検証してみた
防壁外での採取が出来るようになり、教会菜園と会わせて、それなりに自給自足が出来る様になった。
森の中でノビルみたいな野菜見つけたり、山芋見つけたり。
ウリとラファが小動物狩ってきたりとかな!
件の秘密通路は予定通りガブリの抜け穴完成後、バレない様に塞いでおいた。
ここに通路なんてなかった。それで良いじゃないか!!
「トール、さま、こう?」
「さま?」
「?」
……なぜ様付け? まぁ、良いけど。
イブが、掌の上で炎をお手玉の様に操る。彼女は俺が思うより魔法の才能があったらしい。
俺がメモしていた『着火』『集水』『そよ風』『浄化』の魔法を次々に覚えて行った。
ただし、どれもこれもが威力がおかしかったが。
『着火』が火炎放射機の様に成ったのを始め、鍋一杯程度の水を集める『集水』で、俺が軽く流される程の水を集めたり、『そよ風』の魔法で突風が吹き荒れたり。
極めつけは『浄化』だ。洗濯物なんかが、少しばかり綺麗になるだけの魔法で、使っていたシーツが驚きの白さに。
てか、検証の為、シーツを置いてた床の赤絨毯すら真っ白に……
それで気が付いたね、確かに魔法の才能は有るかもしれない。だが、制御が全く出来ていない、と。
俺は魔法を使えてはいない訳だが……おっと心の汗が目から零れてきやがった。
それでも、制御とか何とかについては何となくイメージが湧く。
要は魔力を練り込んだり、魔力量を絞ったり、体の中を循環させたりってあれだろ?
ラノベ知識だがな!
なので、イブには魔力を感じる所から始めてもらって、それを流す量を大きくしたり小さくしたりと言う訓練をしてもらってる訳だ。
まぁ、俺は魔法使えないけどな!
「出来る出来る! やれるやれる! お前ならもっとやれるよ!! 頑張れ! 頑張れよ!! もっと、もっとだ!! 考えるんじゃない! 感じとれ!! お前がむしろファイアーだ!!」
「う、うん!」
さすがは『修○式ポジティブ練習法』だ。おかげで、最初の頃は魔法を使う度に、魔力を使いきるまで放出していた彼女も、今では魔力量を絞って魔法を使えるように成った。
『ハ○トマン軍曹式ブートキャンプ練習法』とどちらが良いか迷ったが、『修○式』にして正解だったな。
まぁそれでも、威力としては、まだまだかなりデカいのだが。『着火』がファイアーボールに成るくらいには。
ただ、こうやって何も考えずに練習に集中するのは悪い事では無いだろう。
実はこの所イブは随分落ち込んでいた。貧民街でお世話になった女の子の姿を最近見なくなったからだ。
正直、貧民街は何があってもおかしくはない場所だ。
攫われたか、それとも……
いや、考えない様にしよう。で、俺の方はと言えば、イブに指摘された赤くなるとか言う不思議現象を検証し、おおよその見当をつける事が出来た。
そもそも俺が、赤ん坊であるにも関わらずここまで自由自在に動けるのがおかしかったんだ。
街の人間の反応を見てわかる通り、赤ん坊が自在に動き回っているなんてのは、この世界でも驚かれる事な訳だ。都市伝説に成るくらいにな!
最初は、俺が前世の記憶が有って、自意識がハッキリしているのが原因かとも思ったんたが、それにしたって大人と同じ位の筋力を有しているってのもおかしい話だ。
赤ん坊だったとしても成人男性と同じ位のフィジカルを持てる理由。
それが赤く染まる事だとしたら?
ここまで推測できれば後は簡単だ。
俺が無意識にやっていた事、それはフィジカルエンハンスメント、身体能力に対するバフ効果だ。
身体が赤く染まるのは、血管が膨張しているとかなんとかって感じの副作用的な何かだろう。
おそらくはパッシブで発動していて、俺の意識が完全になくなると途切れるとか、使いすぎると眠くなるとか言った感じのアレだと思われる。
昔……と言っても2ヶ月前に比べると、一日のうちで眠たくなる回数が減った事でもその説が正しいと言う証左に成るだろう。
パッシブなのだから、このままでも問題は無い気はするが、しかし俺は、これを意識的に制御できないかと考えた。
この身体能力向上は、今の俺にとって最大のアドバンテージでもあるが、諸刃の剣でもあるからだ。
この能力が常時発動であり、使いすぎた場合に眠くなるのであれば、もしもの時に能力を使いすぎ、眠くなってしまって動けなくなると言う危険性は、大いに考えられるだろう。
そう言った時に、咄嗟に解除することが出来れば、少なくとも意識を失うと言う事だけはなくなる。
そう言った意味でも、オン、オフ位はできる様にしておきたい。
………………
…………………………
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はい、もっともらしい事を並べたけど、最大の理由は魔法が使いたいからです。
だって、この能力がパッシブなら、能力を使う為のリソースって何って話しに成るだろ?
色々考えたけど、やっぱり魔力しか考えられないじゃん!
つまり、身体能力向上を常時発動してるから、魔法に使えるリソースが無いって話じゃろ!?
……魔法が……魔法が、使いたかとです。安○先生。
せっかくファンタジーな世界に転生したんだよ? 少年心が疼くじゃん。魔法とか勇者の剣とか勇者ロボとか!
まぁ、俺の色が赤く無くなれば、俺=赤銅のゴブリンライダーって疑惑から逃れられないかなって思惑もある。
いや、イブを連れて帰った時、伸したオッサン居たじゃん? あのオッサンが、結構な感じで俺の事吹聴したらしく、その内「それって、噂のゴブリンライダーじゃね?」って話しに成って、エライ噂話に成っちゃったんだよ。
それまでは精々目撃情報か、ちょっと襲われたって噂ばかりだったんだがな。
今は、尾ひれはヒレ背ビレに胸ビレまで付いて、有る事無い事無い事無い事処々諸々が俺のせいにされてしまった訳。
老若男女問わずに性的にも食料的にも襲い、民家を襲撃しては根こそぎ奪い、壊し、整地して家を建てては高額な建築料を請求し、作物を荒らしたり、物流を滞らせたり、税金を滞納させたりした挙げ句、麻薬を蔓延させ、疫病を流行らすわ、呪詛をばら蒔くわ、それってどこの魔王?
何かもう裏通りすら歩けない感じに。あのオッサン、ネイティブスピーカーとしては優秀だったって事だな。
そんな訳で、ここ1ヶ月程は防壁外の森の近くに隠れ住んでるわけだ。
今は、ちょっと強い動物(?)位にしか遭遇してないが、いつ本物の魔物と接近遭遇するか分からない。
防壁が造られてるのは伊達じゃないだろう。さすがに。
色さえ白ければ、俺は普通の赤ん坊だ。異論は受け付けない。
そうなれば、例えばイブにおんぶでもされてれば、普通の、姉に世話される弟にしか見えないだろう。
それなら、堂々と街中に行けるし、情報収集や生活を豊かにする為の材料集めもやり易くなるハズだ。
その為にも、俺は能力の制御をせねばならんのです!
……てか、何か、ミカとかラファがうるさいな……ってか、熱!! え? 熱風!?
俺が振り返った時、そこで見たものは、複数の火の玉を高速でお手玉するイブの姿だった。
……イブさん、パねぇッス。マジ天才。




