選択と決意
正直、アポリオンのやった事を擁護なんざしないし、しようとも思わない。だとしても『死ねば良かったのに』と思う程には憎悪の対象ではない。まぁ、あれだけの人達を平然と犠牲に出来る精神性に対しては、改めて相容れないとは思う。
もっとも、魔族にしてみれば、人間が家畜を屠殺する様な感覚かも知れんが……いや、人間でも大量屠殺とかせんか。あれ? してたかもしれんか? コンベアで流れてく肉とか考えると、どうなんだろう?
いやまぁ、俺の感覚とは相容れない(個人的な感想です)と言う事で。この感覚は、まぁ、犠牲になった相手が敵対者だったって事も関係してるんだろう。それ以前に特に顔見知りって訳じゃ無い他の国の住人だったってえのも有るんだと思う。
自分の事を冷血漢だとまでは思わんが、博愛主義者な訳でもなければ正義感ってぇ訳でもない。前世の記憶に引っ張られてる所は有るが、それでも俺の主観としての『道徳観』ってやつに則っては行動してるからな。その感覚で言えば、他国の国民が被害にあったとして、『可哀そう』的に同情はすれども。その原因になった相手を『許せねぇ!! 俺が成敗してやる!!』とは思わんのよ。薄情かもしれんが。
俺にとって大切な相手ってのは、あくまで『俺が関わった顔の知ってる相手』であって、『全ての人々』ってぇ訳じゃぁ無い。
そう言う意味では、俺はここで立ち向かわなきゃいけない。何故なら、ここで俺が負ければ、俺の知っている“大切な人達”が、あの【邪神】召喚の為の犠牲者と同じ運命に成りかねないからだ。正直、立って居るだけでもギリギリな俺が立ち向かった所で、瞬殺されるかもしれない。
いや、十中八九、瞬殺されるだろう。
けれど、その一瞬の時間を稼ぐ事で、ファティマが必殺の一撃の準備を整えられるかもしれない。また、今の戦いを見ていた家族達が、こちらに向って来てくれて居るかも知れなくて、その誰かが、いや、仲間達が協力してアポリオンを倒してくれるかも知れない。
正直、俺の家族達にはその位のポテンシャルは“有る”と思ってる。
「俺の領民には、手を出させない」
俺はそう言って、一歩前に足を踏み出す。
と、ファティマがオファニム・ケルブをパージした。
「ファティマ?」
『【提案】マイマスター、貴方は、個体名【オファニム】の中で、回復してください。私が、時間を稼ぎます』
いや、それをやれば、俺は回復が早くなるかもしれない。けど、正直言ってオファニム・ケルブと接続していないファティマでは、例え【人間体】だろうとアポリオンの相手はキツイだろう。
俺の前に進み出たファティマを止めようと更に前へと踏み出す。
『【懇願】マイマスター!!』
そんなやり取りをしている俺達の様子を見ていたアポリオンだったが片眉を上げると、おもむろに口を開いた。
「済まぬが、拙僧はもう今の所、貴殿等と遣り合う心算なぞ無いぞ?」
「『【驚愕】は?』」




