チキンレース
遅くなりました。
申し訳ない。
背部キャノンを使用する為に、アポリオンから距離を取る。
いや、確かにゼロ距離射撃とかロマンなんだろうし、下手に距離を空けると中距離での攻撃を受けるであろう事は分かるんだが、それでも、自分のキャノンの威力を鑑みる限り、巻き込まれれば命が危ないんよ。
ロマンに魅力は感じれども、ロマンに殉じる気は全く無いですしおすし。
俺が何をしようとしているか理解したアポリオンが、予想通り口から火球を吐き出して来るが、それを左右にフェイントを掛けつつ回避。
「ファティマ!!」
『【了解】サー! イエス! サー!! 【プラーナキャノン】セットアップ!! エネルギー充填、開始します!!』
アポリオンの火球で、地面が爆発し、大穴を空ける。その爆風を身に受けがらも、【プラーナ】の消費を抑える為に、兎に角、動き回る。
思った通り、火球の威力が半端ねぇ!!
これが一つでも、何処かの町やら村やらに向かったらと思うと、冷や汗が流れるわ!
流れ弾の可能性を考えると、下手にジャンプも出来ない。かなりキッツイが、発射の準備が整うまで、ひたすら走り回るしか無い。
急停止、急加速で回避しつつも、時にアポリオンの方に近付き、火球を潜り抜ける。
てか、この威力の火球を連射できるとかシャレに成らないんじゃが!?
遠距離からの攻撃に成るとは言え、命中やら射角を考えると、あまり距離は空けられない。威力が威力だ。打ち上げる形で放たないと被害が大きすぎるんだわ。
度重なるアポリオンの攻撃で、次第に足場が悪くなり、火球を避けるのがギリギリになる。灼熱が【闘神化】した俺の表面を焼き、高温の空気が喉を焦がす。
それを逐一【プラーナ】で回復させ、直撃だけは避け、走る。
脚のダメージの所為で、その場から動けないアポリオンが苛立ちと共に『グガアアアァァァ!!』と雄叫びをあげ、火球を激しく連発する。いや、本当に怪獣じみてやがる。絶対に知能指数が下がってやがるよな? これ。
直撃こそしていないものの、爆風と高温でダメージを受け、表面を焼かれ、喉が焦がされる。
それを瞬時に回復しつつ、キャノン砲を撃つ為の【プラーナ】を精製、増幅、凝縮する。
その間も、アポリオンからの火球を避け、躱し、潜り抜けながら。
今までは、ここまで激しく動き回りながら【プラーナ】の制御は出来なかった。俺とて成長はしてるのだよ!! それは兎も角……
「ファティマッ!!」
『【報告】只今、充填率は85%です! マイマスター!!』
もう、少し!! あと少しで発射出来る!!
気合を入れ直し、精製、増幅、凝縮し、循環を加速させる。【闘神体】の赤色の表面が、深い赤へと変わって行き、体表のヒビ割れの様な裂目から、赤い光が漏れ出し、脈打つ様に流動する。
と、アボリオンが、一歩踏み出した。
……動きは、遅い。完全に回復した訳じゃぁ無い様だが、しかし、確かに脚のダメージが回復しているらしいな。不味い、こちらからの命中率が低く成るのもそうだが、さっきよりも、向こうの命中率は高くなる筈だ。
チラリ、とアポリオンを見る。だが、俺にはさっきと同じ行動しか出来ない。もはや、どちらが先に仕留められるかと言うチキンレースの様相を成して来やがった。




