地雷って見えない所に埋まってるんよね
遅くなり申し訳ない。
「美しいお嬢さん。わたしと、一曲、踊ってくださりませんか?」
どこぞの新米領主であろう男性にそう言われ、ネフェル王女が俺の顔を伺う。
相手は190cmは有るであろう偉丈夫で、ネフェル王女に比べれば、若干身長は低いが、がっしりとした身体つきは、彼女と並んでも見劣りはしない。
「構わないよ? 踊ってきなよ」
俺の言葉に、若干の困惑を見せながらも、言葉に従って、ホールの中央へ歩み出る。
護衛と言っても、常に一緒にいる必要もないし、俺以外の人間とも踊らんと角が立つしなぁ。
そもそも、身長差有り過ぎて、俺とのダンスはステップ踏んでただけだし。
たまにはちゃんと踊らんと、忘れっちまうだろうしな。
そんな風に思って送り出したんだが、何か、ソイツ、王女の腰に手を回しながら、勝ち誇った様な表情で、俺を一瞥してから『さあ、行きましょう』とかって、エスコートして行った。いや、何よ?
高身長の美男美女の登場で、会場がざわめく。まぁ、目麗しい男女のダンスは華が有るやね。
会場の殆どの目がネフェル王女達に注がれて、中には嘆息する声も聞こえる。
そのお陰でか、俺への挨拶攻勢も一旦空きが出来た。
良し、この間に、ちょっと用をたしておこう。
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お手洗いから戻ると、何か、会場がざわついていた。
何じゃろか? とか思っていると、イブとファティマが俺の所まで寄った来た。
『【報告】個体名【ネフェル】王女と何処ぞの阿呆が、一触即発です』
ファティマの言葉に、イブもコクコクと頷く。いや、何処ぞの阿呆て……
そもそも、王女、新米領主と踊ってたんじゃなかったっけ?
そう言えば、あの領主、何て名前だったっけか。
今日、挨拶した人数が多すぎて、イマイチ覚えきれんかったわ。まぁ、良いか。
そんな事を考えながら、騒ぎが起きている場所まで行くと、そこにいたのは氷の様な冷え切った眼差しのネフェル王女と、何か必死で王女に言い募っている、件の新米領主の姿。
……何処ぞの阿呆って、あの領主かよ。一応にも近隣の領主なんだけど、先代と長男が事故で亡くなったんで、お鉢が回って来たんだったか?
その事を幸運が舞い込んで来たみたいに自慢してたから、顔だけは印象に有る。顔だけは。
先代の顔をよく覚えてないのは、多分、その他の領主さん達に埋没してて、挨拶をしたのも1回2回程度だったからだと思う。いや、それも憶測なんだけれども。マジ印象に無いんよ。
『【嘆息】覚えている価値も無いので、それで良いかと』
ファティマの反応からすると、積極的敵対こそしないものの、決して好意的では無かったってぇ所かな?
締め上げる程では無いけど、商会の支店を作るまでもない位の。多分向うも積極的に誘致はして来なかった感じの、可もなく不可もなく的な。
まぁ、印象に残ってないならしようがないか。
それは兎も角、何が有ったんだ? ネフェル王女と阿呆領主にさぁ。




