うん、分からん
遅くなり、申し訳ない。
“扉”をくぐった先は、何処か【邪竜】の居た渓谷を思わせる、切り立った崖の上の、その先の中空だった。
「はぁ!?」
俺の後ろから、後続の【ソードオブグローリー】のリーダーであるローリーの素っ頓狂な声が聞こえる。
思わず振り返ると、ローリーのは驚愕に目を見開き、真っ青を通り越して土気色の顔色に。
まぁ、先に入った俺達が、唐突に空中に放り出され、今まさに目の前を通過してる状態なんだから、分からんでもないやね。
見れば、出口たる“扉”は、ついーと、駆足程度のスピードで移動している様に見える。
てか、移動する“扉”なんて物も有るんだな……いや、魔人族国じゃ、“扉”投げつけられたっけか。あれに比べれば移動するくらい、大した事じゃないのかも知れんわ。
てか、ローリーが潜った時に空中じゃなくて良かったと思っておこう。
俺でなきゃ、確実に死んでたねっ!
「あ、ちょっと下見てくるんで、心配しないよう言っといてくれなあああぁぁぁ」
崖の上で真っ青の顔のまま、こちらを覗き込んでいるローリーに、そう言伝を頼み、軽く手を振りながら、俺は取り敢えず下まで落ちる事にした。
駆け上がるのは何時でもできるしなぁ。折角なんで、ちょっと確認して来よう。
同行しているミカとバラキを空中でモフリながら、俺は呑気にそんな風に考えた。
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空中を蹴り落下の威力を減退させる。両脇に抱えてた犬達を下ろし、周囲を確認する。見た感じ普通の渓谷の底って感じ。
ミカとバラキも、フンフンと周囲を嗅ぎ回っている。
う〜ん、雨水の侵食と風化で出来上がったんかね? ここ。だとすると実は室内って事じゃ無く、マジモンの野外って事なのか?
ただの“扉”なら兎も角、宝物庫に設置された“扉”の行き先が野外ってのは有か無しか。
もしくは、かつては室内だったとか?
そもそも、元の宝物庫が、その周囲の建物が破壊されて、宝物庫だけが残ってた。なんて状態な訳だから、そう言う事も有り得る……のか? ちょっと判断がつかんな。
その辺りは専門家であろうDに任せる事にしよう。そうしよう。
何せ、古代遺跡調べたさ過ぎて、フライング入領した位だし、文句は言わんだろう。多分。
この間も、舞台借りて、仲間とセッションの練習してたらしいし。
何やらイベント合わせでコンサートやるとか何とか。『麗しの姫に情熱を』とかってタイトルだったかな? それ聞いたラミアーが、えらく渋い顔してたけど。
それは兎も角、落ちた先の谷底は、手付かずの自然と言った様子で、まともに人が動ける様な状態じゃない。なんと言うか、岩の隙間そのままって感じで、歩くのも一苦労だろう。普通の一般人ならば。
ぱっと見、人工物らしき物も見当たらず、宝物庫の中って感じを受けない。
いや“扉”を抜けて来た先なんだから、ここが目的地なんは確かなんだが、肝心の中身がなぁ。
とは言っても、俺の古代遺跡の知識なんざ、大してある訳じゃないから、単純に俺が知らないだけの可能性だって有るんだよな。
「ワン!」
「アォン?」
『どうするの?』って感じのミカ達の声に、思考を止める。
何にせよ、パッと見た感じ、谷底に『何か有る』ってぇ様子はないから、合流する事にしよう。




