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5歳の旅路

 討伐依頼、ご指名入りましたぁ!!

 コンチクショウ!!


 素材程度じゃ留飲の下がらなかったらしい公爵様から結構な無茶振り。飛竜(ワイバーン)の巣の討伐と言う指名依頼が入りやがったさ。

 場所はこの国の王都にもほど近いギャリニア渓谷って場所らしい。そう言や、何気に国内方面に行くのって初めてか? なんでか余所の国に行く方が多いよな、気のせいかね?


 生後しばらくは隣の町に行くのでさえ不可能だと思ってた俺がだぜ? 何やら感慨深いやな。


 まぁ、そんな訳で普通に護衛依頼こなしつつなんて言ってたら、行き帰りだけで一か月近くかかる旅路な訳ですが、そこはもうね、第二夫人(ははうえ)もごねるし、俺もそんな時間かけたかねぇんで、何時もの様に走って行こうとか思ってたんよ。


 そしたらそれ聞いてたマトスンが「こんな事も有ろうかと思って」とかって、どっかで聞いたような台詞からの聖犬のオプション説明への移行。


 まぁ、要は犬車を作ってみましたよ、と。


 全高が190cmある聖犬用の車なんで、二人乗りの軽自動車位の大きさは有る。街道走るのは良いけど、森ん中突っ切るのは厳しそうやね。

 だが、だ……


「車に関してはもうちょっと改良できるんだが?」

「師匠!! ぜひ!!」


 スプリングにサスペンションにゴムタイヤ!! 馬力に関しては、俺がいくらでも聖犬をパワーアップできるんで、その分、走破性を上げる事にした訳だ。

 ついでに座席もふかふかにしたった。


 予想通り、金属の焼きなましの技術には思いっきり食いついたな、マトスン。これ、スプリングを作るには必須な技術だしな。

 そして、スプリングの可能性について、やはり気付いたらしい。

 流石はマトスン。ただの変態入った技術オタクじゃなかったってぇ所だな。


 ゴムタイヤを作るにあたって生ゴムは必須だったんで、ゴムの木を探す、ついでに加硫させて、弾性限界の上昇と、加工をしやすくする為の硫黄も探させた。

 ゴムの木に関しちゃヴィヴィアンに記憶を絞らしたわ。硫黄はマトスンが出入りしてる素材屋で入手できた。これ、着火剤として使われてるんだそうな。


 ゴムになんで硫黄を使うのかって話に成った時、流石に加硫は知らなかった様だが、ヴィヴィアンは硫黄から皮膚病の薬が作れるよ~とか言っていた。流石、腐っても魔法薬屋だわ。


 ゴムはゴムで色々使い道はある。なんで、ここで材料が入手できるってのはこっちとしても有難いからな。特に加工ができる様に成るって所が。


 そう言った準備をしつつ、旅の間に必要な細々とした物も買込み、出発の日を迎える。

 メンバーは俺とイブ、ミカ筆頭に犬達6頭。そして聖武器2人と聖犬。エクスシーアは留守番。

 もうちょっと人としての暮らしに慣れてもらう為だが、教会(きょてん)の警護も兼ねてだ。

 その為にグラスとの面通しも済んでる。


「んじゃ、行ってくる」

「お土産、期待してるよ~」


 ワイバーン相手にしてくるってのに、なんの心配もしてない様子に、苦笑が漏れる。

 それだけ信頼されているんだって事にしとこうか。


 ******


 今回のワイバーンの巣討伐。俺は極力手を出さない様にする事にした。

 主にイブを鍛えるためだ。コイツはジャンヌからの要請でもある。

 彼女曰く『ワイバーンは丁度よい教材』なんだそうな。


 ワイバーンが居るなら、竜騎士みたいなのも居るんかと思ったら、ファティマ達に顔を見合わせながら『【怪訝】え? 何それ』とか言われたわ。

 ドラゴンに乗って戦う~みたいな事を説明したんだが、言ってて邪竜を思い出し、『あ、乗る事に意義無いじゃん』って理解したけどさ。

 小山の様な生き物の背中に跨ってと言うか、座り込んでランス振り回したって相手に当たるわきゃない。

 当たる距離まで近付こうと思えば、相手も竜の背に乗せるか、自分が降りて相対するしかない。


 うん、全く意味がない。

 この時はそんな理由で納得したんだがね。


 実際にワイバーンに相対して『ああ、うん。これ騎乗とか無理だわ』って思ったわ。


 角生えた蝙蝠だわ、これ。

 体表は土やら埃やらでまるで岩が張り付いてるよに見えるんだが、シルエットはまるっきり蝙蝠。頭に角生えてるけどな。


 全長で言えば10mは軽く超えるサイズでは有るけど、動きもまんま蝙蝠、あの不規則でフラフラと飛ぶ飛び方のアレに鞍つけて騎乗とかやったら、吐くね。確実に。

 そもそも、コイツ等、休む時逆さにぶら下がりやがるし。


 で、ジャンヌが『良い教材』と言った意味も分かった。不規則に飛ぶ蝙蝠じゃなくて、ワイバーンは、直線で飛んでいく様な魔法攻撃とは相性が悪い。普通に狙ってもまず当たらない訳だ。


 そこで必要なのが魔法の制御って事。つまりは魔法をホーミングさせ、当てる技術を磨けるって事だな。


「ミカ、バラキ、ウリ、ガブリ、セアルティ、GO!!」


 俺の号令で、5頭の犬がワイバーンを追い立てに行く。ラファだけは護衛としてイブにつけた。聖犬も待機。

 俺は、聖犬にもたれながら、ジャンヌに見守られつつ【ファイアランス】を無詠唱で展開し、それを待機させるイブを見る。その髪には銀細工の髪留めがきらりと光っている。嵌っている宝石は真っ赤なルビー。


『【質問】不安ですか? マスター』

「まあね」


 イブを信じて無い訳じゃないし、本気で天才だと思ってはいるが、だからと言って心配しない訳は無い。あの娘は、俺の娘で妹のような存在だ。

 ガリガリにやせ細っていた頃から知っている。だからどうしても、あの時の虚ろだった瞳を思い出してしまうんだよ。


 この旅の途中でイブは5歳に成った。以前町に買い物に行った時に、彼女が眺めていた髪飾りを誕生日プレゼントとして彼女に送った訳だが、思いの他喜んでくれたのが印象的だった。

 確かにイブもあの頃とは違うんだろうが、それでも独り立ちするのはもうちょっと待って欲しい様な思いも少しある。これが父性ってもんかね? いや、まぁ、俺もイブもまだ幼児幼女の年齢なんだが。


 ワイバーンがこちらを認識して襲い掛かって来ているが、イブに焦りや緊張と言った様子は見えない。魔族の【恐怖(フォビア)】に打ち勝ったのは伊達じゃないって所か。


『【応援】今の個体名【イブ】なら、100匹くらい軽く行ける筈デス!! 成長した貴女の力、オーナーに見せつけてやるデス!!!!』

「うん!!」


 ……いや、ここ100匹も居ないんだが?

 気配を感知して、そんなに獲物の数が居ない事を確認した俺だったが、しかし、何かスポコン並みに火がついてる二人に、その事を告げる事は出来なかった。

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