色々あるんだわ、貴族って
遅くなり、申し訳ない。
「結婚は許さないけど、婚約者は決めなければいけないかも知れないわよねぇ。嫌だけれど……」
本当に嫌そうに第二夫人がそう言う。貴族的にはそうしないと、俺に何らかの瑕疵が有ると思われるし、侮られるんだそうな。
いやまぁ、実際に、実年齢の事とか、魔族に狙われてる事とか、色々瑕疵は有るんだけんども。
社交活動については第二夫人に一任してるってか、後見人を買って出てくれているんで、任せっぱなしに成っちまってるってのが現状なんで、第二夫人の判断が優先されるんよね。
いや、実母でも有るから甘えちまってるってぇ面も有るけど。
その第二夫人の判断であるなら、婚約者位は覚悟しないといけないかも知れんわ。
はい、視界の隅でアピールしてるエリステラレイネさんは落ち着いて下さい。
第二夫人が頰に手を当て、溜め息を吐く。
「実際ね? 結構な申し込みが有るのよ?」
「婚約の、ですか?」
実際問題、俺は悪名の方が轟いてると思うんで、そんな所に娘を送ろうとか思ってる貴族がいる事自体が、ちょっと驚きなんだが。
そんな事を思っていたんだけど、ジョアンナさんがちらりと見た、机の上で存在感を主張してる摩天楼群と成っている紙の束を見て、少し眉根を寄せる。
「もしかして、アレ全部、釣書ですか?」
ジョアンナさんがコクリと頷く。
……マジか。
「やっぱり、貴族としては、王家に直接的な繋がりを持てると言うのは、魅力的みたいね。それも複数のでしょ?」
チラリ、と魔人族国女王の事を見る第二夫人の言葉に、『ああ』と納得する。
自国や魔人族国だけじゃなく、魔導王国や獣人の王国、はては聖王国やネフェル王女とも、縁は有るっちゃ有るのか。
確かに、複数の王族との縁が出来るのなら、暴力装置なんて、些細な事かもしれない。
政治的判断で政略結婚の駒にされるってのは、現代社会に生きてた俺からしてみれば『どうなんだろ?』って感じはあるけど、よくよく考えれば、親が相応しいと思った相手を紹介してくれるんだから、ある程度は、相手の事を調べては居るだろうし、ある意味、マッチングアプリよりかは安全だろう。
そもそもお互いの交流期間として婚約期間ってのがある訳だし。その間で条件や相性が合わなければ、婚約が解消される事だってある。
ある程度は家の事情が関わって、完全に個人の意見が通るって訳じゃないとは言え、変に自由恋愛に拘るよりは、良いのかも知れない。
そもそも前世だと、『出会いが無い』とかのたまってて、アラフォーに成るまで結婚もせず、孤独死してる訳だし。
いや、出会いなんて、作ろうとか思えばいくらでもあったよ。それこそ、そう言うアプリだって有ったわけだし。
親不孝だとは思ったけど、その必要性を感じなかったんだよね。
今、思えば、突然死してる時点で伴侶とか居なくて良かったかな? とか思わんでもないけど。
だって、結婚とかしてて、働き盛りの夫が突然死とか、残された方はどうするの? って話に成るからな。
とは言え、あの選択が絶対的に正しかったとも思ってもないけど。
それは兎も角、現世での話だ。他の貴族への影響とか考えて、相手を選ばなきゃならん辺りで、面倒くさいよなぁ貴族って。