意地の張り合い
昼間は時間が取れず、ここ迄で限界でした。
申し訳ない。
『ぐうおおおおぉぉぉぉぉぉ!!』
「チッ」
ここに来て、アポリオンの素早さが上がって来た。体力はかなり削れているばずだが、魔族としての意地なのか、それとも今の体型での動きに慣れてきたのか……
ただ、雄叫びを上げて気合いを入れなければいけない位には、余裕が無くなって来ているのは確かで、相当に必死なのも事実だろう。
さらに、その雄叫びが、結構な威力の圧力を持って居るってのがちょっと厄介。いや、【プラーナ】を活性化させて相殺は出来るんだが、これ、家の兵士達や、足止めに徹してくれて居た王国軍の皆さんに何かしらの影響を与えてそうなのがなぁ。大丈夫かね?
『【報告】オーサキ軍は王国軍と合流し、今はそのどちらの軍も個体名【イブ】及び聖槍と個体名【ラミアー】が【魔法障壁】及び【念動障壁】で守って居るようです』
マジかぁ。だとすれば安心か? 取り敢えず流れ弾には気を付けておこう。うん。
とは言え、余裕と言う意味で言えば、俺にだって、それ程有る訳じゃあ無いがね。
体力的に問題が無くとも、一撃でもクリーンヒットすれば不味いのは相変わらずで、攻撃力的に地道に削って行くしか無いのも相変わらずだ。
アポリオンの攻撃の速度が上がってきた事で、僅かに掠る回数も増えてきた。攻撃が掠める度に、その余波で身体を持って行かれそうになり、慌てて体勢を立て直す事に成る。
折角、苦労してアドバンテージを取ったってのに、僅かなミスも許されない状況。体格差ってのは厄介だわ。本当に!
受け流し蹴りを入れ、回避して、しきれずに立て直し、辛うじて避け、体勢を立て直し、また受け流す。
俺が中距離攻撃を持ってないのと、アポリオンの手札が分からないってぇ事も有って、白兵距離から離れる事が出来ないんよね。“ちょっと仕切り直し”が致命傷になる可能性が有るのがなぁ。
薙ぎ払って来たアポリオンの手を側転で合わせて避け、逆立ちの形になった所で体を捻って蹴りを放つ。が、その動きに合わせて回転する様にバックブローを放ち返される。それを身を屈める事で避けると、その反動を利用して、立ち上がり、バックブローでがら空きになった側腹部へ、ハイキックを食らわせる。
ズパンッ!! と言う音がして、確かに“入った”感覚は有る。だが、その手ごたえ程にはアポリオンにはダメージとしては入っていない感じがする。
アポリオンが吠え、大気が震える。
俺は、【プラーナ】の活性化で、その、恐らくデバフであろう効果を打ち消した。




