肝が冷えるようなジェットコースター感
アポリオンが倒れた事を確認した途端に眩暈がし、【闘神化】が維持できなくなる。
どうやら俺は【闘神】の胸部辺り、更に言えば、心臓に位置する辺りに存在していたらしく、【闘神】の身体が消失すると、足元は10m近い高さの何もない荒地……正確に言えば、戦いの余波で、荒れ地と言うのも烏滸がましい程の跡地と化している、その上空に取り残される状況に成っていた。
「あー」
何だろう。思考すらまともに働いてなくて、ただもう、口から意味のない音が漏れてる。『あ、ヤバいかも』と思ったのは、すでに自由落下が始まった後。
普段なら、ハッチャケながら華麗なキャット空中三回転とか披露する所なんだが、文字通り『【プラーナ】を使い切った』俺には、そんな事どころか、まともに受け身を取る余裕も無かった。マジ身体動かん。
『【焦燥】マイマスター!!』
悲鳴の様なファティマの声が響く中の自由落下。地面に衝突しようかと言う瞬間、取り敢えず走馬灯でも観ておこうかと思った、その直後に身体がフワリと浮き上がる。ファティマに抱きかかえられた為だ。
が、あらやだ、お姫様抱っこじゃ有りませんか!
まぁ、それでときめく様なお花畑な精神構造なんざ、持ち合わせて無いがな。
「悪い」
『【安堵】いえ、構いません』
そう言や、オファニム•ケルブ装備のファティマは、空中機動が出来るんだったな。
てか、充填100%で、発射すりゃ、ガス欠に成って当たり前だったわ。撃った後の余力が無い状態だと、そりゃこう成るわな。
よく、アニメなんかで『充填120%!』とか言ってて、『その余剰で逆流とか誘爆とかしないんじゃろか?』とかって思ってたけど、アレはアレで意味があったのかも知れん。
少なくとも、今の俺は有余が無いからなぁ。なんか、残心を忘れてるも同然の状態な訳だ。
最近は、良い感じで余力を残せてたから、慢心してたんかも知れんな。反省反省。
そんな感じで地上に戻れば、見上げる様なアポリオンの亡骸。
「これも処理せんとなぁ」
『【肯定】新たな冒険者の需要が生まれますね。マイマスター』
あぁ、そう言う視点もあるのか。俺としては、放置もできないし、解体、埋葬に手間がかかるなぁ位の認識だったんだけど、そうか、全ての工程を自分達だけでやろうとしなくても良いのか。
ついつい、身内だけで全てを賄おうとするのは、俺の悪い癖だな。
そんな事を考えながら、亡骸をを見上げていると、アポリオンの胸部辺りがボコンッと振動する。
『【警戒】マイマスター! 私の後ろへ!!』
「まだ、動けるのか!?」
【プラーナ】を高速で循環させ、辛うじてでも動ける様に緊急回復する。
と、その胸部がベキベキと内側から破壊され、腕が生えて来る。
「ふむ、死んだかと思ったわ!!」
そう言って出て来た【人間体】のアポリオンは、自らの亡骸の胸部の上に、ドカリと座ると、呵々大笑したのだった。




