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強くなると言う決意

 発射した魔法を制御しながらの新たな魔法の構築と発動。言ってしまえばそれの繰り返しではある。その繰り返しがどれだけ辛い事なのかも俺は知っているがね。


 いや、魔法の事じゃねぇよ? 俺、魔法使えねぇし。チクショウ。


 体内循環やアドアップやブースト。魔力外装からの魔力装甲の上のエクステンドも、発動、制御、構築の繰り返しだからな。

 それ等の同時行使がどれだけ辛いかは分かってるさね。

 それをやってるのが5歳の少女と言う事実が、彼女の規格外さを物語っている。何せ、伝説に謳われる聖武器が認める程の才能だからな。


 そしてそんな才能が、伝説の指導で磨かれて行ってるんだから、英才教育なんてもんじゃねぇよな……


 あれ? 俺の才能見抜いたのが戦闘狂の魔族で、その才能を磨いたのも戦闘狂の魔族って……いやいや、俺、独学だから! 自分で見つけて自分で応用して自分で磨いた能力だから!! 戦闘狂の魔族なんて居なかった。それで良いじゃないか!!


 ******


 イブと、ジャンヌが両膝をついて項垂れている。


 83匹のワイバーンを倒したよ。


 まぁ、そう言う訳だ。それ以上のワイバーンは出なかった。要は狩り尽くしたって話。四つん這いで項垂れる二人を横目で見ながら、俺とファティマで討伐証明にする為に額の角を手刀で切り落とす。

 ミカ達も手伝ってくれようとはしているんだが、流石に噛みきるのは無理だと思うぞ?

 あ、いや、ウリ、凄いなお前、魔力外装そこまで使いこなせるんだ。うん、そのまま前脚に纏った外装で切り落としてくれ。


 ガブリ食うな。


『【誤算】ま、まさか、巣だと言うのに100匹ぽっちのワイバーンがいなかったとはデス』


 いや、普通に、飛行する大型肉食獣がこれだけいれば、けっこうな脅威だと思うぞ?


「とっくん、の、せいか……」


 そうか、この為に特訓してたのか。で目標が100匹だったと。いや、ワイバーンって、一匹だったとしても冒険者が複数パーティーで倒すらしいぞ? 普通の魔法使いって眼前から直線でしか魔法を放てないらしいし、そもそも、アイツらの居る高度まで魔法が届かないって事だし。

 襲ってきた所でカウンターが理想だそうだが、そうなると、剣士辺りがメインの火力で、魔法使いは空中に居る時の牽制くらいしか出来ないんだと。

 まぁ、魔法でカウンターって基本ムリだからな。詠唱しながらベストタイミングでって出来ると思うか?

 こんなに簡単に行ったのは、あくまでイブが【詠唱破棄】ができる上に、魔力制御でホーミングが出来たからであって、一般的な魔法使いだと魔力制御が辛うじてできるくらいで、【詠唱破棄】はほぼ不可能レベルだかんな?

 要するにジャンヌの言ってる事の方が可笑しいだけで、普通は魔法使いが一人でワイバーンを一匹討伐しただけでも奇跡を見せられたような扱いになる筈なんだわ。

 それを83匹だぞ? ここん所、戦闘に関する常識が怪しい俺でも偉業だと分かる。


「いや、普通に凄かったからな? イブ」


 俺がそう褒めると、ガバっと言う擬音が聞こえるかのような勢いでイブがこっちを見ると、思い切り走り出して俺に抱きついた。


「トール、さま!!」

「うん?」


 イブが俺に抱きついて、半泣きで口を開く。


「つ、ついて、く!! こんど、から、ぜったい!!」

「え、えーと?」

「おいて、かない、で!!」


 その言葉を聞き、俺は雷に打たれた様な衝撃を受けた。と、同時にゾワリとした感覚に襲われた。

 思えば、狩りなどにはイブは連れて行った事は無い。準冒険者の年齢だからって事も有るが、イブには帰りを待っていて貰いたかったからだ。まぁ、それは、彼女に危険な場所に行ってほしくないと言う感情の裏返しな訳で……


 それだけじゃない。邪竜の所にファティマを取りに行った時は初めから戦うつもりなんて無かったからこそ同行はしていたが、基本、最後まで手を出させる事は無かった。バフォメットの時やガープの時もそうだ。

 軍を相手にした時、その後邪竜と再び相対した時、入れ違いに成ったとは言え、俺はあえてイブを呼ぶ事は無かった。


 何故か……イブが大切な家族だって事に嘘は無い。だが、俺の中で背に傷を受け倒れ伏してたイブの姿がチラついてなかったか?

 無意識に少しでも危険な場所から遠ざけようとして居なかったか?

 今回はファティマとジャンヌがかなり強固に同行させようとしたので折れた訳だが、それが無かったとして、果たして一緒に連れて来ていただろうか?


 それをイブは……俺から遠ざけられている様に感じていたのか?


 多分、俺は恐れていたんだ。この少女を失う事を。だが、それは俺のエゴで俺の……弱さ。

 だからこそ、イブは強く成ろうとした。自分が俺に付いていける程の強さがあると証明したかった。


 『タフでなければ生きていられない。優しく無ければ生きる資格は無い』俺の、好きだった小説の一文だ。タフでもなければ、優しくも無かったのは俺の方だ。


 イブの頭にまわした手に力を籠める。


「一緒に行こう。今度からは、ずっと、ずっと一緒に」

「うん……」


 そう頷いて、イブはまた新たに涙を流した。

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