老骨が鞭打って
色々とありました。
具体的に言うと、立ったまま寝落ちしそうになってました。
いえ、遅くなり申し訳ない。
色々と覚悟を完了した、丁度その時、俺の背後から、やけに響く声で号令が発せられた。
「今だあぁ!! 突撃しろおぉ!!」
五月蝿ぁ。大声が出せる事も、軍の上官の才能の一つだと言うけど、こういうのを見ると、納得出来るわ。
それは兎も角、マデルマリート王国軍の突撃の号令をかけたのはイワンス将軍。
判断としては分からんでもない。趨勢が決まったってぇ事は、つまりは、後は撤退する相手を追撃するだけってぇ事では有る。
ただ、今回の場合は、まだ早計なんだってばよ! 何せ、パズス軍の将は、まだ撤退の命令を出してないんだからなっ!
そして、パズス軍の兵士も、普通の兵士じゃぁ無い。
つまりそれは、マデルマリート王国軍とパズスの軍が再び激突すると言う事に他ならない。
いや、これはこの判断をしたイワンス将軍は責められないのか? 普通なら、趨勢が決まった、負けたと思った所に後詰めの兵からの追撃が掛かれば、怯んだり、恐怖に負けて、逃げ出すものだからな。
ただ、今回のこれが早計だったのは、相手が、怯んだり恐れたりなんて事なんざしない、普通と言う範囲から外れた相手だったってぇ事と、その将が単体で、状況をひっくり返せる力が有る輩だったってぇだけだ。
パズス軍の撤退の命令も無いから、そのまま、再び激突する両軍。俺達の家族が、突出して活躍しちまったからか、武功を挙げるべく、マデルマリートの隊長達が、我先にと突撃しちまった為に、敵味方が入り混じっちまった事で、逆に俺の家族達が手を出せなくなった。
いや、“大規模な”攻撃が出来なくなったってのが正しいか。
犬達やファティマ、ネフェル王女なんかは個別に倒す方にシフトしたし、イブとジャンヌは、大規模魔法を控える様に立ち回ってくれている。
拙いね、俺がフォルネウスを抑えて居る以上、マデルマリート軍有利は覆らなくても、無駄に犠牲が増えっちまう。
そう成ると、今回はパズス軍を退かせる事が出来たとしても、マデルマリートの国力的に余力が無くなっちまうだろうよ。
「はは!! 見つけたぞ!! コイツが大将だな!! その首、このマデルマリート国王将軍、イワンス・カガラノミスが打ち取ってくれよう!!」
って、うぉおおおおいいいいいぃぃぃぃぃっ!!!! 何でこっちに突っ込んで来るんよ将軍さんよぉ!!!!
イワンス将軍、供回りなのか10騎程の騎士と共に、俺とフォルネウスが戦ってる所に突っ込んで来ている。
いや、俺達の周囲にぼこぼこ開いてるクレーターやら、地に伏してる兵士とか見えんのか!?
これだけでもこの場が危険だなんて事理解出来そうなもんだろうが!!
「ほほう? 将軍とやらが、わざわざ向こうから来てくれるとはな!!」
おおう、フォルネウスにロックオンされちまったじゃねぇか!! この爺さん、自分が重要な地位に居るって自覚は有るんかっ!?
あーいや、理解は出来る。理解は出来るんだ。本当は俺の力を借りるのも、手柄を渡すのも嫌なんだろう。
だから、俺の戦ってる所に割り込んで、自分の手柄にしようとかって思ってるんだろうさ!! けど、そんなもん、自殺行為にしか成らんのじゃ!!
思考こそ並列で処理して、アレコレと考えながら戦っちゃ居るが、こうしてる間も音の速さすら超越しつつ攻防を行ってるんじゃぁ!!
いくら将軍ったって、普通の人間が割って入るとか出来んわ!!!!




