贄と言う礎
遅くなりました。
申し訳ない。
アポリオンの気配と言うか存在値の様な物が高まる。あ、これ、ヤバい奴だ。
「全軍!! 退却っっっっ!!!!」
俺の掛け声に、それでも家の軍は、ジリジリと退却を始めた。パズスの軍は、そんな事は関係ないとばかりに飛び込んで来てるけど。
アポリオンからの【オド吸収】の圧力が強くなり、ラミアーが、【念動防壁】を張った。俺や犬達も【プラーナ】を加速循環させ、それに抵抗する。
と、パズス軍の兵士達がバタバタと倒れ始めた。
「お前……」
『進化出来ない者が淘汰される……それはこの世界で繰り返されてきた真理である。そして、生命の、存在の危機こそが、進化する為の鍵の一つ!! むしろこれは福音であろうが!!』
「そう言う、つもりかよ」
そうだった!! そもそものパズスの狙いはそこにあったんだった。人類を一段階上の存在へと引き上げる。そもそも、その為の戦争なんだったわ。不安不満を蔓延させ、生命の危機に曝し他人を引き摺り落とすよう促し、恨みつらみを助長させる。
それらは全て、その為の布石でしかない。
恐らく、この戦場に連れて来た兵士達は、元々万魔殿に居た邪神崇拝者達じゃぁ無く、征服した国々に居た者達なんだろう。
明確な意思も感じられず、ただ脅える様に突っ込んで来る。百姓一揆もかくやと言う有様だったのも当たり前だ。多分、万魔殿に居る魔族の能力によって、我武者羅に突っ込んで行かなければならない様な精神状態に追いこまれているんだろう。
ギチギチと言う耳障りな”声“で、思考を戻される。辺り一面に横たわるのは、【オド】を喰らい尽くされたのであろうパズス軍の兵士達……いや、魔族等に、この兵士達が『仲間』だったってぇ認識が有ったかすら定かじゃ無いだろう。むしろ『餌』か、良くて『礎』。自分達の世界を作る為の材料の一つでしかない。
「イブ!! ジャンヌ!! 全軍に【魔法障壁】を!!」
「ん!! 【詠唱破棄】【魔法障壁】っ!!」
『【了解】【詠唱破棄】デェス!! 魔法名【魔法障壁】デェスッ!!』
まだ、辛うじて事切れて居ないパズス軍の……いや、パズス達の犠牲者達には悪いが、自分達の身を守る事を優先させて貰う。
アポリオンに向かって豪風が吸い寄せられて行く。周囲に僅かに有った草木が枯れ、犠牲になった者達の身体が塵と成って、その豪風に巻き上げられる。
この現象を俺は、俺達の家族は良く知っている。アポリオンの背後の空間が、この世界の悲鳴の様なパリーーーンッと言う高い音を立てて割れ、その罅割れた空間の先から、嫌悪感を及ぼす悍ましい気配が、この世界を汚染するかの様に覗き込んで来る。
「【邪神】……」
これが、アポリオンの切り札だってか?
ギチギチと言う耳障りなアポリオンの声が響いた。




