諜報員対策
遅くなり申し訳ない。
表面上は問題無く日々は過ぎているけど、その実、水面下では、結構バチバチ。
何の事かと言えば、まぁ、密偵の話。万魔殿との戦争やってるんだから、そっちに注力してて貰えれば良かったんだが、そうも言ってられないのが国同士の関係なんだろうさ。
この所、とみに増えてき出したのは、各地で英雄が出現してきて、万魔殿との戦争が拮抗しだしたから、その分、余裕が出て来たってぇ事なんだろうけど、万魔殿の目的が、人々を戦争によって“進化”させるってぇ事なら、英雄の出現も、その計画の内なんじゃろか?
万魔殿の方としては、魔族の方をこそ増やしたいんだと思うんだが、カウンター的存在である【英雄】の出現も、ある意味当たり前な訳なんだし、この辺りを考えて無かったと言う事はなかったよな?
万魔殿の、戦争吹っ掛けてるお題目としては『全人類の戦闘力の底上げ』な訳だし、それは別に“魔族に成る”ってぇ事に限らんのだしなぁ?
正直、万魔殿の連中が何考えてるかなんざ分からんが。
そんな事は兎も角、目下の問題は、家の領地に入り込んで来る間諜の類な訳だ。当然だが、機密に当たる商品やらアイデア何かは極秘扱いで、その管理も徹底して貰ってる訳だ。
特に商品なんかは、専門部署で部品毎に作って貰って、それを統合させて組み立てるのは、一部の信用のおける人間にやって貰ったりしてる。らしい。エクスシーアが。
ほら、俺、この世界だと、どの辺りが隠匿せにゃならん技術なのか、イマイチ分からんからなぁ。いや、エクスシーアも数年前まで宝物庫守護者をやってた訳だけど……何だろうね? 頭の作りが違うから?
いやいや、曲がりなりにも、向こうは数百年単位で生きてる訳だから、年の功だろう。多分。
それはそれとして、領地の街に入って来た人間の中から、怪しい輩をピックアップして、監視をして貰ってる訳だ。コボルト諜報部に。
怪しいと言いつつも、密命帯びてるのは確定。何せ、表層意識だけとは言え、思考が読めるからなコボルト。いやいや、全く諜報員殺しだよね。
まぁ、こんな優秀な能力持ってるからこそ、恐れられて排斥の対象に成ったんだろうけど。
「んじゃ、注意はしておいて、それから、諜報部連中で、情報の共有の頼むな」
「御意」
そう言って、報告をしてた諜報部のコボルトが姿を隠す。まぁ、天井裏の専用通路に引き上げられただけなんだけんども。
誰の仕込みだろう? あれ。多分、ジャンヌかセフィ辺りだと思うけど。俺の太股に顎を乗せて来たミカとバラキの頭を撫でる。
コボルト諜報部ね、更に進化して、か~な~り~、優秀に成って来た。そもそも、表層意識を読めるってぇだけでも凄いんだが、一人が得た情報を生体磁場の短波使って思考共有出来るし、最近だと、イメージの共有すら出来る様に成ったらしいんで、誰か一人が怪しい輩を発見すれば、その人相を諜報員のコボルトの全員が共有できるらしいんよね。
前に『凄いな』って褒めたら、『トール様のお陰です』とか言われた。あれね、俺達が作った、あのTCGのエフェクトを見た事で、『あ、映像って、保存や共有が出来るんだ』って、天啓を受けて、それから出来る様に成ったらしいんだわ。
凄いよね、イメージ力って。