その時が来た
纏わり付く様に、アポリオンの死角死角へと入り込み、拳を握り込み固定し、それを体の、大きな塊の一部として、地響きを起こす程の踏み込みで相手に叩き込む。【魔神アポリオン】の脚部は、甲虫特有の弾力を持った外骨格で、かなりの耐久力があり、中途半端な攻撃だと簡単に弾かれる。だととしても、そこに突き入れるってぇ事が重要なんだわ。
怪獣だからと、セオリーが効くかどうかだとかと、色々と思考が遠回りしていた所為で、最もシンプルな方法ってのを忘れてた訳だ。
足止めをしたいなら足を潰せばよい。
腹部しか効果的な攻撃に成らないと、そこに固執しちまった所為で、体力を削るってぇ迂遠な方法を取ってた。いや、こうして、相手の攻撃そのものに、スタミナ切れの様子が見えてるんだから、決して無駄だったとは言わんし、この攻撃のキレを考えると、スタミナを奪っておいたのは正解だったとは思うが、それでも固執してたってのは、作戦としては悪い判断だった事が否めない。
中距離での攻防では俺の方に分が悪かったからこその、近距離からの攻撃な訳だから、それも間違いじゃぁ無いんだが、腹部への攻撃に固執したのがな。
相手を動けなくしつつ、最終的に時間の掛かる大技をぶち込むってのが、作戦の概要だったんだから、別に腹部への攻撃に拘らなくても良かったんだわ。
アポリオンが横薙ぎに拳を繰り出し、それをその拳に乗る事で、わざと吹き飛ばされ、スラスターとブースターを吹かして、瞬時に懐に潜って肘打を入れる。
そこに振り下ろしの一撃が来る。のをモーメントに合わせ前転して回避し、その腕を足掛かりにして飛び、延髄斬りをぶちかます。そして地面に降り、また纏わり着く様に死角へ。
思考をフラットにした事で、変な強迫観念から切り離され、リラックスした状態で攻防をこなせる様に成り、さっきまでギリギリでの攻防に成ってたのが嘘の様に、アポリオンの動きが視える様になった。
要は、アポリオンの動きの出だしや癖の予兆から、攻撃を予測して動ける様に成った訳だ。そうなれば当然、回避にも余裕が持てる様に成り、回避がし易く成なって来る。
”居付く“のが悪手だってのは分かってたが、俺はまんまと“居付い”ちまってたってぇ訳だ。
避け、流し、時に飛ばされるも瞬時に距離を詰め、蹴り、拳を叩き込み、肘打ちを入れる。その攻防を繰り返している内に、やがて、その時は訪れた。
『な、なんだ!! あ、足がっ!!!!』
あの巨体で、軽やかなステップワークを行っていたアポリオンの足捌きが、唐突に止まる。
見た目に異常は無いだろう。だが、内部はどうだ? 自分の思考が固まってたと気が付いた後、俺は、弾かれるとは分かっていてもアポリオンの脚部にも攻撃を仕掛け続けた。確かに攻撃のダメージは微々たる物だっただろう。
これが、無機質の物体だったとしたら無理だったかもしれない。だが、コイツはアポリオンと言う半分は精神生命体だったとしても、半分は物質体な訳だ。
ならば、ダメージは有効だ。俺からの攻撃のダメージの蓄積も有るだろう。だが、その大半は自身の自重の、その自重で動き回っていたからのダメージだ。その蓄積が、今、動けなく成る程のダメージを産んだ訳だ。
「さぁ、これでチェックメイトだ!!」




