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似て非なる物

 酒場を覗いてみると、そこに居たのは赤茶けた髪の黒い鎧に大剣を背負った大男と、軽装鎧の金髪の剣士風の男。それと斥候っぽい皮鎧の男と、あれ、魔術師か? ローブ姿のヒョロッとした男、最後になんかけばけばしい感じの弓士? 狩人? みたいな女。パーティーだろうか? が、酔っ払い相手に名乗りを上げている所だった。


 パーティー名『ドラゴンスレイヤー』のトールさんって事ならワンチャン偶然って事も有るだろうけど、トールなんて名前、俺は他では聞いた事は無い。


 まぁ、十中八九騙りなんだろうなぁ。


 で、覗き込みながら、話を聞いてると、どうやらこの酒場に入ったドラゴンスレイヤーさん達パーティーは、座る席が無かったから、中央のお客に席を譲れって迫ったらしい。

 で、その客は良い感じにアルコールも入って居たんで、けんもほろろに拒絶。で、今こうなってるんだとか。しょうもな!!


「見なかった事にして帰るか」

「トール、さま、かたる、ゆるせ、ない」


 イブがこんなに怒りを露わにしてるのは初めて見るな。だけんども、騙られた所で俺は別に何も困まらんし。


『【憤懣】あれでマスターを真似てるつもりなんでしょうか? 鎧は不格好ですし、第一、何故武器が大剣なんですか!! あり得ません!! 情報不足にも程があります!! 主武器として大剣を持っているだなんて!!!!』


 あ、引っ掛かる所そこ? そこかぁ、うん、まあ、俺のメインウエポンとしては許せないんだろうな。


『【興味】ねぇ、あれって、個体名【邪竜】を倒した時のメンバーを模してるんデス? だとしたらオーナーと個体名【バフォメット】以外、テキトー過ぎるデス』


 ……あ、あれってそう言う事? 黒鎧と金髪が、俺とバフォメットか。まぁ、特徴くらいしか知らなかったらあんなもんじゃね? 聖剣(ロボバトラー)なんか原型すら見つからんし、けばけばしいのは傾国の美女(ゴモリー)ってつもりか?

 魔術師は……大体近似値かな? でかいし、男だけど。


 で、酔っ払いの方は「お前がドラゴンスレイヤーなら、俺はジャイアントスレイヤーだ!!」とか「そりゃ、お前のかぁちゃんだろ。体形だけは5人前で!!」「いやいや、ありゃトロールだろう?」「何だと!!」とかって大笑いしてる。

 鎧の大男は無表情に見下ろしてるけど、金髪は眉を顰めてるし、その他のメンバーも結構イライラしてる。

 そんな風にストレス溜めるくらいなら、別の酒場に行けば良いと思うのは何か間違ってるんだろうか?

 と言うか、態々俺の名前を騙ってるのに、あまり効果が無いって事の方が何かいたたまれんのだよ。


 止めたげてぇ!! 俺のHPはもうゼロよ!!


 白目痙攣し始めた俺に、気が付いて擦り寄って来てくれたミカとバラキに癒される。


 どうでも良いけど、その『ドラゴンスレイヤーの冒険者トール』さん、爵位貰って貴族になってますから、騙ると重罪ですよ?


 まぁ、成ったの数日前だけど。魔人族国で公表されてから、こっちの王都まで20日ちょいかかるって事を考えれば、風魔法通信の使えるギルド上層部や王家と上位貴族は別にして、一般の冒険者や商人達に、まだ情報が入って無いのも分かるけどさ。

 むしろ、この短時間で王都まで来れる俺達の方が異常なんよな。


 どうしたら良いんだろうな、この状況。騙られてる本人なんだから当事者とも言えるんだが、現状は部外者とも言える。

 単に言い争いをしているだけの今、割って入っても話を拗らせるだけだろうし、だからと言って『俺達がガンダ……』おっと間違った『俺達が本物だ』とかって言って入って行くのも憚られる。主に俺が恥ずかしいし、俺達の格好では説得力皆無だろうしな。


 ……ああ、あったわ、この場を治める『たった一つの冴えたやり方』。別に自己犠牲をするつもりなんぞ無いが。


「これより、介入する」

「うん」

『【了解】分かりました、マスター』

『【了承】オッケーデス』

「あ、ちょっと貴族ムーブするんで合わせてくれるか?」


 全員が頷いたのを見て、俺は店内に足を踏み入れた。


 俺達が店内に入ると、店員も含めた客の視線がこちらに向く。無言でこっちを凝視し、誰もアクションを起こさない。件の『ドラゴンスレイヤー』達も怪訝そうな顔をしてこっちを見ているが、金髪剣士は、既に剣に手を掛けているし、斥候も懐に手を突っ込んでいた。

 あぶねー、刃傷沙汰一歩手前だったじゃねぇか。

 冒険者が面子潰されたら終わりってのは分かるが、一般人相手に手ぇ出したら、自分達の顔に泥を塗るんだってのは分からんのかね? あ、今泥を塗られるの俺か。だから気にしないんかね?

 取り敢えず泥パックにしときゃ良い?


「……? ここは食事を提供してくれる場所ではないのか?」


 俺の言葉に、店員がハッとして「あ、ああ、いらっしゃい」と声を掛けた。


「えっとだが、いまちょっと……」


 取り込み中だと言いたいんだろうが、その原因を潰したいんだよな。えっとそうだな、ファティマ、俺の家名は『オーサキ』にしといてくれるか?

 ファティマを見ながらそう念話を送ると、彼女はコクリと頷いた。


『【質問】何か問題でも? ああ、満席なのですね。ですがマスターは今日は家名【オーサキ伯爵】としてではなく、お忍びで来られているので気にする必要はありません。しばらく待ちましょう。ですよね? マスター』


 俺はそれに鷹揚に頷く。今の俺は高級宿に宿泊するって事も有って、結構上等な服を着ているし、裕福な商家か貴族でも無ければ連れ歩く事の無い“美術品”としてのゴーレムに見えるファティマ達を連れている。『俺が本物のドラゴンスレイヤーだ!!』とか言うよりは説得力があるだろう。

 それに、貴族を騙るのは重罪だ。誰も、俺がそんな事をするとは思わないだろうし、第一、家名こそ即興だが、俺が貴族だってのは本当だしな。

 あ、ファティマ、この家名の件も聖弓(ロボセイント)経由でエリスの方に念話送っといてくれ。


 俺達がお忍びの貴族だって名乗った瞬間、店内の客達の眼が見開かれる。金髪剣士も剣の柄から気拙そうに手を放し、斥候も慌てて懐から手を出した。


「あ、え、お、おれ等飯は済んだからもう行くわ!! 大将!! お勘定!!」


 テーブル席の一組の客がそう言って席を立つ。あわててお勘定をしようとしていた店員に俺は待ったをかけた。


「ありがとう、そうだな、態々席を譲ってくれてお礼に、そのお勘定は私が持とう」

「え? あの、その……」


 躊躇う客と店員をサラッと無視して俺はさらに言い募る。


「お忍びで来ていると言う事の口止め料と言う事で、今夜の酒代は私が持つ!! 皆、自由に食べてくれたまえ!!」


 そう言ってファティマに目配せすると、彼女は了解しましたとばかりに、金貨の入った小袋を店員に手渡す。

 瞬間静寂に包まれた後、「え? 本当に?」とか「でも、確かに金を渡してるし」とかザワザワとしていたが、店員が厨房の方を確認して、おそらく大将だと思われるオッサンがコクリと頷いた後、それを確認した客達が、一斉に歓声を上げた。

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