今日とて大森林に分け入ってきてるんだが……
「何か、虫の数多くないか?」
「んっ」
『【肯定】何時もの道中の倍近い遭遇率だと思います。マスター』
『【推測】もしかすると、巣分かれが起きてるかもしれないデス。オーナー』
巣分かれ? 確か、蟻なんかのコロニーが大きく成りすぎて、一部蟻が、新たな女王と別の場所に新しく巣を作る事だったか?
『【肯定】うん、それデス』
いや、だとしても、遭遇してる虫の種類バラバラなんだが?
『【思案】移動してるのが、力の強い魔物だったりすれば、それが大量移動する事で魔物の分布自体が変わる事があるデス』
うん? 魔物? この虫、魔物なんか?
やけにでっかいとは思ってたけど、そうか、魔物か。
そう言えばエリスも妖虫種とか言ってたか。あれか、ヘチマお化けとかの妖怪共と同種だったか。
後でエリスに謝っとかんとな。「ごめんチャイ!」……と。いや、「ごめ~んね!」の方が良いか? どっちだ。
『【具申】どちらも怒らせるだけだと思います。マスター』
「……力の強い魔物って事はさ、ほかのゴブリンとかオーガとかも移動してる可能性って有るんか?」
『【肯定】妖虫種が一番、そう言ったテリトリーに敏感だから、こうやって反応が著しいけど、身の危険を感じてれば、ゴブリンだろうとオーガだろうと、棲み処を変えるデス』
いや、まぁ、そうなんだろうな。あ。妖虫種がテリトリーの変化に敏感だってんなら、日頃からその分布を調べとけば、森に異変が起きた時、気付きやすくねぇか? 今度グラスに教えといてやろう。
取り敢えず、採取依頼をこなそうか。
******
採取依頼の品である“ミッスルトー”があるって、ヴィヴィアンに教えて貰ったオークの木の群生地まで来た。
ミッスルトーは、ポーションなんかの材料になるそうで、特に効能の強い魔法薬には欠かせないらしい。もし余裕があれば、自分の分も確保してほしいってヴィヴィアンにも頼まれたわ。
途中で遭遇したゴブリンやらアルミラージやらはミカ達が瞬殺してくれた。正直、俺とイブの出番がないと言うね。
で、件のオークの木なんだが……
「何だコイツ」
千年杉みたいな太っといオークの木に群がって、何かガジガジやってる蛇みたいな物。いや、角生えてんな、これも魔物か?
『【説明】種族名【ニーズヘッグ】ですね。珍しい』
『【補足】上位竜の一種だね。表に出てくる事ってあまりないヤツデス』
ミミズかな?
ニーズヘッグね。トール的には倒しとかんとあかんかね? てか、草食の蛇って珍しいな。そう思ってニーズヘッグを眺めていると、イブがクイクイとオファニムの手を引っ張る。
「トール、さま!!」
指をさすイブの視線の先。
「コイツが食ってるのミッスルトーじゃねえかよ!!」
慌ててファティマを横に薙ぐ。真っ二つに成った個体がボトボトと落ちるが、それでも結構な数が残っている。マジかぁ。だとしても、これ以上力入れるとミッスルトーも切っちまいそうなんだよなぁ。
『【希望】任せてデス!! オーナー!! 個体名【イブ】行くデス!!』
「ん!」
そう言うと、ジャンヌとイブ、二人で50近いファイアボールを出現させ、そのままニーズヘッグ達に叩き込んだ。
次々とウェルダンに焼かれて、ボトボトとニーズヘッグが落ちる。こういう時、範囲魔法って便利だよな。
俺は急いでミッスルトーを確認した。取り敢えず採取できる程度の量は残ってるみたいだな。
また、ヴィヴィアンの所に聞きに行かんきゃならんとこだったわ。
これなら採取依頼だけならこなせそうだな、採取依頼だけなら。
ヴィヴィアンの分は……うん。ドンマイ!
イブ達が殲滅し終わり、採取を開始する。ミカ達が活躍できなかった事でしょんぼりしてるが、あなた達は道すがら活躍してたでしょ!
取り敢えずモフって慰める。……ん?
「イブ!! ジャンヌ!! そこから離れろ!!」
え? って顔で二人が振り向く。反応が鈍い!! クソッ!!
俺はアドアップからのブーストを発動すると、木の近くにいた二人を掻っ攫う。
ボグォ!!
直後、大量の土砂が巻き上げられ、ミッスルトーが、オークの木ごと飲み込まれた。
なんじゃコリャ!!
『【説明】ニーズヘッグの成体です。マスター』
ファティマ、おまいは冷静すぎだ!!




