よその国の事情とか知らんって
ガーディアンの抜け殻は、リティシアが買い取ったていで、その金額を俺への報酬に上乗せする事で話が纏った。
いや、俺体には既に十分な報酬を貰ってると思ったので、断ろうと思ったのだが、リティシアが『ぜひとも!!』 と強い口調で言うのでかなり渋々ではあるが受け取る事にした。
まぁ、そのリティシア側の言い分に共感したって事も有る。その言い分と言うのが……
「戦争の開始を遅らせたい?」
「戦争と言い切ってしまうのも御幣が有るのですが、まぁ、有体に言ってしまえばそう言う事なのですわ」
今回、彼女が遺跡の探索を急いだ理由も、そこにあったらしい。
聖王国周辺は、貧富の差が激しい小国が多く、小競り合いが絶えないらしいのだが、しかし、それにした所で、水源の取り合いやら肥沃な土地の取り合いやらが原因であって、例えば、水路を整備したり、土地の改良やらをすれば多少ではあれば改善できる問題でもあるらしい。
まあ、当事者同士だと、かなりの死活問題だし、水路やら農地やらの整備改良なんて、相応の国力が無ければ現実的じゃあない。
そもそも、その辺りが戦場に成ったりしてるんだから、落ち着いて開発出来るかって話だよな。
なら、奪い取るのが手っ取り早いって考えになるのは、人間の業か、短絡思考の行き着いた先か。
で、その戦争で金欠になって、さらに奪うしかなくなるて、アホじゃなかろうか?
そんな周辺諸国の状況を憂いた聖王国は、小国の平定にのりだすことにした……らしい。
うん、まぁ、体の良い侵略侵攻だよな。
だって、その周辺諸国にしたって、例えば聖王国が仲介して技術を伝えて、和睦に持って行く事だって可能っちゃ可能なんよ。
聖王国には、それだけの力も技術力もあるんだからさ。
ただ、それをやったところで聖王国には旨味なんて何も無いからやらないってだけだ。
だったら草民の憂いを断つとかって理由で、大義を掲げての侵攻の方が、ナンボか利があるんよね。
ただ、それに異を唱えたのがリティシアパパで、態々戦争なんて起こさなくても、技術供与や人道支援で真綿に包むように懐柔し、実質属国化をすれば、戦争で無駄に国費を使わないで済むと主張してるんだそうな。
実質侵略するてのは変わらんのな。
まぁ、そもそも、周辺諸国の小競り合いのせいで、治安が悪くなっていて、野盗やらが多いせいもあって商人とかが困ってるし、同じ理由で貿易にも支障が出てるらしいんだから、この対応も仕方ない事なんかも知れんがね。
まぁ、そんなんだから国民感情は最悪だし、そろそろ爆発しそうだからと、戦争なりなんなりを急いでいたらしい。
それでも、ダンジョンで何か成果が上がれば、それは国民にとっても明るいニュースになるし、それで憤懣を抑えつつ、成果を持って発言権を強化したかったんだと。
で、今回。戦争に直で使えそうな技術と言う成果。それも都合の良い事に制御系が丸々無いと言う。これを餌として与えつつ、解析させる事で時間を稼ぎ、素材の確保と言うていでの買い取りをした実績を持って予算の計上と増額申請をしつつ、戦争予算を削り、その間に国民感情を何とかしたいと言う事なのだ。
まぁ、色々考えるなぁと思うし、全てが上手く行くとは思わんが、その努力は買いたいとは思う。
特に戦争回避って所はな。
そんな訳で今回は素直に報酬を受け取る事にしたわけだ。
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ふおおぉぉぉ!!!!
飛空艇や!! 飛空艇なんや!! これで燃え上がらん訳にいらりょうかっ!!
男の子の夢、ファンタジーの代名詞、飛空艇ですわよ、奥さん!!
帆の無い帆船の様な形状で、四方向に多重プロペラが設置されている。あれって確か同じ方向だけに回転してると船体自体が回転するからだったけ?
航空力学的に考えればラグビーボール型の方が正しいにも関わらず、敢えての船型!
空と書いて海と読む様な、その厨二魂がたまりませんなぁ。
「う、うぬ、オヌシ様がそこまではしゃいでくれるとは、思わなかったのじゃ」
ドン引きした感じでエリスが言うが、今の俺はそんな些細な事など気にならない程昂っていた。
前世でもなんか空を飛ぶ事に憧れはあった。実際、気球に乗ってみたり、パラセイリングをしてみたり、バンジージャンプをしてみたりしたもんだが、その度に思った物だ『あれは良いものだ』と。
「なぁ、なぁ、これっていつでも乗れるようになったのか?」
俺がそう言うとエリスは首を横に振った。
「ダンジョンのエリアマスターとの取引で、少しの間借り受けただけなのじゃ。この飛行が終われば返さねば行かんのじゃ」
それを聞き、俺は眉を顰めた。自由に飛空艇に乗れないからじゃない。いや、それも少しは有るんだが、そうではなく。
「その取引ってのの成果だって言うのに、俺を迎えに来るだけに使っちまって良かったのか?」
俺の言葉に、エリスがニコリと笑う。
「構わんのじゃ、そもそも、飛空艇を借り受けた理由がオヌシ様を迎えに行く為なのじゃ」
うん、流石にちょっと申し訳なくなったわ。
エリアマスターってアレだろ?あの最初の“扉”で俺達に警告して来たエリアのマスターって事だろ?
何を取引に使ったかは分からんが、結構、警戒心の強い相手に思えたんだが?
そんな相手にこの短時間で警戒心を解いた挙句、どんな取引をしたんだか。
俺が難しい顔をしていたのを見たエリスが、今度はニンマリとした笑みをつくった。
「うぬ、オヌシ様がこの事に対し、感謝していると思うのであれば、一つ、お願いを聞いてもらいたいのじゃ」
「……いや、感謝してるのはしてるんだが、……結婚云々はちょっと……」
「こんな取引のような形で伴侶に成っても空しいだけなのじゃ。オヌシ様にプレゼントしたい物が有るので受け取って貰いたいと言うだけの事なのじゃ」
いや、迎えに来てもらった上に、プレゼントとか、逆に申し訳ないんだが?
そんな俺の表情を読んだのか、エリスがさらに言い募った。
「そもそもオヌシ様には国を救って貰った恩を返し切れておらぬのじゃ、これもその一環じゃと思ってくれ」
俺としては、半ば自分の不始末を自分で解決したってだけなんだがな。それに、国宝のハズの聖武器2体と、その聖武器の作ったアーティファクトも、こっちで預かってる様なもんなんだから、それで十分な気がするんだが……あ、そういや聖犬も追加だったな。
だが、それくらい恩に感じてると言う事でもあるんだろう。
「分かった、一応、貰う事にする」
「そうか!! 良かったのじゃ」
ホッと安堵の息を吐くエリス。まぁ、俺の性格を知ってれば「要らん」の一言で済まされる事も有るって分かるだろうからな。
「で? 何だ、プレゼントって」
「うぬ、伯爵位じゃ!!」
あ?




