生きる為には稼がんといかんのですよ
一回、やってみたかったんだよな御大尽プレイ。席を譲ってくれた人達はペコペコと頭を下げて帰って行ったようだ。
件のドラゴンスレイヤーパーティーも、騒ぎに乗じて出て行ったらしい。これで一安心だな。
『【確認】良かったのですか? マスター』
うん? 酒代の事? 良いんじゃね? あぶく銭だし。装備代が掛からんので、それ程大金って必要ないんだよな俺の場合。溜め込んでたってしょうがないし、パァっと使って経済回した方が何ぼか有意義だ。
それにここで使ったって、明日辺りにギルド行けば今回の指名依頼の料金が入って来るしな……ああ、そういや受けたの俺だけど、達成したのはイブか。
「イブ、今回の依頼の料金、お前の物な」
「!!」
それを聞いたイブがエライ勢いで首を横に振る。酔うぞ?
イブを落ち着かせてジュースを飲ませて一息ついた後、話を聞いてみれば、「おかね、いっぱい、むり」との事だった。
そうか、ならどうすっかね。稼いだのはイブだし……
『【提案】いつもの様にマスターが預かって、皆に再配分すればよいのでは?』
……それだと今回のガーディアンの素材を売った時みたいに、余剰分を全部俺が貰う事に成るんだが?
『【同意】個体名【イブ】もそれを望んでいます。そうですよね? 個体名【イブ】、今回の報酬も、いつもの様に分配で良いですよね?』
そう言うファティマに今度はいぶが縦に首をブンブンと振る。酔うぞ?
その制度決めたのは俺だが、何か釈然とせんな。特に今回金額が大きい訳だし……ああ、そうか、これが偽善か。
これまでは俺が大部分を稼いで来ていたから、分配した後の金が俺の所に来ていても気にしなかったが、今回は“イブ”が稼いで来たって事で引っ掛かったんだろう。施されているって気分に成ったんだろうな。
だとすると、今までの俺は、随分上から目線で皆に接していた事になる。チッ吐き気がする。
『【否定】それは違いますマスター』
「は?」
『【肯定】そうだよオーナー。そもそも拠点の整備も、皆の生活もオーナーが用意して面倒見てたのデス。要は皆が家族って事デス。その家長が財産を所持し、使用する事の何が悪いのデス?』
前世だとそうでも無かったが、そうか、この世界ではそう言う認識の方が一般的なのか。
そうだな、家族だとちょっと抵抗があるが、会社のような組織構造だと思えば、それ程不審でも無いのか。
社員がどれだけ大口の契約を取りまとめても、その利潤は会社に帰属するもんな。
なら、俺は、それを福利厚生とボーナスとで還元してやれば良いか。
「分かった、ありがとうイブ」
俺がそう言うと、イブがはにかんだ。
何だかんだで、俺もまだまだだな。
……
あれ? さっきジャンヌも俺と念話で話してなかったか?
『【正解】ジャジャーン!! その通りデス!! ボクとオーナーの“絆”もここまで育ったのデス!!』
そ、そうか。
『【警告】良い気にならない事です。個体名【ジャンヌ】。私とマスターの“絆”は、貴女とのソレよりずっと深く硬いですから!!』
『【反問】それはどうデス? ボクとオーナーとの“絆”は加速度的に進んでいるのデス。きっと追い越すのももうすぐデス!!』
喧嘩はやめれ。
取り敢えず二人に『強制プラーナ注入』をしておく。腹が減ってるからイライラするんだ。きっと。
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公都に戻り、諸所諸々の手続きを終わらせる。公式に俺は“トール・オーサキ伯爵”となった訳だ。因みに紋章は『クロスする斧と槍に犬』にした。どこぞの聖武器達が歓喜してたが、他に思いつかんかっただけだぞ?
「これであたし達はオーサキ一家って事ね」
マァナ、何処のヤの付く自由業だそれは。
それと同時に『エクスシーア商会』もスタートさせた。扱ってるのは精油、香水、石鹸。
石鹸は聖王国に行った時に海藻を送って貰える様に交渉した事で海藻灰が使える様になった事と、ヴィヴィアンに植物油の心当たりをひねり出させた事で実現した。
やっぱり、ちゃんと鹸化させるにはアルカリ性が足りんかったみたいだ。
あ、ちゃんとヴィヴィアンにも土産やら報酬やらは渡してるぞ? ブラックいくない。
この3つに関しては第二夫人のお墨付きも貰ったし、主に女性中心で広がってるらしい。特に精油とか香水って花の種類変えるだけで何種類も作れるしな。
前世だと、個人個人でブレンドとかしてたはずだけど、今の俺達にそこまでの技量は無いから、そこまではやらんがね。
後はファンデーションとか作れれば良いんだろうけど、確かベースに雲母とか使ってたって聞いた記憶はあるが、詳細がちょっと思い出せんのだよな。
鉱物ベースなのは確かだけど、真珠とか使ってたような?
この世界と前世のソレが同じとは限らんが、確か白さを際立たせるって理由で鉛とか使ってたって覚えがある。
いや、鉛中毒って普通に死ぬからな。そんな理由も有ってファンデーションも自作したい所なんだ。同じ理由で、第二夫人にもそれの使用は控えて貰ってる。
まぁ、ファンデーションについては、まだ、要研究だな。流石にマトスンもこっちには食いついてくれんのだわ。地道に研究するしかないか。
その3種以外のラインナップは、化粧品から離れて、わら半紙と鉛筆モドキだ。だってわら半紙だとペンが引っ掛かる上に結構滲むんだもの。なので、炭を作って砕いて練って芯状にしたものを木で挟んだ、まぁB4の鉛筆を作った訳だ。鉛を使わないのに鉛筆とはこれ如何に?
消しゴムとかは今はまだ無い。ってか、消しゴムってどうやって作るんだ? まぁ最悪なくても構わん気はしてる。いや、わら半紙って消しゴムかけると『グシャ』っていくじゃん?
そう言えば、木炭デッサンは、昔は白パン使って線を消してたとか聞いた気が……
ダメだ却下だ俺的に。
因みに、鉛筆を作る為にマトスンに足踏みろくろの原理を教えてやったわ。これも色々応用効くからな、マトスン目を輝かせてた。
現状、取り扱ってる商品はこんな物だな。
まぁ、おいおいラインナップは増やして行く事にしよう。実際、拠点の家庭内手工業で作れるのもこの位が限界だし。
外注を探すか、作業する人間を増やすか。その辺はマァナとエクスシーアと相談するさね。
あ、バネもゴムも取り扱う事が出来る様に成ったんだから、香水用の噴霧器作らせよう。マトスンに。




